失うものなんて何もない
──新曲「give it back」はテレビアニメ「呪術廻戦」のエンディングテーマですけど、Cö shu Nieはこれまでもアニメのテーマ曲を多く手がけてきていますよね。タイアップという形での音楽制作に関しては、どのように向き合っていますか?
中村 「呪術廻戦」に関しては個人的にめっちゃ好きだったんですけど、相手が何であっても挑戦することは好きですね。自分という芯があるからこそタイアップ曲を書ける自信もあるし、「もっともっと試したい」という気持ちがあります。どこまで脱げば自分じゃなくなるのか?そのギリギリのラインのものと色濃いもので、Cö shu Nieの世界を構築していくことができたらいいなって思います。もちろん自分資本の曲も作るけど、何かとの融合で生まれる曲には新しい刺激があって面白いです。特にアニメのエンディングは物語が終わったあとに曲が流れるわけで、聴いた人の感情を揺さぶる場面を作ることができるのは、やっぱり楽しいですよね。
──中村さんは自分と何かを融合させてみたり、自分を何かにぶつけてみたときに生まれるものを欲しているし、そのうえで自分自身に巻き起こる変化を望んでいるんですね。
中村 そういう部分はすごくあります。自分としての芯はあるけど、やっぱり影響を受けたいし、影響を受ける自分を楽しみたい。それによって失うものなんて何もないと思うんですよ。
──「失うものはない」と言い切れますか。
中村 言い切れます。バンドもけっこう長くやってきたし、その中でいろんなことをやってきました。もちろん自分の内側に籠るような曲も作ってきた。でも、どんな状況であっても「今が一番いい」と思っているし、常にそれを更新していきたいと思っているんです。どんな機会も私は表現してみたい。それは常に思っていますね。むしろ刺激がないと。せっかくメジャーでやっているんですから。刺激が欲しいです。
──そんな中村さんと一緒にバンドをやられていていかがですか?
松本 僕は中村とは違うタイプというか。言い方は悪いですけど、ちゃんとバンドを俯瞰で見ながら、中村を止めるべきときは止めて、コントロールしていく役割だと思っているんです。なので「中村がやるなら」という感じで放り投げながらも、後ろからちゃんと見て制御しなきゃいけないと思っていますね。自分の意志を前に出すというよりは、まずは中村にいろんなことを自由に感じてもらおうと思っています。
──藤田さんはどうですか?
藤田 音楽的なことでも生活的なことでも、監督(中村)は絶対に正解を出してくれるんですよ。
──生活的なことというのは?
藤田 例えば3人で「今日、何食べたい?」みたいな話をしたときに、3人の意見がバラバラになることもあるじゃないですか。そういうとき、監督は絶対に正解を出してくれるんです(笑)。
松本 確かに中村が「今日はここ!」と言ったところに行くと、「おいしかった。正解だったな」となるんですよね(笑)。
中村 それはたぶん、私が誰よりもおいしがるからだと思う(笑)。「ほら、これおいしい! ひと口食べる?」みたいな(笑)。
──中村さんが誰よりも幸せに対して貪欲だから、いいんですね(笑)。話を戻すと、「give it back」は「呪術廻戦」のどんなところに影響を受けて作られたんですか?
中村 本当にめちゃくちゃ「呪術」が好きだったから、すごくうれしくて。私たちのバンドとしての性質と「呪術」に描かれていることって、実はすごく親和性があると思うんです。「give it back」には「ひとりじゃないって 信じてみたい」という歌詞があるんですけど、「呪術」にも1人ひとりキャラクターがあって、それぞれが生きていて、1人じゃ抱えきれないこともある。そういうことを共有していくことで救われていく……。それは私たちがライブで大事にしてきた空間共有にも言えることだし、「呪術」で描かれていることにもつながるなと思って。
──「ひとりでは生きられない」と思いますか?
