COUNTRY YARDが3月4日にニューアルバム「The Roots Evolved」をリリースした。
2019年7月にPIZZA OF DEATH RECORDSへ移籍し、10月にはキャリア初となるベストアルバムをリリースしたCOUNTRY YARD。彼らはレーベル移籍後初のオリジナルアルバムとして、「パンクバンドの作品として聴いたことのないものができた」と口をそろえて語る自信作を完成させた。
音楽ナタリー初登場となる今回は、彼らが歩んできた音楽生活と紆余曲折を振り返りながら、本作の魅力について語ってもらった。
取材・文 / 小林千絵 ヘッダ写真撮影 / 斎藤大嗣 ライブ写真撮影 / Toma Kamimura
どのシーンにも属さない、オリジナルな存在
──そもそもCOUNTRY YARDはどのような経緯で結成されたんですか?
Keisaku "Sit" Matsu-ura(B, Vo) 最初はHayatoと2人でのアコースティック編成でライブに出ていて、その中でメンバーを探してバンドの形を作っていきました。
──当時は「こういうバンドにしたい」「こんな音楽をやりたい」といったビジョンや目標はあったんですか?
Sit ビジョンはまったくなかったですね。それぞれ別のバンドをやっていたので、ただ「新しくバンドがやりたい」っていうだけで。サウンド的には自分の好きなUKロックの要素を織り込んだメロディックパンクをやりたいなとは思ってました。
──Hayatoさんは?
Hayato Mochizuki(G, Cho) いや、一切なかったですね。
──単純にSitさんとバンドをやるのが楽しかった?
Hayato そういうことなんだと思います。Sitの後ろで「行け行けー!」ってやるのが面白かった。
──そして初期メンバーで動き出したあと、2009年10月にMiyamotoさんが加入します。
Yu-ki Miyamoto(G, Cho) 俺がやってたバンドが解散するタイミングと、COUNTRY YARDの前のギタリストが抜けるタイミングが一緒で。
Sit Miyamotoからファミレスで「やってみたい」と話をもらいました。
Miyamoto そのときやっていたバンドでは自分で曲を作ってたんですけど、曲作りは向いてないなと感じていて。曲が作れる人と新しいバンドをやりたいなと思ってたんです。そんなときに聴いたCOUNTRY YARDとSPACE BOYSのスプリット(2009年4月発売「WONDER GROUND」)が自分の中で「革命だ!」と思うほどにカッコよかった。当時、JUNGLEGYM(fam、LABRETらを輩出したインディーズレーベル)が盛り上がっていて、周りのバンドが次々にCDを出してたんです。でも正直、俺はどれも興味がなくて。そんな中で「めちゃくちゃカッコいい!」と思ったのが、そのスプリットだった。
──確かにCOUNTRY YARDは、当時から地元の町田や八王子のほかのバンドとは毛色が違いましたよね。
Miyamoto 俺がいた八王子のシーンって、例えばTOTALFATの世代のバンドがたくさんいて、その2つ下のBIGMAMA、ORTEGA、MUGWUMPSの世代もたくさんいて、それぞれ盛り上がっていたけど、COUNTRY YARDはそことも違って。JUNGLEGYMとも、八王子のシーンとも違う空気感というか……もしかしたらあぶれてただけなのかもしれないけど(笑)、その偶然のような必然のようなオリジナル感に惹かれたのかもしれない。
──そこからバンドはSTEP UP RECORDSに所属してリリースを重ねていきます。Asanumaさんは2017年の年末からサポートメンバーとしてバンドに参加し、2019年4月に正式加入しました(参照:COUNTRY YARDサポートドラマーのShunichi Asanumaが正式加入、7月に自主企画開催)。お互い別のバンドとして競演していたかと思いますが、AsanumaさんからCOUNTRY YARDはどのように見えていました?
Shunichi Asanuma(Dr) 独特の雰囲気を持った人たちが集まってるという印象で。さっきMiyamotoが言ってたように、どこにも属さない感じがしましたね。自分たちのスタイルを突き通していて、すごくいいバンドだなと。サポートとして参加するようになってからは、それまで本当にパンクバンドしかやってこなかったのでめちゃくちゃ難しくて。今も試行錯誤の最中です(笑)。
ちらついた“解散”
──COUNTRY YARDの経歴をたどる上で、2016年にそれまで所属していたSTEP UP RECORDSから離れて自主レーベルを立ち上げたことは大きなトピックスの1つだと思います。COUNTRY YARDとSTEP UP RECORDSの代表であるRYOSUKEさんは二人三脚でバンドを進めているように見えていたので、とても驚きました。当時のこと、話してもらえますか?
