「NEXT GENERATION NEXT CREATION」特集 箭内道彦×アタル(ハシリコミーズ)×有馬彩創(東京藝術大学)×福井尚基(サンヨー食品)インタビュー|「大人みたいなことはやらないでほしい」カップスターが若い才能たちに託す音楽&映像プロジェクト

サンヨー食品「カップスター」による音楽と映像のプロジェクト「NEXT GENERATION NEXT CREATION」をご存知だろうか。

「NEXT GENERATION NEXT CREATION」は、箭内道彦率いる東京藝術大学美術学部デザイン科第2研究室Design Alternative所属の4名の学生監督が、4組のバンドとコラボレーションし、1曲ずつミュージックビデオを制作するプロジェクト。各楽曲の尺は、カップスターにお湯を注いでからできあがるまでの時間と同様に3分となっている。参加バンドは、神はサイコロを振らない、ハシリコミーズ、ASTERISM、fusenの4組。それぞれのMVを山城浩平、有馬彩創、園田健二、小澤良奈という学生監督4名が手がけた。

音楽ナタリーでは「NEXT GENERATION NEXT CREATION」のために新曲「本当の綺麗がわからない」を書き下ろしたハシリコミーズのアタル、同楽曲のMVを監督した有馬、プロジェクト全体のディレクションを担当する箭内、そしてサンヨー食品の宣伝部長・福井尚基氏の4名にインタビュー。カップスターが「NEXT GENERATION NEXT CREATION」を立ち上げた経緯や、「本当の綺麗がわからない」MVの制作エピソードなどを語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽

「NEXT GENERATION NEXT CREATION」

音楽と映像を自らの手で作り上げる、若く瑞々しい才能たちのつながりと刺激によるクリエイションプロジェクト。箭内道彦率いる東京藝術大学 美術学部デザイン科 第2研究室 Design Alternative所属の4人の学生監督と、4バンドがコラボレーションしてミュージックビデオを制作する。コラボ楽曲の尺は、カップスターにお湯を注いでからできあがるまでの時間と同様に3分。

参加アーティスト / 監督

ASTERISM × 園田健二
「カップスターの唄 ~ASTERISMより愛を込めて~」
神はサイコロを振らない × 山城浩平
「夜間飛行」
ハシリコミーズ × 有馬彩創
「本当の綺麗がわからない」
fusen × 小澤良奈
「星の名前」

“これから”の若い人だけで勝負しましょう

──まず、この「NEXT GENERATION NEXT CREATION」プロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

福井尚基(サンヨー食品) カップスターという商品が発売されてから今年でもう48年目と、けっこうなロングセラーになるんですね。ただ、今の若い世代の方々にとっては、名前は知っていても実際にはなかなか手に取らないもので、パッケージも知らない、食べた経験も少ない、知っているのは名前だけ……といった状況にありまして、これはちょっとまずいなと。若い方々にこそご愛用いただきたい位置付けの商品になりますので、次世代の方々を中心にコミュニケーションを今一度取り直して、商品自体を見つめていただく機会を作れたらな、というのが発想のスタートでした。

左から有馬彩創(東京藝術大学)、アタル(ハシリコミーズ)、箭内道彦、福井尚基(サンヨー食品)。

──実際、若い世代であるアタルさん、有馬さんのお二人の実感としてはいかがでしょう。カップスターはあまり身近な存在ではなかった?

アタル(ハシリコミーズ) うーんと……。

箭内道彦 正直にね。

福井 はい、率直なところを伺えたほうがこちらとしてもありがたいので。

有馬彩創(東京藝術大学) コンビニとかの店頭で見かけたことはもちろんあって。僕はバットマンが好きなので、そういうコラボ商品などの存在は頭にありましたけど、確かに実際に手に取ったことはあまりなかったかもしれないです。

──食べたことは?

有馬 食べたことはあります。

──存在は認知しているけど、特別思い入れのあるブランドでもないという感じですかね。

有馬 すごく正直に言ってしまうと、そうなりますね。

福井尚基(サンヨー食品)

福井 実際そうだと思います。そうした状況を受けて、3、4年前くらいからですかね、カップスターとしてはしばらく広告も打っていなかったのですが、ひさしぶりに広告を入れ始めまして。女性アイドルの方やお笑い芸人さん、ヒップホップのアーティストといった方々とご一緒させていただくことで、いろいろな層の若い方とコミュニケーションを取るためのチャンネルを開いていく方向性でプロモーション展開をしてきたわけです。

──東京03と乃木坂46によるコント仕立てのコンテンツなどですね。

福井 その中で、博報堂さんから「新しく音楽のプロジェクトを立ち上げませんか」というご提案をいただきまして。そこに箭内さんが関わられることになった経緯は存じ上げないのですが、実は僕自身、20年くらい前にも箭内さんとお仕事をご一緒させていただいたことがあるんです。

箭内 調べたら、23年前でした。

福井 23年前でしたか(笑)。その当時もやはり、それまでと違ったターゲットの方々の間で話題になるようなCMを制作していただいたんです。

──それがあの、吉田拓郎さんを起用したCM?

