ナタリー PowerPush - Crustacea×茅原実里
大先生&みのりん コラボの歴史
全曲歌ってやろうと目論んでたんですけど
──今作はCrustaceaが茅原さんの楽曲をカバーしたアルバム「Unification」シリーズの第3弾となりますが、3作目にして満を持しての“ご本人登場”というのはどのようないきさつで?
室屋 元を正せばこのプロジェクトは、斎藤さんからの「茅原実里の新たな一面を開拓する、ボキャブラリーのひとつとして協力してほしい」という声でスタートしているんですよ。僕としても「これは僕らのアルバムです」と言ってドンと出すんじゃなく、茅原さんを応援するために、コアなファン層以外のところにも茅原さんの音楽が届くようにという気持ちがあったんです。とはいえ一番のリスナーは茅原さんのコアなファンですから「1曲ぐらい本人の歌も入れましょうよ」っていうお話はずっとしてたんですけど、単純に茅原さんが忙しくてタイミングが合わなかったんですよ(笑)。
──それで3作目にしてついに念願叶ったと。ですが、普通はこういう作品の場合、本人が歌うのは10曲中で多くて2、3曲といったところだと思うんですけど……10曲中8曲歌っていて、かつ1曲は本人書き下ろしのオリジナル曲って、ちょっと珍しいですよね(笑)。
室屋 でしょ? なのにこの人、最初は「10曲中10曲歌いたい」って言ってたんですよ。
茅原 全曲歌ってやろうと目論んでたんですけど(笑)。
室屋 きっかけの話で言うと、「Unification 3」の前にファンクラブライブが決まってたんだよね。
茅原 ファンクラブがスタートして5周年なので「一番やりたいことをやろう」という話になったんです。それで、私が今一番やりたいのはCrustaceaさんとのコラボライブだったので。
室屋 その流れの中で、じゃあ「Unification 3」を作ればきれいな流れができるよね、と。
すごく自由だし、みんな楽しそうで
──ではこの場で改めて、大先生を前にCrustaceaの魅力を語っていただきましょうか。
室屋 あ、それ訊きたい。
茅原 難しいなー(笑)。Crustaceaの2ndアルバム「未だ降りつもる雪」が出たときに、「アルバムができたから」ってCDをいただいたんですよね。大体それまではインストのアルバムなんて聴いたことがなかったですから。インストに興味を持ったことすらなかったのですよ。
──元々B'zと尾崎豊で音楽に目覚めた人ですからね(笑)。
茅原 オルゴールとかは好きだったんですけど。でもそのアルバムが本当に素敵で。それでライブにも行かせてもらったのですけど、これがもう……なんですか。……なんですか?
室屋 こっちが訊きたいですよ。なんですか?
茅原 あははは(笑)。ライブを観ていたらホントにもう、固まってしまって。涙も出てくるし。えらい顔してたって言ってましたもんね。
室屋 客席の間を通って楽屋に戻らなきゃいけない会場だったんですけど、ちらっと顔を見たら「……お腹痛いの?」みたいな。
茅原 そんなに!? 感動したんだよー。「うまい」って言うとすごく軽々しくなっちゃうけど……うまい上にちゃんと心がこもっているというか。それでいてMCになるとウダウダする感じ(笑)。そこがまた良くて。
室屋 うらやましいところもあるんじゃないですかね。ある意味趣味的にやってる感じというのが。仕事は仕事でそれぞれ別でやりながら、気が合う仲間でライブやって、別にこれで食っていこうとか考えてない感じが。リハも特にやらずに、本番もなんの決め事もなく「じゃあこの辺でMC」みたいな。
茅原 うん。すごく自由だし、みんな楽しそうで。「あ、音楽ってこういうこと?」って気付かせてくれたみたいな。そういう感動をライブで受けたのも大きかったですね。
余裕がある音域の中で、よりエモーショナルに
──先程の「茅原実里の新たな一面を開拓する」という部分について、室屋さんをはじめCrustaceaの皆さんがどのように考えたのか聞かせてもらえますか。
室屋 僕らのように、音楽がやりたくてまずはバンドをやって、みたいな道を通っていれば普通に経験しているであろうことを、彼女の場合は経験していないわけですよ。セッションする感覚がないわけ。歌手を志してオーディションを受けて……歌うときは常にひとりなんですね。今はバンドの演奏をバックにステージに立っているけど、やっぱりセッションの根本的なところが、多分彼女の中にはまだないんだと思うんです。そこをなんとか、彼女が信頼してくれているこのメンツでね(笑)、作り上げていけばきっと温かいものができるんじゃないかと。同時にセッションする楽しさの根本を、うまい具合にアルバムとして形にできたらいいなと考えてましたね。
──レコーディングも、きっとこれまでとはまるで違うものだったでしょうね。楽曲のアレンジに関してはいかがですか?