Sit RYOSUKEさんだけじゃなくていろんな人が力を貸してくれているにも関わらず、バンドとしてこれといった結果をずっと出せずにいたから、そんな自分たちにイライラしてたんですよね。そんなこともあって正直、RYOSUKEさんとはギクシャクしていました。それに、背負わなくていいものまで背負っていたような気がして。例えば「STEP UP RECORDSのために」とか「RYOSUKEさんのために」みたいなことをMCでもよく言ってたし、実際に思っていたけど、冷静になるとすごく小さいところを見ていたんじゃないかなって。あとは結果が欲しければもっと広いところを見ないといけないと思うようになっていたのもあると思います。
Miyamoto 調子に乗っていただけかもしれないけど、STEP UP RECORDSというレーベルに所属してできることは、ある程度実現することができたと思っていて。次のステージに行くにはもっと大きなビジョンが必要だと思った。でもそれはたぶん現状に不満があるから思うことで……複雑な時期でしたね。
──そのときに見えた“大きなビジョン”とは?
Miyamoto 解散。
──え?
Sit 解散です。俺は売れるために何かをやるというのが絶対に嫌だった。でもそのときのCOUNTRY YARDは「これからもっと上に行くにはやりたくないこともやらなきゃいけないよな」という段階だったんです。そうしないともう結果は出ない、みたいな。だから「そんなことやりたくない」となると、もう……。
Miyamoto 解散。
──そのときHayatoさんはどう思ってたんですか?
Hayato 「やめちまえ!」って。もちろんもったいないとは思ってたけど、嫌ならやらないほうがいいよとも思ってた。
──COUNTRY YARDは売れる売れないにこだわっていないというか「売れなくてもいいから、カッコいいことをやりたい」っていうイメージがあったので、正直、もっと上を目指してレーベルを離れるという選択肢は意外でした。
Sit 「武道館に立ちたい」とか「いつか東京ドームに」とかそういうことは思わないですよ。ただ、いい曲を作って、そのいい曲があることによって、音楽で生活ができるようになりたいとは思います。朝起きて、思いついたら曲を作る……そんな生活最高じゃないですか。自分たちにとってもっとも大切にしたいものが音楽だから。
そしてPIZZA OF DEATH RECORDS所属へ
──それでもCOUNTRY YARDは解散という選択肢はせず、その後もバンドは続いていきます。その葛藤からどうやって抜け出したんですか?
Sit 「やりたくないことはやらないし、やりたいことだけで勝ちたい」と改めて思ったからです。
──その思いを突き通すことができたと。
Sit はい。やりたいことを続けてるうちに、自分が作る曲に対してメンバーが「超いいじゃん」と言ってくれたり、今まで見てくれなかったような人たち……例えば健さん(Ken Yokoyama)が「COUNTRY YARDカッコいいね」って認めてくれるようになったりして。自分がやってることに対して自信を持てるようになってきたんですよね。「やりたくないことやらなくても戦えるじゃん」って。
──そして昨年、COUNTRY YARDはPIZZA OF DEATH RECORDSに移籍しました(参照:COUNTRY YARDがPIZZA OF DEATHに移籍、ベスト盤「Greatest Not Hits」発売)。
Sit ピザから出せるなんて思ってもいなかったので、うれしかったけど、「マジか」という気持ちのほうが大きかったですね。俺たちは「どこのレーベルから出したい」とかそういう会話をこれまで一度もしたことがなくて。ただ健さんのツアーに呼んでもらったこともそうだし、これまでの積み重ねでここまで来れたとは思うので、そういう意味でうれしかったです。
Miyamoto 例えば(テーブルに置かれた紙資料を眺めながら)この資料1つ取っても、PIZZA OF DEATH RECORDSのロゴって、アー写より目立つんじゃないかと思うくらいの存在感がありません? だから自分たちが入る、入らないとかそういうことじゃない、もっと上のところにあるレーベルだと思ってました。でも健さんのツアーに呼んでもらったときにスタッフの人と接したらイメージと全然違って親切だし、みんな面白くて。
Sit なんせ周りのスタッフがみんなCOUNTRY YARDのこと、好き……(同席しているスタッフの顔を見ながら)ですよね?(笑)
スタッフ うちは好きじゃなかったらやらないから。
Sit よかった(笑)。それがすげー伝わるんですよ。だからそれだけで気持ちがいい場所だなと思います。
Asanuma 移籍して環境がガラっと変わったというよりは、ちゃんと俺たちのことを見てくれる仲間が増えたという印象が強いです。一緒のテーブルで話をしてもらえるというか……同じ目線で意見を交わせる。
Miyamoto そういう熱心さとか、バンドに対しての情熱があるから、いまだにPIZZA OF DEATH RECORDSというレーベルは汚れることなく続いているんだろうなと日々感じます。
──HayatoさんはPIZZA OF DEATH RECORDSへ移籍していかがですか?
Hayato 事務所が自分の家から近くて最高です(笑)。
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間違いなく一番いい作品