Crystal Lake「HELIX」発売記念 Ryo(Crystal Lake)×Masato(coldrain)×Koie(Crossfaith)|「自分たちのやってきたことを文化にしなきゃいけない」ワールドワイドに活躍する“3C”が生み出し、受け継ぐヘヴィミュージックの遺伝子

「HELIX」はストレートさの宝石箱

Ryo 今コイちゃん(Koie)が言っていた、人がどれだけ根源的な感情を解放できる音楽なのかっていう部分は3バンド共に共通している気がしていて。

Koie(Crossfaith)

Koie 確かにそうやな。「どうやって(シーンを)ひっくり返してやろう」という意識よりも、やりたいことや表現したい感情に一切嘘をつかないことが大事やと思う。それこそCrystal Lakeの「HELIX」を聴いても、そういうストレートさが宝石箱みたいに詰まってるアルバムやと感じて。そもそも「何かをひっくり返す」っていう考えがなかったからここにいるんやな、って改めて実感できると言うか。俺たちは例えば日本語で歌うこともしてこなかったし、安易なことは一切やってこなかったバンドたちやと思うんですよ。その試行錯誤の結果、さっきRyoが言ったように最終的に自分の感情を素直に表現したときに一番幅の広い音楽性になっていくっていうのが面白くて。

──そういう意味で言うと、今回の「HELIX」はメタルとハードコアに限らない要素もより一層自由に取り込んでいる作品だし、ヘヴィな音楽が好きじゃない人にもリーチできる楽曲も大盛りですよね。例えば「Just Confusing」ではグライムの影響もトラップ以降の歌も両方感じさせるのが面白い。

Ryo それも、自分たちが聴いてきたものを自然と入れられた感覚なんですよね(笑)。だから逆に言うと、特にヘヴィな曲に一番影響を受けてきた1990年代や2000年頭のヘヴィロックやハードコアの要素をリバイバルとして入れることもできたと思うし、よりアンダーグラウンドなブラックメタルやデスメタルの要素も散りばめられたと思う。それは無理して出すものじゃないんだなって実感できたのが大きいんですよ。今までは「ここでこの要素を入れたらこうなるんじゃないか」みたいな作業もあったけど、そうやって足し算で考えていくと言うより、鎧を脱いだ形で入れられた感覚が強いんですよね。ヤバくするためにどうするかって言うより、好きなものを合わせたら自然にヤバくなったって言うか。例えば「Just Confusing」みたいな曲は、今までだったらいろんな人とコラボしてリミックスとして収録してきたものなんですよ。だけどそれをアルバムの本編として形にできたのも、俺の感情の起伏を本当の意味で自然に表現したいと思えたからなんですよね。

──なるほど。音楽的なヤバさ以上に自分をそのまま表現することに向かった結果として、歌の表現が自由になったと。

Ryo そうですね。「自分自身の喜怒哀楽をどうしたら表現できるのか」。そこにボーカリストとして向き合った。バッとキレる瞬間もあれば、どうしようもなく悲しい瞬間もある。だから「ラップをやってみた」と言うより、もっと原始的な感情表現が出てきた感覚なんですよね。

怒りやネガティビティを吐き出すことでポジティブなエネルギーに転換したい

Koie Crystal Lakeの打ち出し方がだんだんカルト的になってきた気がするんですよ(笑)。Ryoはさわやかで明るく見えてますけどこの歌の内容見たら真っ暗じゃないですか(笑)。

Ryo はははは(笑)。

Koie そういうリアルな姿が出てきたときに、Crystal Lakeにハマってしまったら抜け出せないだけの深さが生まれたんやと思うし、幅広いけど、それ以上に深いものを1枚通して感じさせるアルバムやと思った。

Masato 俺が面白かったのは、「Apollo」がラス前に入ってるからラスト曲は宇宙みたいな世界観に行くのかな?って思ったら、墜落するような曲で終わるの(笑)。洞窟を作って、そこに住み始めた、みたいな(笑)。

──まさにラストの「Sanctuary」は、苦しみや死を思いながら心の安住を探し求めていく内容になっているわけですが。

Masato 世界観がどんどん泥まみれになってきた作品だよね。

Ryo もうね、まさに2人が言った通りで(笑)。これまで宇宙的なものをつづることが多かったですけど、今回はより一層内面的なものを曝け出した感覚があって。自分はなぜこんなに叫んでるんだろう?って根本を考えたときに、「怒りやネガティビティを吐き出すことでポジティブなエネルギーに転換したいんだ」って改めて実感したんですよ。

Ryo(Crystal Lake)

──なぜ叫ぶ理由を改めて見つめ直したんだと思います?

