ずっと、愛そうとしている
──サウンドだけでなく、中村さんの歌声もとても多様な響きを持っていますよね。曲によって声の在り様も違いますが、それが1人の人間の声なんだということは、とてもしっくりくる。中村さんは「1つの声だけでは、自分自身を表現しえない」という感覚を抱いているのかなという感じもします。
中村 それは的を射ているかもしれないです。「こうあるべき」なんていうことで片付けられないくらい、人間にはいろんな面がありますよね。「こうなりたい」とか「こうあろう」というものはあっても、そうじゃない自分だって絶対にいる。そのすべてをちゃんと許していきたいし、愛していきたいなと思うんです。違う自分や、いびつな自分を認めるという意味でも、表現の中にいろんな声やいろんな旋律、いろんなコード進行を必要としているのかもしれないです。そうすることでどんどん違う自分を出していきたいし、私だけじゃなくてみんなにも絶対いろんな自分があるから。
──そうですね。
中村 例えば怒りの感情があって、それを他人にぶつけたところで悲しみやつらさしか生まれないけれど、怒りでも表現に変えることができたら、人を温めるものになると思う。もちろん怒りをぶつける表現だっていいと思うんですけどね。それによって救われる人だっていると思うし。でも何も救われなくたって、それは存在していていいはずだから。
──アルバム「PURE」の歌詞を読むと、「僕」という主語が、その存在の中に抱えるさまざまな葛藤や力強い意志が描かれているように思えます。すごく主体的な歌詞だと思うんです。
中村 そうですね。自分以外に語り部がいないアルバムです。「サイコプール≒レゴプール」はすごく昔の曲なので、少しテイストが違う部分もあるんですけど、そのほかの曲は自分のエモーショナルな部分を書きました。「asphyxia」あたりから、すごく人間的なことを歌い出したんです。私はずっと「1人でも大丈夫だ」と思っていたんですけど、あの曲では「何度も折れた」と歌っていて。「いまだにボキッと折れたことはないよね?」とも思うんですけど、でもきっと自分でも気付かない間に何度もこっそり折れて、それをツギハギで治して生きてきているんですよね。言い聞かせて、強がって、そうしないと立っていられないときってあるじゃないですか?
──ありますね。
中村 そういうことも「asphyxia」の頃から言葉にできるようになってきたんです。
──変化という点で言うと、5曲目の「character」には「凍った海 打ち砕け idola」というラインがありますけど、Cö shu Nieの1stミニアルバムのタイトルがまさに「イドラ」なんですよね。ここにも初期の頃と現在とでの中村さんの変化が刻まれているように思えます。
中村 そうですね。「イドラ」の頃は本当に右も左もわかっていなかったんですよ。ただただ人を傷付けたくないという気持ちで自分のことを大切にできなかった部分が「イドラ」にはあるんです。でもそうやって積み重ねてきたものって、いつか自分に返ってくるじゃないですか。自分を大切にできなかったことは、いつか自分に返ってくる。だから、「打ち砕け idola」なんです。でも「捨てろ」とは言わないです。
──それはなぜですか?
中村 だって、なかったことにはならないから。そういうものも含めて、今の自分を形成しているものだから。
──先ほど中村さんは「いろんな出来事が心に蓄積していることが、音楽を作っているとわかる」とおっしゃいましたけど、今の「イドラ」の話を聞いて、中村さんはそこに暗がりがあっても本質的にとても人生を愛してらっしゃるんだろうと思えます。
中村 愛したいと思っています、ずっと。ずっと、愛そうとしている。でも「愛している」と言い切ることは難しいです。恥ずかしいし(笑)。
──言い切らないというのは誠実さですよね。このアルバムも最後の「gray」は大団円的な終わり方ではなく、唐突と言っていいような終わり方をしていて。まだその先に続きがあることを思わせるエンディングだと思いました。
中村 そこを指摘していただけるのはうれしいです。大げさじゃなくていいんですよね。演出ももちろん大切だと思いますけど、これは自分が語り部の音楽なので。必要なエモーションはあるけど、妙に長く語りすぎることはナンセンスだなって思います。
許していく。ただ、それだけ
──ちなみに最後の曲「gray」は、中村さんにとってどのような曲なのでしょうか。先ほども言ったように、このアルバムの大半の歌詞は「僕」の思いが主体的に描かれている印象ですけど、最後の「gray」は思いを聴き手に投げかけるような、視線が外に向いている感じもありますよね。
中村 「gray」は友人のための曲なんです。このアルバムでは1枚を通して過去のことを書いてきたんですよ。経験したこと、そしてこれからどうしていくかということを書いてきた。でもこの曲では「今欲しいものは過去にはない」ということを書きたくて。
──「振り返るのが嫌いなのは / 今欲しいものがそこには無いから」と歌われていますね。
中村 でもそれを歌うために1度、過去を振り返らないとダメだった……そんなアルバムだと思います。残してきたものがあるのなら振り返ってあげないと自分の性格上、納得できないところがあったんでしょうね。でも、私にはそれを表現する術があったし、みんなに聴いてもらって、ライブで演奏して、心がつながっている感覚を得ることができる。きっとそういう術を探している人もいると思うんです。そういう人たちがちゃんとしすぎなくていいから、自分を大切にしてくれたらいいなって思う。「gray」にはそういう思いも込められていると思います。
──アルバムのタイトルは、なぜ「PURE」と名付けられたのでしょう?
中村 自分の一番純粋な部分を音楽に書いたということなんですけど、「INNOSENT」ではなく「PURE」にしたのは、純粋さゆえの愚かさみたいなものが自分をあざ笑っているニュアンスですね。「PURE」ってすごくいい言葉だと思うんですけど、私にとっては完璧じゃない、愚かさみたいなものも込められている言葉なんです。
──愚かさや不完全さも受け入れて響かせることができるのがCö shu Nieの音楽の特別さなんだと思います。
中村 自分の性質なんだと思うんです。許すということが。どれだけ酷いことがあっても、その人を許す努力をすること。それはエゴなのかもしれないけど……でも自分が納得できる選択肢がいつもそれなんです。許して、愛することによって自分が納得できてきたんです。私は、私が大切なものを大切にしていきます。そして許していく。ただ、それだけですね。
ライブ情報
- Cö shu Nie Tour 2020 "PURE" -who are you?-
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- 2020年1月24日(金)京都府 KYOTO MUSE
- 2020年1月26日(日)兵庫県 神戸VARIT.
- 2020年1月31日(金)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2020年2月2日(日)愛知県 ElectricLadyLand
- 2020年2月8日(土)福岡県 DRUM Be-1
- 2020年2月10日(月)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2020年2月14日(金)群馬県 高崎club FLEEZ
- 2020年2月16日(日)石川県 Kanazawa AZ
- 2020年2月21日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
- 2020年2月23日(日)宮城県 darwin
- 2020年2月28日(金)大阪府 BIGCAT
- Cö shu Nie Tour 2020 追加公演 "PURE" -I am I-
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- 2020年3月6日(金)東京都 Zepp Tokyo