室屋 通常の茅原さんの楽曲だと、まずは打ち込みのトランスサウンドが軸にあって。歌の表現としてはかなり上のキーまで、ギリギリのところまで出すということが多いだろうから、今回は余裕がある音域の中で、よりエモーショナルに、心が伝わるものにしたかったんですね。歌にも“ゆらぎ”が欲しかったんですよ。演奏もクリック(テンポを一定にするためのリズムの目安音)を使わずに「せーの」で録って。
茅原 レコーディングはすごく過酷でした。1曲録るのに6時間ぐらいかかった曲もありましたし。普段ならメインパートは1時間ほどで録り終えて、そこからハモやダブルを重ねていくんですけど、歌1本で6時間というのは未体験でした。
室屋 今は技術が発達して機械の上でできることが増えたでしょ? ピッチが少しずれたぐらいならあとでいくらでも合わせられるし。だけど僕は今回、それを一切使いたくなかったんです。理想は2、3回歌って終わるのがベストなんですけどね。声も枯れちゃうし。でも、彼女のリアルな声をそのまま録ろうと思ったら、そのぐらいかかっちゃったんです。つまり昭和みたいなことをやったってことですよ。なので6時間かかっちゃった……って言っちゃうといつもがダメみたいに聴こえるかもしれないけど(笑)。
茅原 あははは、ダメじゃん(笑)。
室屋 あとボーカルも楽器の一部というか、全体的なサウンドの中に取り入れることを意識しましたね。そこも普段のソロとしての立ち位置とは違うんじゃないかな。
- ニューアルバム「Unification3 Melody feat. Minori Chihara」 / 2012年12月26日発売 / 3000円 Lantis LACA-15266
- ニューアルバム「Unification3 Melody feat. Minori Chihara」
収録曲
- TERMINATED
- Dream Wonder Formation
- Celestial Diva
- Melty tale storage
- 純白サンクチュアリィ
- Lush march!!
- everlasting...
- 蒼い孤島
- Say you?
- 枯れない花
Crustacea(くらすたしあ)
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校で出会った室屋光一郎(Violin)と向井航(Cello)が2006年に結成したインストゥルメンタルユニット。クラシックをベースとした新たなサウンドアプローチを得意とし、2006年6月に1stアルバム「偉大な芸術家への挑戦」、2009年9月にはアルバム「未だ降りつもる雪」を発表。のちに阿部篤志(Piano)を迎えた3人編成となった。室屋は声優アーティスト茅原実里の作品やライブにも多く参加しており、2010年4月には茅原の楽曲をCrustaceaがカバーしたアルバム「Unification ~Melody from Minori Chihara~」、2011年2月にはその第2弾「Unification2 Melody from Minori Chihara~nostalgia~」を発表。2012年12月26日にリリースされた第3弾アルバム「Unification3 feat. Minori Chihara」には茅原本人もボーカリストとして参加している。
茅原実里(ちはらみのり)
2004年4月にテレビアニメ「天上天下」棗亜夜役で声優としての活動を始め、同年12月にはアルバム「HEROINE」で歌手デビュー。2006年4月より放送されたアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門有希役で一躍注目を浴び、平野綾、後藤邑子と共に歌った同アニメのエンディングテーマ「ハレ晴レユカイ」は大ヒットによりゴールドディスクに認定された。2007年1月にはLantisより発売されたシングル「純白サンクチュアリィ」を契機に、本人名義による音楽活動を再開。以降、アニメソングを中心とした楽曲を数多く発表し、声優アーティストとして高い評価を集める。2010年5月には初の日本武道館ワンマンライブを大成功に収め、2011年3月には「第5回声優アワード」歌唱賞を受賞した。2012年2月にはアルバム「D-Formation」を発表。10月24日にシングル「SELF PRODUCER」をリリースした。2004年にオープンしたオフィシャルブログ「minorhythm(ミノリズム)」は、現在までほぼ休むことなく毎日更新中。