“落語好き”が自分のラッパーとしての色
──タイアップ曲が2つありますよね。テレビドラマ「新・ミナミの帝王」主題歌の「紙様」と、ロッテ「キシリトールガム」のキャンペーンの一環で書き下ろした「かいこ」と。
松永 「かいこ」は「味」っていうお題があったんですけど、そのテーマからいかにずらすか、そのギリギリまで考えた曲なんですよ。俺がリスナーだったら、タイアップで商品に寄り添った内容の曲を作ったら「あ、お仕事で作ったんだな」ってめちゃめちゃ思うんですよね。アートとは別のものって言うか。アートにお金を出すのって単純に商品を買わされるのとは違うことだと思うんですけど、タイアップをやられると、商業の流れにハメられた感がするのがイヤで。特にそれが本来の作風とギャップのあるものだったら、めちゃめちゃ萎えるんですよね。でも「かいこ」は「自由にやっていいよ」って言われてたんで、いかにもな企画モノじゃなく、フルアルバムを出すときにちゃんとそのピースになり得る、俺らの曲として自信を持ってやれる曲にしようって話し合ったんです。テーマからいかに遠ざかれるかの実験をしてますね。「紙様」のほうは商品じゃなくてドラマのタイアップだから、ちょっと違うんですけど。タイアップ元もアートじゃないですか。
R-指定 「紙様」で「Gimme da money」って言ってるところのフレーズは、実は前から俺の頭の中にはあったんですよ。それが「ミナミの帝王」に引き寄せられて出てきたので、自分の中ではラッキーやったんすよね。「かいこ」に関しては、最終的に「味」ってテーマになりましたけど、「俺から退屈を奪わないでくれ」でも言ってるように「日々感じてる時代の流れの速さに対抗できるものってなんやろ、“味”かな」と考えた結果浮上したものなんで、けっこう切なる思いなんですよね。
──「紙様」に関して言うと、Rさんの落語好きなところが出ている感じがしましたね。サビのオチの付け方とか。
R-指定 そこまで詳しいとかではないんですけど、なんか好きなんですよね。性癖と言うか、自分が興奮する言葉がそういうところにあるんです。プーンと臭ってくる言葉と言うか、「なんて言った? 今」みたいな引っかかりのあるものが好きなんですよね。それが自分のラッパーとしての色でもあるんかなと思います。英語はよう知らんし、難しい言葉も使えないし。
──大阪という土地柄と関係あるんですかね。
R-指定 自分でラップしてて「関西弁っていいな」って改めて思う瞬間はありますね。
松永 武器だよね。だってさ、2つ言語持ってるわけだから。言葉のハマりも2パターンいけるしさ。関西弁ってドスを利かせることもできるし、笑かすこともできるし、温かみを出すこともできる。しかも、ほかの方言と違って全員が認識してる。最強の方言だと思うよ、関西弁はずるい。
R-指定 もっと新潟弁で喋ろうや、松永さんも。
松永 今パッと出てこないし、俺が東京でバリバリ新潟弁使ってたら無理やりじゃん(笑)。
Creepy Nutsは“エロ動画”になれたら最強
──今回もラッパーの客演がないですよね。いつもトラックも極力、松永さんの自製で通していますが、それがCreepy Nutsのテーマだったりするんですか?
松永 そもそも誰かの力を借りるという選択肢が思い浮かばなかったですね。1MC1DJに美学を感じてるし「最小編成でどれだけ幅のあるものを作れるか挑戦したいね」って最初から言い合ってるんで。ライブに関しても、どれだけ規模が大きくなっても客演やバンドは入れず、ワンマイク&ツータンテだけで、スカスカのステージ上からギュウギュウの観客席を沸かせたいって気持ちが強いです。
──いいですね。僕はCreepy Nutsのライブには、いい意味でロックバンドっぽさを感じるんです。
松永 たまに言われますね。でも正直その自覚はまったくないんです。
R-指定 めちゃめちゃヒップホップしてるつもりですからね。
松永 でもサウンドやキャラクター、ライブのスタイルも、ほかのヒップホップアーティストと被らないことをできているのかなとは思います。
──だからSPARK!!SOUND!!SHOW!!と組んだのはすごくわかるんですよ。
R-指定 あの人たちも“ぬえ”やなあと思います。
松永 すげえいろんなジャンルを持ってきて、自分らの音楽にしちゃってるから。フォーマットを崩すことにまったく躊躇がないんですよね。
R-指定 ほめ言葉ですけど、音楽的にめちゃめちゃヤンチャなんですよね。不良やな、カッコいいなって思います。
──そういうところはお二人がヒップホップの枠の中でやろうとしていることと一致しているかもしれませんね。
松永 ヒップホップ自体がもともとそうなんですよ。
R-指定 すげえ自由なジャンルではあるんで。
松永 でも、ヒップホップ然としたものってめちゃめちゃ語られますよね。あれなんなんですかね?
──それは僕が聞きたいです。
松永 意味わかんないですよね。俺らのことが嫌いな人は、たぶんそういう人たちだと思うんですよ。そういう人たちが捉えてるヒップホップ観ってすごくファッション的ですよね。
R-指定 俺らがそういう人から「ダサい」って言われる要因としては、おしゃれじゃないんですよ。
松永 アクセサリーにならないよね。
R-指定 「何聴いてんの」って聞かれて答えたときに「お前わかってるね」とか「おしゃれやな」って言われるタイプのアーティストっているじゃないですか。俺らは確実にその真裏ではあるので、リスナーには「隠れキリシタンのように聴いてくれたらうれしい」ってよく言うんです。「恥ずかしいけどどうしても聴きたい」みたいな……俺、こうなれたら最強やなと思うんが、“エロ動画”なんですよ。
松永 ああ……(数秒考えて)最っ強だね! めちゃめちゃ最強。うん。
R-指定 「あんなん聴かんよな」「聴かへん聴かへん。恥ずかしいもん」とか言いながら、家に帰ったら必死で聴いてるみたいな。そうなれたらカッコいいなと思います。
松永 人前では話題にしないけど、全員大好きみたいな。
R-指定 しかも全員お世話になってるっていう(笑)。俺らのヒップホップはポルノですよ。tha BOSSさん(THA BLUE HERB)が「MTVのHIPHOPはポルノだ」(「SELL OUR SOUL」)って歌ってるんですよ。それは明らかに悪い意味やと思うんですけど。俺らはいい意味で「俺たちのHIPHOPはポルノである」と。そうなりたいですね。みんな通る、みんなお世話になる、みんな大好き。でもおしゃれではない。猥雑やし、人前でイキれるものでもない。でもつい聴いてしまう。それくらい中毒性のあるものにしたいですね。
松永 したいしたい。いや、素晴らしいね。額面通りに受け取ってほしくはないけど、本質的にはそれ。
──なんだか曲のテーマ探しの過程を見せてもらっているみたいです(笑)。
R-指定 実際、俺はラップをそういう聴き方してきたんですよ。特に日本語ラップがバカにされてた時代なんで、「お前何聴いてんの」って言われて、わかってくれるやつにはRHYMESTERとかキングギドラとかラッパ我リヤとか言うてましたけど、わかってくれへんやつにはDef Techとかnobodyknows+とかSOUL'd OUTとかORANGE RANGEとか、よりわかりやすい名前を出してたんです。全員大好きなんですけどね。大っぴらに「これ聴いてるで」とは言えないもの、それが俺の中ではラップやったんですよね。その感じが、こそこそエロ動画漁ってるのと通じるんです。
松永 それだよ、それ。いいの見つけたね。R、ありがとう。
R-指定 やった! これで行きましょ(笑)。