中村 うん。ごはんを食べるにも、その奥に農家さんの存在があったり、そういうことをわかって生きていたいと思います。みんな助け合って生きている。だからこそ「他人に迷惑をかけるな」なんて、その人が故意で何かをやっていない限りそう簡単に言えないし。もちろん程度はありますけど、許し許され生きていければと思っています。
愛が愛として伝われば
──「give it back」のストリングスアレンジは、中村さんがご自身でやられているんですよね。こういうアレンジって感覚だけでできることではないと思うんですけど、どのように学んでこられたんですか?
中村 いやあ、実は感覚だけなんですよ(笑)。
──そうなんですか!
松本 傍で見ていても、「なんでできるんだろう?」と不思議になりますよ。きっと自分が作りたい音楽を構築する音がちゃんと頭の中でイメージできたうえで、ストリングスをストリングスと思わず、あくまでも曲を構築している旋律の一部として捉えているからだと思うんですけど、中村は音のチョイスのセンスが抜群なんです。それはストリングスに限らず、「水槽のフール」のホーンアレンジなんかもそうなんですけどね。ちょっと説明がつかないくらい中村は飲み込みが速いんです。
藤田 本当にいい意味で理解できないですね(笑)。僕はどちらかというと理論で考えるタイプなんですけど、監督に引っ張られて感覚でやっていくと、音としてちゃんと気持ちいいところにたどり着く。そこが僕にとっては一番のミステリーでもあるんです。でもいくら感覚といっても、監督はきっと頭や体で覚えていることがたくさんあるんだと思うんですよね。
中村 もちろん基本的なことは知っていますけど、もっと複雑なことは耳や体で覚えてきたことで。理論を知らないまま自分自身で理論を発見してきた過程がある。それは遠回りなのかもしれないけど、だからこそ自分の力になってきたと思います。それにやっぱり楽しいのが一番ですよ。
松本 それはそうだね。
中村 楽しいから何時間でも音を組んでいられる。特に実際に弦奏者の方がスタジオに来て生で弾いてくださるレコーディングだと、「もっとこういう感じの抑揚でお願いします」と言ったら、実際にその通りに弾いて下さる。そういうのが本当に楽しいんです。もっともっと広げていきたいと思う。
──心から音楽家ですよね、中村さんは。
中村 自分で言うとちゃちな話になってしまうんですけど、すごく信頼しているアレンジャーの方が、私のことを「音楽に愛されている」と言ってくださるんです。その言葉がすごくうれしくてずっと宝物にしてます。もちろん悩むこともありますけどね。例えば弦楽器はそれぞれの楽器によって音の幅があって、運指によるニュアンスとか、どの音域がその楽器にとっておいしいかと、自分が奏でたい旋律との擦り合わせをすること。そういう部分で苦戦してきたこともあるんですけど、徐々に徐々に覚えながら作っているんです。なので私の音楽にとってはこれが正解。常に初めて音を構築していくときの感覚自体をバンドと共有してきた。その積み重ねが「give it back」に集約されていると思います。
──「LITMUS」の話につながりますけど、「give it back」もやはり歌が素晴らしく響いている曲だと思うんです。中村さんは歌詞や言葉の意味に関して、どのように聴き手に伝わればいいと思いますか?
中村 強制ではないので「どう思わせたい」みたいなものはないです。歌詞って願いや祈りのようなものなので、人の心を強制することはできないです。でも愛が愛として伝われば、ちゃんと受け取ってもらえると思っています。それもやっぱり信頼ですね。きっと「呪術廻戦」と「give it back」を通してCö shu Nieに初めて出会ってくれる人もいると思うんです。でも、初めてだからといって突き離すわけでもなく、ただただ受け取ってくれる人の心を信頼して音楽を投げかけている……それだけですね。あくまでも1曲入魂です。
配信ライブ情報
- Dive/Connect @ Zepp Online
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2021年2月9日(火)20:00~21:30(予定)
<出演者>
Cö shu Nie
スーパーサポーター:Ayase(YOASOBI)
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2021年2月9日(火)20:00~21:30(予定)
<出演者>
ライブ情報
- Cö shu Nie Tour 2021 "Elapsed Experiment"
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- 2021年3月11日(木)東京都 EX THEATER ROPPONGI
- 2021年3月13日(土)大阪府 BIGCAT
- 2021年3月15日(月)愛知県 Zepp Nagoya