コント風の寸劇を交えた初期ceroのライブ
小田 複数のメンバーが曲を書くって言う意味ではceroも同じだけど、3人のバランスがすごくいいというか、みんなタイプが違うのが面白いですよね。
荒内 違いすぎる気もするけどね(笑)。
小西 違うのに、ライブで聴いていると流れがすごくきれいなんですよね。
荒内 それは高城くんがセットリストを決めてるから。彼はDJもよくやるから、きれいにつながるように並べてくれるんだよね。間にインタールードを入れたり、DJミックス的な感覚で。
小田 セットリストに自分の曲が少ないとテンション下がるとか、そういうのはないの?
荒内 かつてはあったけど、今はまったく思わないね。
──昔のceroのライブはどんな感じだったんですか?
荒内 よくも悪くもライブの定石というか見せ方がわかってない人たちが集まって、「あれもやりたい、これもやりたい」ってキャッキャ言いながら、まとまりのないことをやって帰ってくる感じ。ずっとそうでしたよ。今はかっちりしているけど。
小田 大人になったんですね。
荒内 大人になったんだね(笑)。当時はコントふうの寸劇とかやってました。3人で楽器置いて10分くらいやってた。何か新しいことがしたいんだけど、曲もできないし、練習もすぐ飽きてやらないから、手っ取り早く新しいことをやるには、「じゃ、寸劇だ」みたいな感じで。1年くらいやってたかな。
小田 反応はどうだったんですか?
荒内 当時は「ウケてるな」って思ってたけど、よく考えたら最前列にいる友達しか笑ってなかった。たぶんSAKEROCKに影響されてたのかな。まだ自我がなかったんですよね。
──そういえば、初期カクバリズムってステージで寸劇をやるような雰囲気がありましたね。
荒内 責任逃れするわけじゃないけど、高城くんと橋本ちゃんがカクバリズムを大好きだったんですよ。それで俺も聴くようになって、カクバリズムのレーベルカラーが面白いと思って。
小田 今はこんなにおしゃれで洗練されているのに。
荒内 ceroを始めたばかりの頃はポストロックっぽいことをやっていて、VJがいたりして、むしろ最初のほうが洗練されてるふうだったんですよ。あくまで「ふう」ですけど。そこからだんだん変わっていって。
小西 今のceroって「めっちゃうまい野菜を普通に焼いて出された」みたいな、素材のよさにこだわってる感覚があるんですよね。お客さんもそれをわかって楽しんでいるムードがあるから、ceroのライブは好きなんです。汗をかいて踊りまくる感じじゃないんだけど、ずーっと気持ちいい、みたいな。
小田 ceroのライブってさ、“読後感”みたいなものがあるよね。本を読み終わった後の余韻みたいに残るものがある。
小西 世界観がしっかり作られてるから、ライブを観ながら物語の中に入っていく感覚になれるんでしょうね。
「スキルフル」って印象よりも先に「ポップだな」って感じる
──そろそろCRCK/LCKSの新作「Lighter」の話をしようと思うんですけど、今回はどんな感じで作ったんですか。
小田 1枚目の「CRCK/LCKS」は、いい意味でも悪い意味でも“録って出し”みたいな作品だったんですけど、2枚目は「こういう曲がやりたい」「こういうふうにしたい」と言うのを最初から考えて作ることができました。レコーディング期間が多く取れたっていうのもあるんですけど。
小西 6曲中4曲は1枚目のアルバムが出る頃には完成していて、その後のツアーでずっとやってる曲なんですよね。ライブをいっぱいやってから録音した結果、全体的に前のアルバムよりもポップな歌モノって感じになりました。
荒内 クラクラはスーパープレイヤーが集まってて、「1小節先は何が起こるんだろう」っていうフランク・ザッパを聴いてるときのようなドキドキ感があるんです。でも2枚目は“スキルフル”って印象よりも先に「ポップだな」って感じるから、そこがいいなって。例えば「Get Lighter」のイントロみたいにコードが上がり下がりするジャジーな進行って、オーソドックスにやるとクールになりすぎてしまうんだけど、クラクラの楽曲ってそこで紡がれるフレーズや音色がキャッチーなんですよね。
小西 クラクラは“スキルフル”ってイメージが先に立っちゃうけど、その第一印象が続くのは嫌なんですよね。だからそう言ってもらえてうれしいです。
荒内 「Get Lighter」はそれが顕著に出てるよね。「パパパ!」もすごく好き。歌の符割が複雑なのに、MVに出演してる女性が完璧にリップシンクできてて、「きっとあの子も歌がキャッチーだから覚えられたんだろうな」と思いました。
