COUNTRY YARD|紆余曲折の果てに完成させた、50年後も聴けるフルアルバム

間違いなく一番いい作品

──このたびリリースされる新作「The Roots Evolved」は、PIZZA OF DEATH RECORDS移籍後初のオリジナルアルバムとなります。どんな気持ちで作り始めたんですか?

Sit 今までは作品ごとに自分の中でテーマを設けていたんですが、今回は「こういう作品にしよう」ということは一切考えなかったんです。いつもは「これは1曲目、2曲目」と曲順も決めてたんですけど、そういうのも気にせず作りたいものを自然に作った感じ。

──テーマを設定しなかったのには、何か理由があるんですか?

Sit テーマを設定すると、その世界観でしか作れないんですよ。今まではそれが面白かったんですけど、今回は何も考えず自分を試してみたかった。

Hayato Mochizuki(G, Cho)

──アルバムを聴かせていただいて、Sitさんの好きなUKロックの要素が今までよりも色濃く出ているなと感じました。それは自由に作ったことが大きいんでしょうか?

Sit そうだと思います。それこそ「UKテイストをもっと入れよう」という意識も特にしていなくて。これまで聴いてきた楽曲や、やってきたことが自然と出たのかな。結果的に今までで一番苦労は少なかったし、すごくいい作品ができたと思います。

──Sitさん以外の皆さんは楽曲が上がってきたとき、どう思いました?

Hayato 最高だなと。

──これまでの楽曲との違いは感じましたか?

Hayato 曲の振り幅が広くなったのかなと思いますね。あと個人的には、俺はSitの作るアコースティックの曲が好きなので、そういう曲が2曲も入ってるのがいい!

Asanuma 自分の今までの音楽人生の中で、間違いなく一番いい作品だと思います。“移籍後初”とか“自分が加入してから初”とかそういうことは抜きにして、ただただ楽曲が素晴らしいですし、自然とこんな作品ができあがったということも素晴らしい。自分は作った側ですけど、リスナーとしてもこの作品は最高だと思いますよ。何回も聴ける。聴いてくれる人に対して「この作品に出会えてよかったね」と言いたいくらい。

SitHayatoMiyamoto あはは(笑)。

Asanuma だって本当にいいんだもん!

──Miyamotoさんはいかがですか?

Miyamoto 正直、最初は不安でした。それは「変なものになるかも」という不安じゃなくて、想像がつかなかったという点で。Sitと音楽の趣味趣向がまったく同じなわけじゃないから、Sitの中にあって、俺の中にないものもある。今回はそういう要素が強くて、パンクバンドの作品としては聴いたことのないようなものになったと思います。だからこれをどう組み立てたらCOUNTRY YARDの作品になるのか、理解して咀嚼するのに時間がかかりました。でも結果的に最高のものができたなと思います。俺は10年前に「自分に曲は作れない」と挫折した人間なので、「こんな曲が作れる人、すごいな」って改めて感じましたね。

エバヤンのライブから生まれたイントロ

──ここからは収録曲について聞かせてください。まず1曲目「Passion」。ギターのハウリングから始まってドラムが鳴って……というCOUNTRY YARDのライブの始まりを彷彿とさせるイントロが印象的です。

Sit 今回は曲順も決めなかったと話しましたが、この曲だけはできたときに「1曲目だな」と思いました。それこそイントロからできたんですよ。THE FOREVER YOUNGのライブを観た帰りに、頭の中でイントロのフレーズが鳴っていて。ちなみにイントロはMiyamotoとエンジニアのANDREWさん(FUCK YOU HEROES、BBQ CHICKENS、FULLSCRATCH、RISE)の努力の結晶です。

Miyamoto 俺はひたすらハウらせてただけですけどね。

Hayato ブースのこっち側で俺がいろんなボタンを押して、いいところをANDREWさんが切り取ってくれた。

──「君が望むなら ここに立ち続けよう」(和訳)という歌詞も印象的で。SitさんはTHE FOREVER YOUNGのライブでどういったことを感じたんですか?

Sit その日は台風で、来たい人も来れなくなってしまったようなライブで。「このシーンが」とは説明できないんですけど、なんかバンドとお客さんのいい関係性を観たんですよね。ちょうどその頃、自分が落ち込んでた時期でもあったので、クニ(クニタケヒロキ / Vo, B)がすげー強く見えて。「いいもんもらったなー」と思いながら帰りました。

Shunichi Asanuma(Dr)

「ツービートなのに切ない」曲を作りたい

──勢いのある冒頭の4曲を経て、5曲目からはミディアムチューンが続きます。この緩急のある構成もいいですね。

Sit 曲順を考えずに作ったというのもあって、こんなにバラードっぽい曲がたくさんある印象がなかったんです。だから曲順のミラクルかも(笑)。でも頭の4曲はCOUNTRY YARDらしいメロディックパンクっぽい曲を並べて……そこから“玄人ゾーン”というか、ちょっとコアな曲に入っていくという構成、俺もいいなあと思います。

──その“玄人ゾーン”は「Not A Stairway」で始まります。ミディアムテンポの導入から、同じメロディのままツービートになる曲の運びが秀逸ですよね。

Sit これはばあちゃんが亡くなったときに作った曲なんですよ。そのときの悲しみをあえてツービートに乗せました。俺はこれまで聴いてきたメロディックパンクから「ツービートでも泣ける」「ツービートなのに切ない」とか、そういうことを吸収してきたんです。だからツービートだけど、バラードよりも感情を動かせる曲を作りたいと思っていて。そういう意味で、俺にとってこの曲はいわゆるバラードの「Son Of The Sun」よりも、切なくて泣ける曲だと思ってます。

──9曲目「When I Was Young」は「もう若かった頃とは違うんだ」(和訳)という歌詞が、特にCOUNTRY YARDの同世代の自分には刺さりました。

Sit バンドをやってると、「まだやってるんだね」とか平気で言われるんですよ。悪意なく「バンドって儲かるの?」みたいなことを聞かれたりとか。逆に同世代の友達で、仕事に追われて自分を見失ってるやつとか、「若い頃と同じようなことはもうできないよ」って言うやつとかもいて。そういういろんな同世代の人に向けて書きました。

──年齢やバンドとしての経験を重ねていくことで、歌う内容は変わりますか?

Sit 俺の場合は年齢というよりも、去年ポリープ摘出の手術をしたことでずいぶん変わりましたね。ライブもできなかったし、歌うことも声を出すこともできなくて。そこからまたしゃべれるようになって、歌えるようになって……というプロセスの中で、いろんなことを考えたんですよ。「俺、歌がなかったらただの人じゃん」とか。

──やっぱり歌いたかった?

Sit はい。でも本当にそれまでは自分の中で、歌うことがそんなに大事なことだって思ってなかったから。「The Roots Evolved」はそんな経験をしたあとの曲作りだったので、余計、今の精神状態を残しておきたいという意味でテーマを設けなかったのかもしれないです。