Cö shu Nieが12月11日に1stアルバム「PURE」をリリースした。
2018年6月にテレビアニメ「東京喰種トーキョーグール:re」のオープニングテーマ「asphyxia」でメジャーデビューを果たし、2019年10月にはテレビアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス 3」のエンディングテーマを担当するなど、音楽ファンの注目を集め始めているCö shu Nie。3人にとって初のフルアルバムとなる本作には、中村の繊細なボーカルと多彩な音を緻密に重ね合わせた12曲が収録されている。
音楽ナタリーではCö shu Nieにインタビューを行い、全曲の作詞作曲を手がける中村未来(Vo, G, Key, Manipulator)の作品にかける思いや、「家族のよう」だというメンバー間の相思相愛ぶりについて話を聞いた。
取材・文 / 天野史彬 撮影 / 中野修也
音楽なしでは生きることができなかった
──今Cö shu Nieは急速に認知を広げている状況ですが、そもそも皆さんがバンドを続けている目的とは一体どういったものなのでしょうか。「売れたい」というような野心があってここまできたのか、それとも違う何かがあるのか。
中村未来(Vo, G, Key, Manipulator) 単純に音楽なしでは生きることができなかったということだと思います。何か明確な目的があってバンドを続きてきたというより、それなしでは生きていけないからバンドを続けてきたんだろうなと思う。
──それは、松本さんと藤田さんも一緒ですか?
松本駿介(B) うん、一緒ですね。
中村 同じ穴のムジナだもんね(笑)。
藤田亮介(Dr) もちろん大きい会場でライブをやりたいとか、たくさんの人に聴いてもらいたいという気持ちはありますけど、まずあるのは表現したいということですね。
中村 私にとって音楽は“手段”ではないんです。“音”自体がすごく好きだから。何か伝えたいメッセージがあるというより、音を並べたり重ねたりすることで、いろんなところに連れて行ってくれる、そういう体験が好きでずっと音楽をやってきたんだと思います。でもそれを続けてきたことで、音楽ってすごく深く人とつながることができるものなんだという実感がどんどん強くなっていて。今はもうけっこうしゃべれるようになっていますけど、そもそも私は人とまっすぐにコミュニケーションをとることが苦手だったんです。だからこそ音楽が一番人と深くつながれるものだと思って生きてきた感覚があるんです。なんというか……感情が動くときってあるじゃないですか? 何か行動が作用したり、言葉が深くまで届いたりして。
──ありますね。
中村 そういう人と人の深いつながりを、私は音楽を通して感じてきたと思います。言葉足らずなまま話すよりも、音に乗せて音楽として伝えることで、すごく伝わっている実感を得てきた。もしかしたらステージ上の私たちを観ている人からすれば、それはただのライブ体験かもしれないけど、私にとっては自分が部屋でしたためたものが誰かに届いているというのは、すごくリアルなことなんです。お客さんの顔ってこちらからよく見えますからね。
私がバンドにこだわる理由
──Cö shu Nieの曲は、大半の曲の作詞作曲を中村さんが手がけられていますよね。中村さんが曲作りを始められたきっかけは?
中村 中学生の頃までピアノをやっていたんですけど、事情があってピアノを続けられなくなって。そのあと楽器屋さんで青いストラトを見つけて、「どうしても弾きたい!」という謎の焦燥感に駆られたんです。それを手に入れて、高校生くらいから曲を書き始めました。「asphyxia」のシングルに入っている「PERSON.」はその頃に作った曲ですね。
──“音”を好きになったのはピアノを習われていた頃ですか?
中村 そうですね。音の重なりが好きなんです。“ソ”と“ラ”がぶつかるときの感じとか、空間が揺れる感じとか。私は自意識が芽生えるのが遅かった感覚があって、子供の頃からずっと目をつぶったまま闇を走り回っている感じで生きていたんです。それが音楽を作ることによって、知らぬ間に救われていたんだろうと思います。
──松本さんと藤田さんから見て、中村さんの作る曲にはどのような魅力がありますか?
松本 “自分の理想的なもの”という感じがします。「こういう音楽がこの世にあったらいいな」と思い描くけど、形に表せなかったものを見事に具現化してくれている。こっちから何かを言わなくても、「これできたよ」って出してくれた曲を聴いた瞬間に「俺は今、これが欲しかったんだよ!」と思える……本当に魔法みたいなんですけど、そういう曲を作ってくれるイメージです。
──それって音楽家としてすごい体験ですよね、きっと。
松本 もう、ほんっとうに幸せですね(笑)。めちゃくちゃ幸運だと思う。
──藤田さんは?
藤田 僕はもう、話すことないです(笑)。
松本 一緒だよね?
藤田 うん、一緒。新曲のデモをもらうといつも新しいと思うし、それが作らされてできたものではなくて、「本当に音楽が好きで、楽しいんだ!」という気持ちからできたものなんだとわかるんですよね。もう本当に「ありがとうございます!」って感じです(笑)。
──音楽をやるにもさまざまな選択肢があると思いますが、今中村さんがバンドという形態を選ばれているところにはどんな理由があるのでしょう?
中村 今、私がバンドにこだわる理由はこの2人ですね。プレイヤーとしても素晴らしいし、何より波長が合うんです。音に感情を乗せていく温度感とか、すべてがハマっているとしか言いようがない。この2人がいるから私はバンドをやっているんだろうなって思います。2人は楽器1つに命を懸けて、自分のすべてを乗せているプレイヤーだと思うんです。大げさに聴こえるかもしれないですけど、私は本当にそう思っているし、2人はそれを更新し続けている。だからすごく尊敬できるし、私の音楽的レベルを引き上げてくれる存在だと思います。
──先ほど中村さんは「音楽は深く人とつながることができるものだ」とおっしゃいましたけど、それは聴き手とのつながりだけではなく、メンバー同士のつながりでもあるんですね。
中村 だって1人じゃできないでしょう? バンドって家族みたいなものだと思います。
「コーナン」という名の楽器屋さん
──音楽的な面で言うとCö shu Nieの楽曲は“3ピースのバンドサウンド”という言葉では説明が付かないくらい多様な音が重なっています。曲作りはどのようにして行うのでしょう?
中村 私がデモである程度しっかりと作るんですけど、それをもとに2人に自由にプレイしてもらって。録音はセルフでやりながら、「この上にどんな音を乗せようかな?」と考えていく感じです。デスクトップミュージックの豪華バーションみたいな感じですね(笑)。
──Cö shu Nieの楽曲は1曲の中でも本当にいろんな音が鳴っていますよね。例えばアルバム「PURE」では再生するとまず“チャリン”という金属音がしますけど、あれは?
中村 あれは鍵の音です。まずは鍵を開けてからというイメージで。ほかにも「inertia」には砂の音を使っていたりします。
藤田 「コーナン」という名のホームセンターで、僕らにとっては楽器屋さんがあるんですけど(笑)、そこでいろんな音を探したりしています。
──なるほど(笑)。楽器の音だけじゃなくても、この世界に生まれるさまざまな音を自らのバンドサウンドの一部として捉えることができるんですね。
中村 日常すべてに影響を受けていると思います。音だけじゃなくて、いろんな出来事が全部、蓄積していくんですよね。こうやってお話ししていることも、「あのときこういうことを思ったな」ということも、例え覚えていなくても自分の心に蓄積されていくものなんだなって、音楽をやっていると特に思います。
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1人だけポップスじゃないやつがいる!