Creepy Nuts|現在進行形で作る俺たちの武勇伝

リタイア組が「大学に行きなよ!」なんて言えない

──「Dr.フランケンシュタイン」は、ライミングはそこまで細くないし、ラップもボーカルに近くてメロディアスですね。

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R-指定 フロウもメロディも変化する曲が多いんで、同じようなメロディで展開する、1曲を同じテンションでつないでいく曲を作りたかったんですよね。で、この曲は卒業ソングとして作ったんですよ。自分を作ってくれた恩師や社会に対して「ありがとうございました」と。

DJ 松永 でも、この曲だとその感謝って「ありあとやんした!」って睨みつけながら言うタイプじゃない?「恨んでないですよ。あなたのおかげでこうなったんですけど」って(笑)。

──一番怖いパターン(笑)。この曲の最後のヴァース「寄せ集めたガラクタで精製 元の居場所が分からない」などからは、ヒップホップのことを表しているとも感じられたんですが。

R-指定 「ぬえの鳴く夜は」もそうだったんですけど、自分を表現しようとすると、そこに通じてしまうんですよね。ヒップホップがいろんなものを継ぎ接ぎしたり、詰め合わせたものであるように、俺という存在もいろんな文化の影響や社会の抑制の影響によって成り立っていて。だから俺はヒップホップにシンパシーを覚えるし、どっちの意味にも捉えられると思いますね。

──また、テーマとしては“プリミティブなオリジナリティの喪失”という部分もあり、それが「かつて天才だった俺たちへ」につながる流れは興味深いですね。

R-指定 完全につながってますよね。ぐちゃぐちゃで混沌としたままだったら、もっといろんな可能性もあっただろうなって。ただ自分が他人と比べることで自分の得手不得手に気付いた今からでも、赤子のような目で世の中を見据えてもう一度挑戦してみよう、というのが「かつて天才だった俺たちへ」のテーマなんですよね。この曲はもともと帝京平成大学のCMソングというお題から始まったんですけど、僕は大学中退、松永は高校中退で……。

DJ 松永 そんなやつらが「大学に行きなよ! いいよ!」なんて言えない(笑)。

R-指定 「最高のキャンパスライフを!」なんて……。

DJ 松永 途中でリタイアしたやつらが言っても……。

R-指定 説得力のかけらもない!

──急に暗い話に(笑)。

R-指定 だから本当は、ちゃんと難関大学にストレートで入って、サークル活動もして、一流企業に就職も一度はしてっていう、大学生活を謳歌したであろう佐久間さん(KEN THE 390)に頼むべきやった(笑)。

──公表してるとは言え、それKENくんの個人情報ですよ(笑)。

R-指定 そんなこともあったんで、どういう切り口にしようか悩んでたときに、MVの制作打ち合わせでディレクターが「自分の道を貫いた人が勝てる時代になりましたね」という話をポロッとしたんですよね。そこから“自分たちの道”というアイデアにつながっていって。大人になるにつれて自分に合わないものや苦手なものがわかってきて、それによって可能性の道を潰してしまうこともある。でも、ネガティブに感じなかったときは無限に可能性があったわけで、つまり生まれた瞬間は最強だったと思うんです。何にも負けてないし、何もつまずいてない、その状態は天才だったんじゃないかなって。いろんな経験によって可能性が閉ざされて、無力感に苛まれることもあると思うけど、もう1回その万能感みたいなものを取り戻そう、だって一度は天才だったんだからっていう曲ですね。

ライブの代わりにイルカの動画

──クリーピーは「たりないふたり」というアルバムもあるように、ネガティブゆえに万能感を感じにくい2人かと思いますが、最近はさすがに感じるようになりましたか?

Creepy Nuts (声をそろえて)感じないですねー。

──未だに……(笑)。

DJ 松永 マジで感じないっすね。最近はいろんな仕事も増えて、例えば僕だったら「文學界」でコラムを書かせてもらったりしてるんですが、ほかの業種にチャレンジすればするほど、無力感に打ちのめされる。幅が広がれば広がるほど、自分の才能の幅の狭さを実感するんで、自信がなくなる毎日です。

──暗すぎる!

R-指定 俺らが万能感を感じるのは、DJしてるとき、ラップしてるとき、ライブしてるときなんですよね。

DJ 松永 だから最近はポジティブな感情がまったくない。特に僕は。

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──承認欲求を満たすタイミングがないと。

DJ 松永 本当にそう! 音楽以外の仕事って、チャレンジだし不安もあるし、自分のカッコ悪いところをさらすことも必要で。ただ、僕は基本的に褒められていたい人間だし、全力でカッコつけてナルシシズムを発散できるのはライブなんですよね。だから「いじられること」と「ライブの万能感」で心の釣り合いが取れてたのに、今はその片翼がもぎ取られてるから。

R-指定 バカにされてるだけ(笑)。

DJ 松永 世界チャンプになった今こそ自信がない(笑)。

──RHYMESTERの宇多丸さんは「誰も承認してくれないなら、飼い主を無限に愛してくれる犬を飼うべきだ」と話してましたよ。

DJ 松永 マジでそうかもしれないな……最近YouTubeで動物の動画ばっかり観てる。今日も朝までイルカの映像を観てて、2時間ぐらいしか寝てない(笑)。

R-指定 なんやこいつ(笑)。

DJ 松永 「癒されたいから動物の動画観よう」じゃなくて、無意識に観てたもんね。イルカなんてかわいいと思ったことないのに、なぜか観てた。気付いたら朝方よ。

R-指定 ヤバいやん。バッド入ってるやん(笑)。

DJ 松永 だからライブがないって本当に大変!

R-指定 ほんまそうやな。

100人規模でフリースタイルライブ

──11月には日本武道館でのワンマンが予定されていますね。

R-指定 ほんまコロナ頼むで。そんな嫌? 俺らが武道館やるの?(笑)

DJ 松永 気分悪い?(笑) 状況を見ながら武道館のプロジェクトを進められたらなと。ただほかのビジョンはあんまり見えないね。

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R-指定 状況的にもどうしたらいいのかわからんし。

DJ 松永 そもそも未来の予定を考えるよりは目の前のことをやっていくタイプだし、着実にこなしながら、気付いたら前進してるのがイメージとして美しいのかなって。

R-指定 ビジョンはないけど、作りたい曲はあるな。ストーリーテリングものを作ってみたいし、めちゃくちゃフィクションっぽい曲も作ってみたい。

──DJ NAPEYの「ホラー話 feat. SATUSSY, ポチョムキン」みたいな。

R-指定 例えに出すのがストーリーテリングの中で一番ドギツい曲っていう(笑)。そういうのも面白いかなと思いますね。

DJ 松永 完全なるフリースタイルライブもやってみたい。Rの即興に俺がついていけるのか、俺の選んだトラックにRが乗れるのかみたいな。

R-指定 リハもなしでね。

DJ 松永 100人規模ぐらいでやりたい。

R-指定 めっちゃ失敗する前提なんで、観客は少なく(笑)。

DJ 松永 途中でグダったりするもんね、絶対。だから「お試しなんで……」と言いわけしながら(笑)。