Ryo 海外ツアーで「結局歌は感情をどれだけ乗せられるかなんだな」と実感して、それに伴って、最近の音楽自体に対して、吐き出したり、根源的な感情に働きかけるパワーが薄れていると感じることが多くなったんです。だからこそ、自分の感情に正直であろうっていう気持ちが出てきてしまいましたね。実際、今回の歌詞って半分以上がキレてるものだと思うんですけど(笑)。例えば「ウゥッ!」っていう呻き声を入れたりしてるんですけど、それは、よりプリミティブで根源的な感情として出したかった。そういう根源的な感情に働きかけるのが音楽自体のルーツだと思うし、そこに立ち返っていった気はしますね。

ダボパンもスキニーも両方履いたことある世代

──やっぱりヘヴィロックにしろスクリーモにしろメタルコアにしろ、普段は出せない感情の暴発、あるいは倒錯してこんがらがった感情も一緒くたにして表現できる音楽だと思っていて。

Masato うん、うん。そうだよね。

──だからこそ最近では特に、感情の暴発手段としてメタルコアからダンスミュージックに接続するバンドも増えたと思ってるんです。そういう点では、お三方がこういうヘヴィで極端な音楽に惹かれてきたのはどうしてなんだと思います?

Koie 昔から人と一緒が嫌やったっていうのが大きいんかなあ。学校ではクールな存在になれなかったから、クールなやつらに対する反発もあってどんどん天邪鬼になっていって。そこから、こういうヘヴィで叫んでいる音楽を聴くようになっていったんです……当時Maroon 5とかね、「メロディええけど腹立つな!」みたいに思ってたから(笑)。でも、そういう捻くれた感情がロックの根っこの部分やんか。それは今でも思ってるし、それが自分の音楽のエネルギーとして変らんところやと思う。

Masato そうだよね。そもそも俺らの世代も、メロコアが流行ってるのを見て悔しかったし、そこに勝負を挑んでもボコボコに負けたところが始まりだった。やっぱり日本のメロディックパンクのバンドは汗臭いし全力だし、間違いなくライブがいい。そこに対してヘヴィさで勝つにはどうしたらいいのか?って考えた結果、上の世代で育まれた熱さをヒントにしてきたというのは間違いなくあったんですよね。それが俺ら世代のよかったところだと思うし、もっと言えば日本の環境はすごく恵まれてる。日本のバンドのテンション感って海外にはないものなんですよ。海外では売れれば売れるほどクールになって行くのがロックスターとしてカッコいいものとされてる。例えば海外に、ホルモン(マキシマム ザ ホルモン)くらい地位をや人気を確立しているバンドがいたとしたら、あんなに汗臭くて全力のライブをはしないはず。だけど俺らには培ってきたテンション感や泥臭さがあるし、天邪鬼なところから始まってメロコアにカウンターを打とうとした俺らだからこそ獲得できたもので、それは間違いなく武器になってるよね。

Koie どれだけネガティブな感情を吐き出したとしても、そのアグレッションでポジティブなものに変換していくことができるっていうのが、Crystal Lakeの「HELIX」を聴いてても思うことだよね。ただただ暗いだけじゃない、もっと真面目にその暗さを変換して生きていきたいっていう気持ちで音楽をやってるのが俺ら3組な気がする。

Masato そうだよね。DeftonesとかKornがどうして暗い曲を書いてるのか、逆に全力ポップなやつがなぜ全力ポップな曲を書いてるのか、その両方を理解できる世代だと思うんですよ。

──耕されていない日本のラウドミュージックで戦うためにはダークネスとポップネスの両立が必要だったからとも言えますよね。

Masato そうそう。何世代って言ったらいいんだろうね? 「ダボパンもスキニーも両方履いたことある世代」? 

Koie ははははははは! それや(笑)。

Ryo でも、そうですよね。ヘヴィな音楽って、まさにこんがらがってたり、いろんな感情がグチャグチャのまま表現できるものだって俺も思うんですけど、最近のいわゆるヘヴィな音楽ってすごく表面的なものになってきてる気がするんですよ。結局カッコいいと思えるラウドな音って、ネガティブな感情をどれだけ研ぎ澄まして吐き出せているかだと思うんです。最近で言ったらCode Orangeみたいなバンドは黒い感情を磨きまくってピカピカにしてるっていう感覚を覚えるんですね。ラップで言っても、セルフボーストして強く見せているラッパーよりも「自分はダメだ」って吐き出しているエモラップが増えているのを見ると、より感情的なものとして心に響くものが今求められているっていう気がしてて。そもそもそういう表現こそがずっと必要なものじゃないですか。

Koie 最近で言ったらCode Orangeが出てきたことで、フォロワーもたくさん生まれ始めている。だけど結局、あとに続くものでもジャンルでもなく、誰がそこで何をリアルに表現するかっていうことこそがムーブメントになっていくわけやから。