Creepy Nuts|現在進行形で作る俺たちの武勇伝

Creepy Nutsが本日8月26日にニューアルバム「かつて天才だった俺たちへ」をリリースした。

本作の収録曲は帝京平成大学のテレビCMとして書き下ろされた表題曲「かつて天才だった俺たちへ」に加え、俳優の菅田将暉とのコラボ曲「サントラ」、菅田と共に亀田誠治、ピエール中野、加藤隆志、津野米咲も参加した「日曜日よりの使者」など、発売前から注目されていた楽曲が目を引く。また、今回のアルバムには過去の作品においてもテーマとなっていた“肯定”のメッセージが込められているものの、これまでは自身に向いていたその言葉が、今作では他者に当てた言葉へと変化している。

今回の特集では、Creepy Nutsと親交の深い高木"JET"晋一郎がR-指定とDJ松永にインタビュー。コロナ禍の中で進行したアルバム制作過程を掘り下げている。また特集後半は「ここがすごいよ! クリーピー」と題し、「オールナイトニッポン」のレギュラーパーソナリティや、地上波バラエティ番組へのゲスト出演など、近年さまざまなメディアで引っ張りだこのCreepy Nutsの重大ニュースを振り返りながら彼らの輝かしい活躍に迫る。

取材・文 / 高木"JET"晋一郎 撮影 / 須田卓馬

100%の期待に応えるガチな曲

──今回のアルバムはいつ頃制作されたんですか?

DJ 松永 緊急事態宣言中に制作を進めていたんですが、そこでまとまりはしなかったですね。だから実際に形にしていったのは、外出自粛期間が終わった6、7月。

R-指定 相変わらずのギリギリ(笑)。ただステイホーム中に行ったトライ&エラーはすごく作品に影響していますね。その期間はアルバムに収録するしないに関わらず、ひたすら曲を作ってて。正直、クリーピーは制作が常にギリギリもギリギリなので、ボツ曲を出す余裕すらなかったんですよ、今まで。

──お蔵入りにしてたら曲が足りなくなると(笑)。

DJ 松永 限られた時間内に作らないといけない場合は、最低80点ぐらいは取れそうな曲を手癖で作っちゃいがちじゃないですか。ただ、ステイホーム中は時間があったんで、ある程度完成したものでも、1回完全に壊して再構築するぐらいのトライ&エラーができて。特に「サントラ」はその試行錯誤の賜物でしたね。

R-指定 それこそ7、8割できたものをボツにしてますからね。サビも6、7種類作ったんちゃうかな。

DJ 松永 トラックもRに聴かせてないのだけでも4、5個あるよ。そんな状況だから完全に袋小路に入っちゃって「もう裸になって夜の街を叫びながら走ろうか!」みたいな(笑)。

R-指定 コロナ疲れとあいまって発狂しそうになってた(笑)。

DJ 松永 「むしろ発狂したいね」って(笑)。

──それは正解が見えなかったということ?

DJ 松永 本当に正解が見えなかった。クリーピーはこれまでこの2人だけで完結してきたけど。

──たしかにクリーピーには客演を迎えた作品はありませんでした。

DJ 松永 そこに今回、菅田将暉という別の要素が入るならば、新しい引き出しが必要だったし、それを見つけるのに苦労したっていうか。しかも菅田将暉とクリーピーとの関係性は、「オールナイトニッポン」内で1年近くかけて作ってきたものだから、その決着がシュールな曲っていうのはないよなって。だから、期待されていることが100%わかってるうえでの、その期待に完全に応える曲を作らなくちゃいけないっていうプレッシャーはありましたね。

──より多くの人に受容される曲を作ることが課せられているし、“なんちゃって”では終わらせられなかったと。

DJ 松永 ずっとじゃれ合ってきたけど、曲はガチっていうのが一番いい着地点だと思ったんですよね。

Creepy Nutsと菅田将暉に共通するコンプレックス

──クリーピーはヒップホップに対する“愛と呪い”の強いグループゆえに、当代きっての若手俳優とヒップホップユニットが一緒に曲を作るということ自体だけを切り取って“セルアウト”と切り捨ててしまうような人間の気持ちも、それは非常に視野狭窄とはいえ、ある程度は理解できると思うんですが。