箭内 そうそう、拓郎さんの。そうです。

福井 そのほかにもいろいろなものをやっていただき、すごく刺激になった記憶がありまして。そういったご縁もありつつ、今となっては当時以上に大物になられている箭内さんと再びご一緒できるというのは大変ありがたいお話だなと。

箭内道彦

箭内 いや、そういう福井さんも当時は血気盛んな若手社員だったのに、今や宣伝部長になっているわけですから。今回、僕に「芸大の若い才能と何かやりたい」と声をかけてくれた博報堂の営業局長もそうですよ。昔は一緒になってやんちゃしていた連中が、うれしいやら悲しいやら、みんな偉くなっていて。23年前は僕のアイデアを通すために上と戦ってくれていた福井さんが、今や上司の立場になっている……まず、そういう物語がキュンとするじゃないですか。当時の僕らは、まさに彼ら(アタルと有馬)のような感じだったわけですよ。

福井 ははは(笑)。確かにそうですね。

箭内 拓郎さんと一緒にやったカップスターのCMから学んだことはすごく多くて。そのほかにも「バソキヤ」というカップ焼きそばだったりとか、いろんな商品の広告をやる中で実験的なことばかりさせてもらえて、そこで思い切った表現にチャレンジできたことで自分も新たなステージにたどり着けた。だから今回も、若い力と若い力がぶつかることで同じようなことがまた起きるんじゃないかという予感があるんです。最初は「1組くらいは誰もが知ってるバンドを入れたほうがいいかも」という弱気な意見も出たんですけど、福井さんが「絶対にダメだ」と。「とにかく“これから”の若い人だけで勝負しましょう」と言ったんです。

2番手3番手ならではの戦い方が必要

──サンヨー食品という企業自体に、そういう挑戦的なことを是とする風土があるんでしょうか?

福井 商品にもよりますね。今までのお客様を大事にする方向性もあれば、新規獲得を重視する方向性もあって。新しいほうを取っていくためには、やはり新しい世代の中での価値観であったり、僕らには全然理解できないコミュニケーションの在り方、話法といったものが必要になってくる。それは僕らの世代には作り出せないものなので、ターゲットとする層と同じ世代の方々にある程度お任せして、彼ら同士でいいコミュニケーションを取っていただくことが新たなコンシューマーを広げることにつながるわけです。

左から有馬彩創(東京藝術大学)、アタル(ハシリコミーズ)。

──自分たちですべてをコントロールしてしまうと想定できる範囲にしか届かないから、裾野を広げるためにはコントロールできない部分が重要になってくると。

福井 そうです。もちろんこれはお仕事なので、最低限のトンマナはこちらでガイドしなければいけませんけど、そこであまりガチガチにやってしまうと萎縮したものしか出てこないですし、それでは質のいいコミュニケーションは生まれないだろう、という考え方ですね。

箭内 そういう雰囲気を、福井さんの周りの方々からも感じますね。「お任せする」という言い方だと少し言葉として弱いかもしれないですけど、「託す」というか「信じる」というか、「Just Do It!」みたいないい突き放し方をしてくれています。現場に対して「あれはダメ」「これはダメ」と言ってくることが全然ないんですよ。すごい会社だなと思います。

──なかなかそんな企業はないですよね。

箭内 それもこれも「サッポロ一番」という確固たる国民的なブランドがあるからでしょうね。そっちに安定した基盤があるから、そことのポジショニングの違いで「こっちは思いきり攻めていこう」という姿勢になっているんだと思います。

福井 忸怩たる思いはあるんですけども、やはりカップ麺業界においてカップスターが2番手3番手というところにいることは事実なので、そのポジションならではのコミュニケーションを取っていく必要があると考えています。横綱相撲を取れる立場だとは僕らも思っていませんで。

ハシリコミーズの佇まいに惹かれた

──そして今回「NEXT GENERATION NEXT CREATION」プロジェクトと題して、気鋭の4バンドが新曲を作り、箭内さんの研究室に所属する4人の学生がメガホンを取って各曲のミュージックビデオを撮影しました。神はサイコロを振らない、ハシリコミーズ、ASTERISM、fusenという4バンドの選定はどのように行われたんですか?

ハシリコミーズ

箭内 僕はこれまでに音楽の仕事を長くやってきているので、業界に同志がたくさんいまして。「あの人に連絡すれば未来のすごいバンドを紹介してもらえるんじゃないか」と思い浮かぶ人が何人かいます。その1人であるUK.PROJECTの北島健司さんに電話したところ、そこで真っ先に「いますよ!」と名前が挙がったのがハシリコミーズだったんです。それで曲を聴いてみたら「これはすごいな」と思いまして。歌ももちろんいいんだけど、まずこの佇まいが最高にいいじゃないですか。やっぱり面白いことをやる人って面白い人だから、彼らとなら一緒に面白いことができそうだなと思いましたね。

アタル お話をいただいたときはびっくりしました。「どうして自分らに?」と最初は思いましたけど、めっちゃうれしかったです。

箭内 MVを監督した有馬も同じように……彼は今大学院の1年生なんですけど、入学してきたときから「面白い空気感の若者がいるな」と思ってたんです。ハシリコミーズにはその有馬と波長が合いそうな雰囲気を感じました。組み合わせたら何か新しいものが生まれそうだなと。

──ということは、監督の人選は研究室内でのコンペとかではなく、箭内さんが直接指名した形なんですね。

箭内 そうです。学生の中からこのプロジェクトに合っている人間を、合っているバンドに組み合わせたっていう。