小田 エンジニアのモリタセイジさんが“ポップであること”に意識的な方で、エンジニアの立場を超えて意見を言ってくれるんですよ。私がボーカルブースで歌うと「小田さん、もう1回いただいていいですか?」「今度は息をもうちょっと直前に吸って歌ってみてもらえますか?」って言われて。「え? あ、はい」みたいな。
小西 オダトモは「今のテイクは完璧だ」と思っていたから、ちょっとムッとしてたんですけど。
小田 普通はするよね。でも、言われた通りやったらすごくよくなって、徐々に信頼するようになって、途中からは「今、どうでしたか?」って聞くようになった。ほとんどプロデューサーみたいな感じでボーカルディレクションとかしてもらいました。
小西 音色に関しても、「Get Lighter」のイントロがどうすれば耳に残るかについて、モリタさんとずっと話をしました。鍵盤を4つ重ねているんだけど、ほとんど聞こえないように入れているんですよ。フレーズの最後にだけ、あるキーボードの音色を入れてるんですけど、そうすればポップになるんじゃないかってモリタさんと議論を交したり。「傀儡」での歌の切り貼りもすごかったよね。
小田 「モリタさんの好きにやってみてください」ってお願いしたら、歌っぽいところと、ちょっとしゃべりっぽくなっているところを半小節くらいずつ切り貼りして抑揚を付けてくれて。リバースピアノ(逆再生したピアノ)をどこに入れるか考えてるときも、モリタさんが「ここでしょ」みたいに言ってくれて、すごくよかった。小西もモリタさんも偏執狂っぽいところがあるから、毎朝起きてすぐ、2人で電話で議論してました(笑)。
小西 ちなみに「パパパ!」は何も加工しなかったんですよ。ほかの曲は音を足したり、音色を変えたりしているんですけど、「パパパ!」は録れ高そのままって感じで、録音時にクリックも使ってない。「パパパ!」もそうですけど、オダトモのソングライティングって独特で、どうやって作ってるかわからないけど、いい曲が多いんですよね。
小田 「パパパ!」は駿からインスピレーションを受けてる。駿が書く曲みたいな「コードがぐるぐるしているんだけど、ポップな曲」を書きたいと思って。
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しゃべりからバチッと歌に戻るからドキドキする
- CRCK/LCKS「Lighter」
- 2017年7月5日発売 / APOLLO SOUNDS
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[CD]
1944円 / DDCZ-2159
- 収録曲
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- Get Lighter[作詞:小田朋美・小西遼 / 作曲:小西遼]
- パパパ![作詞・作曲:小田朋美]
- Non-Brake[作詞:小田朋美 / 作曲:小西遼]
- すきなひと[作詞:小田朋美・小西遼 / 作曲:小西遼]
- エメラルド[作詞:ミトモ珈琲二号店 / 作曲:井上銘]
- 傀儡[作詞・作曲:小田朋美]
- CRCK/LCKS 2nd EP「Lighter」リリース記念ライブ
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2017年8月12日(土)東京都 新宿MARZ
<出演者>
CRCK/LCKS / TAMTAM / and more
- CRCK/LCKS(クラックラックス)
- 2015年初頭にアメリカでの音楽留学から帰ってきた小西遼(Sax, Vocoder, Key, etc)を中心に、同年4月に結成されたポップバンド。DC/PRGのメンバーやceroのサポートなどで活躍する小田朋美(Vo, Key)、ジャズシーンで高い知名度を誇る井上銘(G)と石若駿(Dr)、カラスは真っ白やCICADAでの活動で知られる越智俊介(B)の5人からなる。2016年4月にミニアルバム「CRCK/LCKS」を発表して以降、複雑な構造ながらポップでキャッチーという斬新なサウンドで一躍話題に。2017年7月に2枚目のミニアルバム「Lighter」をリリースし、8月に開催される「SUMMER SONIC 2017」への出演が決定している。
- cero(セロ)
- 2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2015年5月には3rdアルバム「Obscure Ride」、2016年12月には最新シングル「街の報せ」をリリース。2017年4月には2度目の東京・日比谷野外大音楽堂ワンマン「Outdoors」を成功に収め、8月11日には東京・新木場STUDIO COASTで自主企画イベント「Traffic」を開催する。