Creepy Nuts

R-指定 確かにチート的な組み合わせだし、菅田くんと一緒に作るっていう時点で、いらん色眼鏡で見られることはわかってる。だからこそ一番大事にしたのは“足腰”ですね。いい曲であるのは大前提として、渾身のラップとリリックとトラックという足腰で、“雑音”に打ち勝たないとなって。そしてリスナーに有無を言わせない、イメージだけで非難するやつのほうがダサいと思わせるような作品にしようと思いましたね。おかげで聴いた般若さんがめっちゃいい反応をくれたり、大阪のMC TYSONも「『スッキリ』で観たで、お前らヤバいなあ」って連絡くれたり。そういうふうにプレイヤー側もちゃんと聴いて判断してくれるっていう。

DJ 松永 俺は自分のやっていることが純然たるヒップホップであるという確固たる自負があるので、最近は色眼鏡で見られることに対して考えたり憤ったりする熱量が持てないですね。昔のような時代でもないですし。

R-指定 僕らはロックフェスとかラジオ番組とか、いろんなとこに顔出してますけど、やっぱり“ラップとDJがめちゃうまい2人組”であることが活動の土台なんですよね。スキルが自分たちの存在を担保してくれるから、いろんなとこに出ていける。スキルが生ぬるかったら何を言われても言い訳できないし、リスナーもついてきてくれないと思う。

──だからこの曲ができたのは「DMC」のワールドチャンプを松永くんが戴冠したことも影響しているのかなって。その部分については企画部分で伺うとして、菅田さんとのコミュニケーションはどのように?

R-指定 最初はスチャダラパー×小沢健二の「今夜はブギー・バック」のような曲を一緒に作りたいって菅田さんがラジオで話してたんですよね。

DJ 松永 それは曲調というか、構図の話だったんですけどね。その翌週ぐらいに、サウンドはロックのほうがいいのかな、って僕らもラジオで返して。

R-指定 そして3人でも打ち合わせしたんですが、そのときにお互いの仕事について深く話したんですよね。それで菅田さんと俺らの“最大公約数”から、ステージに立つということがテーマになって。「一枚の素肌から」っていう歌詞には、コロナ禍で人間同士が距離を離さなくちゃいけなくなってる現状、それは今は仕方ないけど、それでも肌から感じるものであったり、生身で伝わるものを大切にしたいという気持ちを込めてます。

──この曲は、お互いに特別ではなかった存在が特別な存在になる場所や、その過程について描いていると思うのですが、そのテーマ設定は?

Creepy Nuts

R-指定 菅田くんと俺らが意気投合したポイントとして、強烈なバックグラウンドのないやつが、俳優として、DJとして、ラッパーとして成り立ってるってことがあったんですね。俺らにとっては、普通に育ったことがある種のコンプレックスでもあって。

──特にラッパーはそういった生い立ちや過去の物語性を求められる部分もありますね。

R-指定 そうじゃなくて、“今とこれからの自分たちの生き様”を照らしてくれっていう。ラッパーや俳優のすごい武勇伝を、俺たちは今作ってる途中なんですよね。信じられへんような仕事やプロジェクトに関わらせてもらって、現在進行形で武勇伝を作ってる。のちのちじいさんになったときに、今ラッパーが語ってる過去の武勇伝よりも、もっとすごいことを語れるんじゃないかって。

──その通り、「この人生ってヤツはつくりばなし」という歌詞は、リアルが必要とされるヒップホップ的には一瞬ドキッとするような歌詞だけど、作り話を演じる俳優であったり、ラップ的なストーリーテリングと同時に、人生のエピソードを作っていくという意味になっているし、その意味でもリアルを歌ってますね。

R-指定 ハチャメチャな人生を送って、それを歌うことだけがリアルじゃないと思うんです。そうじゃない内容でも、リスナーに刺さったり、印象を与える曲のほうが自分にとってリアル。

──トラックはロックな感触が強いですね。

DJ 松永 打ち込みでデモを作って、それを川口大輔さんの協力でバンドアレンジにしていって。最初はもっとひんやりした、色でいうとブルーという感じのトラックだったんだけど、より温かみのある音になりましたね。