Cö shu Nieの“今”を刻んだニューアルバム「Flos Ex Machina」完成。結成から10年を経ての変化と、揺るがないもの

Cö shu Nieがニューアルバム「Flos Ex Machina」を3月16日にリリースした。

「機械仕掛けの花」という意味を持つタイトルが冠されたアルバムには、映画「PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR」のエンディングテーマ「red strand」、テレビアニメ「呪術廻戦」第2クールのエンディングテーマ「give it back」、WOWOWドラマ「インフルエンス」主題歌「miracle」といったシングル曲に新曲8曲を加えた全13曲を収録。昨年に結成10周年を迎えたCö shu Nieの“今”が刻まれた作品となっている。

音楽ナタリーではCö shu Nieの2人にインタビュー。話を聞く中で、10年を経ての歌に対する気持ちの変化や、揺るがないバンドの精神が本作に反映されていることがわかった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 中野修也

現実世界にはないものと融合したかった

──新作「Flos Ex Machina」、本当に素晴らしかったです。音楽の内容の話に入る前に、まずはアートワークに関して伺いたくて。アーティスト写真もそうなのですが、今のCö shu Nieのビジュアルイメージはとても独創的なものになっていますよね。このコンセプトはどういったところから生まれたんですか?

松本駿介(B) 今回は「3Dの世界に紛れ込んだ我々」を見せたいというのが、まずはあったんですよね。

Cö shu Nie

Cö shu Nie

中村未来(Vo, G, Key, Manipulator) 私たちは最初期の頃、本気で、幻想の世界を描いたミュージックビデオを自作したりしてたのですが、今やっていることもその延長線上なんですよね。ずっと「人間じゃなくて、音楽になりたい」という野望が私たちにはあって。人以外のもの、ここではないどこか……そういうものがいつもCö shu Nieには付きまとうんですけど、このアートワークは、今の私たちの“ここではないどこか”の解という感じだと思います。異質感を求めたというか、融合したかったんです、現実世界にはないものと。自分の中の閉じた小さな世界をどうやって広く表現するかという部分はすごく難しかったんですけど、今回アートディレクションしてくれた方(OFBYFOR TOKYOのYUKARI)を友達に教えてもらって、ビビッときて。

──「ここではないどこか」を求める感覚は、中村さんの中では年月を経るごとに強くなっているものなんですか?

中村 ずっと求めてはきたけど、初期の頃はどちらかというと逃避のようなものだったんですよ。ただ、今は「自分たちで作り出していきたい」という方向性にシフトしているような気がします。ぼやけた景色を、はっきりとしたコントラストのあるものにしていこうとしている。なので、ずっと根本にある感覚だけど、変わってきている感じがします。「ないなら、自分たちで作ろうぜ」という感じになっている。

──生み出す側としての自覚が芽生えているんですね。

中村 それに、この時代に生まれた人たちで、私と同じような気持ちの人たちはほかにもいると思うんですよね。同じ時代に生まれて、同じような経験をしながら生きている以上、私たちと同じように、ぼんやりと「ここじゃないどこかに行きたい」とか、「もっと何かないかな」と思いながら生きている人たちってたくさんいると思う。そういう何かを探している人たちに対しての解に、自分たちはなれるんじゃないかなという気持ちもあります。

私たちは私たちの決めた道を行く

──そもそも、なぜ中村さんは“ここではないどこか”を求めるのだと思いますか?

中村 それは、私の場合は子供の頃の家庭環境が大きいと思います。本音をしゃべったり、自分の気持ちを表現したりすることが罪だと思っていたので。だから、Cö shu Nieも初期の頃は歌詞を一人称で書くのが得意じゃなかったんです。「言ってはいけない」と思っている言葉が多かったから、つらくて。なので、幻覚や夢を表現することが多かったんです。

──でも、今はそれだけには留まっていないですよね。

中村 そうですね。メジャーデビュー前に3曲連続でシングルを出したんですけど、そのときに自分なりに心を吐露することに向き合ったんです。ただ実感として、それは自分が思った以上に伝わらなかったんですよ。「向いていないのかもしれないな」と思ったし、そもそも音楽は言葉にならないものを表現するものだと思っていたから、「歌詞ってなんで要るんだろう?」と改めて思ったし。「もう歌詞なしでやっていこう」というところまできたんですけど、でも結局、その3曲のうちの1曲がきっかけで石田スイ先生に見つけていただいて、アニメソングをやることになって。やっぱり、アニソンには言葉が必要だと思うんです。そこで「もう1回、言葉に向き合ってみよう」と思って。そこから自分の恐怖心を1枚1枚剥いていくような作業が、自分にとっての作詞になっていったんですよね。そういうところから変わり始めた感じがあります。

松本 「歌詞はいらん」とか言いながらも、もともとかなりしっかりと深みのある歌詞は書いていましたけどね(笑)。

中村 (笑)。でも、つらかったのよ。つらいし、「届かない」と思ってた。表現するからには「伝わってほしい」と思って表現するわけだから。

松本 でも、「PERSON.」みたいな本当に初期に作った曲も、心に響く言葉が多いから。僕から見ていて監督(中村)は、「根本は変わっていないけど、いい答えが出たんだろうな」と今は思っていますね。最初は抽象画みたいな感じの歌詞だったのが、具体的なテーマを持つようになっていって。共感できるような部分にスポットを当てて、かつ、自分の言葉で表現するようになっているんじゃないかと思う。その中で、前向きな言葉も出てきているような気がするし。聴いた人が元気になったり、前を向ける曲が多くなったなと思います。

Cö shu Nie

Cö shu Nie

──少しさかのぼると、去年6月に藤田(亮介 / Dr)さんが脱退されて、今、Cö shu Nieは中村さんと松本さんという結成当初からのお二人で成り立っています。改めて、藤田さんの脱退をお二人はどう受け止めていますか?

中村 言葉にするのは難しいんですよね。彼のことでもあるし、彼のことを汚してしまってはよくないし。私自身としては、すごく寂しいですけど……でも、Cö shu Nieという存在は、こういったことにも揺るがされないものだと思うんです。誰に何を言われようと、やるべきことをやっていく。私たちは私たちの決めた道を行く。それだけだと思うんですよね。今までもドラムレスの時期はあったし、腹は決まっていました。

松本 そうだね。もちろん、めちゃくちゃ寂しいです。でも、失ったものを見るんじゃなくて、「今できることはなんだろう?」という方向に視点は変わっていると思います。