Creepy Nuts|“スポットライト”を浴びて踏み出す一歩

Creepy Nutsが待望の初フルアルバム「クリープ・ショー」を4月11日にリリースした。本作にはリード曲としてMVが先行公開された「スポットライト」をはじめ、既発曲「助演男優賞」や「だがそれでいい」、盟友SPARK!!SOUND!!SHOW!!とタッグを組んだ新曲「ぬえの鳴く夜は」や「合法的トビ方ノススメ」の新バージョンなど12曲を収録。2人の過去と現在を刻印しつつ、未来を示し始めた力強い1枚だ。

音楽ナタリーではCreepy Nutsにインタビューを実施。アルバムの内容はもちろん、2人ならではの曲作りや理想とする音楽の在り方など、話題は多岐に及んだ。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 後藤倫人

Creepy Nuts「クリープ・ショー」
2018年4月11日発売 / クリーパーズ
Creepy Nuts「クリープ・ショー」

[CD]
3240円 / XSCL-35

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 手練手管
  2. ぬえの鳴く夜は
  3. 助演男優賞
  4. 紙様
  5. Stray Dogs
  6. 新・合法的トビ方ノススメ
  1. 俺から退屈を奪わないでくれ
  2. かいこ
  3. トレンチコートマフィア
  4. だがそれでいい
  5. 月に遠吠え
  6. スポットライト

自分を全部出してみた結果、自分のことがさらにわからなくなった

──「クリープ・ショー」にはこれまでなんらかの形で発表してきた曲が6曲、完全な新曲が6曲の全12曲が収められます。

Creepy Nuts

DJ 松永 最初は全部まっさらの新曲で行くつもりだったんです。

R-指定 軸になったのは最後の「スポットライト」っていう曲で、当初は「その曲から始まるアルバムはどうやろ」って話してたんですよ。自分らの過去の楽曲を踏まえて、キャラクター性を端的に表現した曲なんで「そこから先へ進もうぜ」というメッセージも込められるなと。

松永 なんですけど、レーベルスタッフも含めてみんなで話し合った結果、今までの足跡と言うか俺らの人間性のすべてをここで1回出しておくのがいいんじゃないかと。

R-指定 「そのうえで、最後に『スポットライト』のメッセージがくる形にしたほうが、1stフルアルバムとしてはいいんじゃないか」ってスタッフに言われて、これまでの曲も入れることにしました。

──「スポットライト」の歌詞では2人が世間に対して胸を張り始めている印象を受けて、僕もアルバムのリード曲にふさわしい曲だと思いました。これまではネガティブさや劣等感を前面に押し出してきたけれど、そろそろ嫌味に聞こえるんじゃないか、と余計な心配もちょっとしていたので(笑)。

R-指定 「スポットライト」で言ってるように、たぶんもっと昔から胸張っててよかったんですよね。でも、そこにどうしても自信が持てなかったし、その方法も知らなかったんです。嫌味になるな、みたいなことも前から思ってたんですけど、俺らの人間性がまだ追い付いてないところもあって、どう言葉にすればいいかわからなくて。でも今回「スポットライト」で「わからんなりに、もうちゃんと胸張ってみようや」みたいに自分に言い聞かすと言うか、自分に問いかけるみたいな形で一歩踏み出せた……のかもなー……みたいな。まだ薄ぼんやりした感じですね。

──自惚れるのが苦手なタイプなんでしょうか。

R-指定 どうなんですかね。アルバムを作って、さらにそうなってる気がします(笑)。朝井リョウさんにアルバムを送ったらメールで感想をくださって。そこで少しやりとりしたときに、この表現が一番自分でしっくりくるなと思ったんですけど、俺は俺のことが一番わかってないんですよ。「俺はこうや」って断言してしまうのはなんか違う気がするし、人に決め付けられたくもないけど、「じゃあお前はなんなんや、言うてみろ」って言われたら、なおわからんという。このアルバムで自分を全部出してみた結果、そういう状態になりました。ただ、どっかでは絶対「俺が最強や」と思ってるはずなんですよね。そうじゃないと人前に出れないんで。そのマインドをどう表現すればしっくりくるのか、最善の方法をまだ探してる途中なんですよ。中学のときラップに惹かれたのは、「俺は最高だ」って堂々と言ってるのがカッコいいなあと思ったからで、そこに憧れてやってきたんですけど、自分なりのボースティングと言うかスワッグの方法みたいなのは、いまだに探し求めてるんですよね。

「トレンチコートマフィア」を再録音しなかった理由

──アルバム前半は“今の俺たち”ですよね。ラッパーとDJとして活躍する今のCreepy Nutsとしてのリリックが並んでいて。まさに1曲目のタイトル通り“手練手管”という感じです。

R-指定 そうですね。人間性の部分に寄せたというよりは、Creepy Nutsとしての自分らを表現している感じだと思います。

──で、お二人の根っこの部分がアルバムの後半に徐々に出てくる流れで、最後の「スポットライト」が新たな幕開けを感じさせるなと思いました。ポイントになっているのが、2014年に「DJ松永 feat. R-指定」名義で発表した「トレンチコートマフィア」だと思うんですが、これ、再録じゃないですよね。

松永 まるっきり最初の音源そのままです。

R-指定

──あえてそうしたのはなぜ?

R-指定 この音源って、このときの感情で歌ってるんですよ。技術的にも今より全然ヘタやし、今やったらいくらでも感情を込めて歌えると思います。でもラップにおける感情表現の仕方もわかれへんかった俺が淡々とリリックをつづってる、このバージョンには絶対に勝てないんですよ。だから絶対このままのほうがいいよな、って2人で話して。

松永 リリックの通りに、本当にそう思ってる状態で吹き込んだ音源のほうが絶対に力がありますからね。

R-指定 たぶんこの曲が一番根っこの、俺らのヒップホップたる所以と言うか、俺らのイズムみたいなところがあるんですよね。そういう意味で重要かなと思います。今やったら「トレンチコートマフィア」って言葉は使わないと思うんですよ。ことの重大さがわかるから(1999年にアメリカで起こった事件「コロンバイン高校銃乱射事件」の犯人が「トレンチコートマフィア」と自称した)。でも当時って、それすらも置いといて自分の感情優先なんですよね。「聴いた人がどう思うかとか知るか。俺は腹立ってんねん」みたいな。その感情をそのまま閉じ込めた音源なんです。