ベースが“毒”の役割を果たさないといけない
──今のお話にも通じるかもしれないですが、例えば5曲目「病は花から」に描かれているのは、お二人の求道者のような生き方でもあるのかなと思ったんですよね。「美しいものを見たい」と思い、それを追求していくけど、その姿は端から見るととても酔狂なものなのかもしれない……そういう、求道者ゆえの狂気や、追い求める幸福が歌われている曲なのではないかと思いました。
中村 そういう部分はありますね。スズランの花って毒があるんですけど、この曲で歌っている「髑髏の花」は、スズランの花のことで。スズランが生えてきて、自分にも毒が回っている。でも、花が咲くことを願ってしまう……ここでいう「花」は、創作の種でもあり、人を遮断する言い訳でもあるんですよね。自分がひらめきや創作するエネルギーを得たときに、同時に閉じていく感覚があるんです。閉じれば閉じるほど、人はフラットでいるのが難しいし、アーティストをやっている以上、周囲との関わりがうまくできない時期もある。そういう状態を抽象化して表現している曲ですね、「病は花から」は。もちろん、それ以外にもいろんな要素が詰まっているんですけど、きっかけはそういったところから書き始めました。あと、この曲は「どうしても」って、ベースはスラップで弾いてもらいました。指のような柔らかいもので弦が飛び跳ねる音。あれが欲しくて。
松本 確かにスラップにしたことによって先端が尖りすぎていない質感になったのがよかったね。この曲は、音の面で言うとベースが“毒”の役割を果たさないといけなくて。ベースの音で体がどんどん毒されている感じというか……「毒+棘」という感じで、聴いている人に浸透させつつ、刺せたらなと思って弾きました。
──アルバムタイトルの「Flos Ex Machina」にしろ、「病は花から」にしろ、「花」というモチーフが今回はちりばめられていますね。
中村 4曲目の「fujI」もそうですね。これは「藤の花」っていうことなんですけど、「iB」という曲のシリーズとして書いたもので。
──なるほど。花は中村さんにとって惹かれるものなのでしょうか?
中村 それはあります。幼稚園のときに配ってもらうマークも、「チューリップじゃないと嫌だ」って泣いて、幼稚園に行かなかったくらい(笑)。花って生のエネルギーをすごく発していると思うんです。前に家でドライフラワーを作ったこともあったんですけど、花が持つ生のエネルギーが消えていく感じがあって、それ以来、ドライフラワーを作るのはやめました。動物や人間は動いたり鳴いたりしますけど、動きも鳴きもしない花から生命を感じる感覚が私にはずっと残っていて。花を見ていると、なんというか……「命だな」って思うんですよね。
松本 確かに、「生きている」ってすごく感じるよね。花は生活の中に当たり前にありすぎてフォーカスされないけど、実はすごい生命力を持っているのかもしれない。
──なんというか、花に「見られている」ような感覚になるときってありますよね。
中村 ありますよね。ちょっとオカルトチックな話に聞こえちゃうかもだけど、しゃべらないだけで、花もいろんなことを思っている可能性があるなと思います。
Cö shu Nieの曲は、“あなたの曲”であってほしい
──「病は花から」の次に収録されている6曲目「青春にして已む」は、「青春」という言葉を使っているところなど、中村さんっぽくない気もするし、でも、ものすごく中村さんっぽい気もするし……。
松本 わかります。不思議ですよね、この曲。「こういう曲珍しいかも」と驚くと同時に、「そうそう、この世界観だよな」という感じもするし。
──「青春にして已む」は、どういったところから生まれた曲だったのでしょうか?
中村 大切な人が亡くなったんです。家族なんですけど、病気で。その人とは1、2カ月くらい一緒に過ごせたんですけど、「絶対に後悔しないように」と思って、すべての力を振り絞ってその人と一緒にいたんです。でも、やっぱり後悔するんですよね。美しい瞬間ってあとになって気付くんですよ。嫌なんですけど。喪失のあとって、今この瞬間がすごく特別に思えて、必要以上に「失いたくないな」と思ってしまう。「青春にして已む」って、「最後までずっと青春」という意味なんです。最後までずっと能動的に、美しい瞬間に自分の心のシャッターを切りながら生きていきたいと思って作った曲です。
──「迷路」の歌詞の話もそうですけど、この「青春にして已む」も、喪失のその後の人生に眼差しが向いている曲のような気がします。
中村 ドロドロとした思いも、断片的には書いていると思うんです。でも、思い返してみると、優しい思い出が多いというか……。「優しい思い出ばかりが思い出される」という表現が近いのかな。去るのってずるいなと思っちゃうんですけど。でも、やっぱり、温かく昇華したかったというか、誇りに思いたかったんですよね、いろんなことを。今までの自分の人生もそうだし、亡くなった人の人生もそうだし。うん、誇りに思いたかったんです。
──最初に、Cö shu Nieの音楽には「人以外のもの」「ここではないどこか」が付きまとうという話がありましたが、同時にCö shu Nieの音楽はすごく人間的であり、パーソナルなものでもある。人間がなぜ「美しいものを見たい」と思うのか、その根底にある悲しさや希望の根っこまで作品に刻むから、Cö shu Nieの音楽は切実に響くんだろうと、お話を聞いて思いました。
中村 私は自分で自分がわからなくなるくらい、自分がすごく複雑な人間のような感じがしていて。いつも、その複雑さに折り合いをつけようとしているんです。そこに人間味があったり、幻想があったりするんじゃないかな。でも、音楽は聴いたその人のものであってほしいなと思います。パーソナルな部分を私たちは先に開示するけど、そこで開いた扉はみんなのパーソナルな部分を流れ込ませるための扉なので。やっぱりCö shu Nieの曲は、“あなたの曲”であってほしいんですよね。
ツアー情報
Cö shu Nie TOUR 2022 "Flos Ex Machina"
- 2022年4月1日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2022年4月3日(日)愛知県 Zepp Nagoya
- 2022年4月9日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2022年4月10日(日)香川県 高松festhalle
- 2022年4月17日(日)兵庫県 Harbor Studio
- 2022年4月22日(金)宮城県 Rensa
- 2022年4月30日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2022年5月14日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2022年5月15日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2022年5月21日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2022年6月2日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
プロフィール
Cö shu Nie(コシュニエ)
中村未来(Vo, G, Key, Manipulator)、松本駿介(B)からなるバンド。2011年2月に大阪で結成された。2018年6月にテレビアニメ「東京喰種トーキョーグール:re」のオープニングテーマ「asphyxia」を表題曲としたシングルでメジャーデビュー。2019年11月にテレビアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス 3」のエンディングテーマ「bullet」をシングルリリースし、12月には初のフルアルバム「PURE」を発表した。2021年3月にテレビアニメ「呪術廻戦」第2クールのエンディングテーマ「give it back」やドラマ「インフルエンス」の主題歌「miracle」を収録したシングルを発表し、7月には連続ドラマ「女の戦争~バチェラー殺人事件~」の主題歌「undress me」を配信リリース。2022年1月にテレビアニメ「15周年 コードギアス 反逆のルルーシュ」の第2クールのエンディングテーマ「SAKURA BURST」をシングルリリースした。3月にフルアルバム「Flos Ex Machina」を発表し、4月から全国ツアー「Cö shu Nie TOUR 2022 "Flos Ex Machina"」を開催する。
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