ナタリー PowerPush - Cornelius
音楽で紐解く「攻殻機動隊」の世界
「ぬけがら」に隠された衝撃
──ほかにも「Action Woman」のイントロがTalking Heads「Once In A Lifetime」を思わせたり、「Surfin' on Mind Waves」にマイク・オールドフィールド「Tubular Bells」の影を感じたり、すごくニューウェーブ愛があるアルバムでもあるな、と思いました。
その2曲に関しては特に意識してなかったけど、ニューウェーブ愛に関しては根深く染みついたものがあるからね(笑)。鉄っぽさとかインダストリアル感にこだわると自然とそうなっていくっていうのもあると思うけど。
──鉄っぽさといえば、「Encounter An Enemy」。イントロの高音はギターのヘッドの部分に張られている弦を弾いたものですか?
そう。ギターは自分が音を出す際のインターフェイスとして一番コントロールしやすい楽器だし、金属的な音を出す「ノイズ発生装置」として使った部分も多いかな。あと、今回の仕事に関してはほとんど制約がなかったんだけど、唯一「Breaking Point」に関しては「ギターでお願いします!」と言われて。まあ、制作サイドからの注文というのはそのぐらいで、あとは好きなようにやらせてもらえたんだけど。
──Corneliusからの注文というのはどうでしょう。例えば「じぶんがいない」「外は戦場だよ」の作詞を担当した坂本慎太郎さんとの打ち合わせというのは?
すごいちゃんとしたわけではないんだけど、「じぶんがいない」に関しては構造的に難しいものなので、そこだけは最初に説明した。1文字でも2文字でも3文字でも成立する言葉──今回の場合は「き」であり「きく」であり「きおく」になったんだけど──そういう言葉をハメることはできないかなって相談したんだよね。手法自体はsalyu×salyuで試していたことなのですぐに理解してもらえたけど、実際の作詞はかなり大変だったみたいだね。最終的には「攻殻機動隊」の世界観を共有しつつ、曲単体で聴いても大丈夫ってところに着地させてくれたし、すごくがんばってくれたと思う。
──「なぜいない」という繰り返し。その浸透力も絶妙ですよね。繰り返しというのは本来意味を強めるものだと思うんですけど、この場合はだんだんと耳に馴染むことで……。
見えなくなるんだよね。繰り返せば繰り返すだけ言葉本来の意味を失って、サウンドの一部になっていく。逆に、ブツ切れ感のある言葉というのは意味がだんだんとにじみ出してくるから、この曲の歌詞にも「ゴースト感」が出てると思う。機能として完全に優れているというか、パズルが組み合わさったときにひとつ世界観が浮かび上がるようにできてるよね。
──以前坂本さんの取材に立ち会ったときに、「2行にわたってひとつのことを説明するような歌詞はスピードが落ちる。1行で言い切らないと」という意味のことを話されていたのがすごく印象に残っているんですけど、ここにもその手法が実践されていると思います。
やっぱりすごいのは、きちんとテーマや内容に寄り添いながら、自分のセンスややりたいことを入れ込んでくるところ。自分が一番印象に残ってるのは「外は戦場だよ」の「抜け殻」って言葉で、この曲のピークって「♪ぬけがらー」っていうポルタメントの部分だと思うんだけど、そこにしっかり「攻殻機動隊」の「殻」の字を入れ込んでるんだよね。
──アハハハハ!(笑)
これはプロフェッショナルだなあって(笑)。言わなければ誰も気付かないと思うんだけど、そのぶん気付いたときの衝撃がデカいでしょ? 音で聴いてるとわからないんだけど、歌詞カードを見たときにちょっとドキッとさせるテクニックというか。
──相当に研がれてますね。
研がれてる研がれてる(笑)。
あんなに楽しく歌えたら
──「外は戦場だよ」は青葉市子さんのソロアルバムに入っていてもおかしくない楽曲ですよね。アルバム「0」の1曲目「いきのこり●ぼくら」にも通じる、救いがないようであるような、不安から明るみへのグラデーションの部分で、かなり近いものを感じたんですけど……。
そのへんはお互い意識していないと思うけど、そう言われてみれば似ている部分があるかもしれないね。どっちもちょっとマイナーっぽい感じで。細かく構築された「じぶんがいない」に対して、こっちはずっと一筆書きに近いというか、確かに市子ちゃんにクラシックギターを持ってもらって「せーの」でやっても成立するような曲にはなってると思う。
──Salyuさんと青葉市子さんはまったくタイプの違うボーカリストなわけですが、Corneliusが共演者に選ぶボーカリストの条件みたいなものがあったら教えてもらえますか?
難しいな……(熟考)……もちろん好き嫌いはあるんだけど、このタイプじゃないと嫌っていうのはなくて、あくまで出会いのタイミングもあるし、感覚的なものもあるし……うーん共通する傾向か……あ、2人とも歌が好きなところかな。近くで歌っているのを見ていて「本当に歌が好きなんだなー」って思えるところが好きです(笑)。
──Cornelius自身、歌は好きじゃないですか?
決してメインのパートではなくなってるね。だからこそ歌が好きな人に惹かれるというのはあるかもしれない。ボーカルって自分自身が楽器になるわけだから、あんなに楽しく歌えたら気持ちいいだろうなって。
──姿勢の部分が大きいわけですね。
もちろん歌がうまいというのは大前提だし、声質自体はクセのある人も好きなんだけど、一緒に音楽を作るのであれば、人間的にフラットな人、素直が人がいいからね。Salyuも市子ちゃんも素直に歌に向き合ってる感じがすごくするし、何より楽しそうだし。
──最後に、今後音楽を付けてみたい映像というのはありますか?
うーん、これも難しい質問だな……(熟考)……あ、古い映画のリメイクでもいい? だったら「コヤニスカッツィ」かな。ゴッドフリー・レッジョって監督が撮った80年代始めのドキュメンタリーで、音楽はフィリップ・グラス。確か(フランシス・フォード・)コッポラがプロデューサーなのかな。これは音楽と映像だけで一切台詞がない映画で、すごく創作意欲を刺激されるし、いつか自分でもそういうものを作ってみたいと思わせてくれる作品なんだよね。……あ、もちろん「攻殻機動隊」の仕事がつらかったってわけじゃないですよ(笑)。
収録曲
- Opening Title
- GHOST IN THE SHELL ARISE
- Surfin' on Mind Waves
- Breaking Point
- Instability Mobility
- Highway Friendly
- じぶんがいない(salyu×salyu)
- Confusion Diffusion
- Self Running Landmine
- Logicoma Beat
- Mystic Past in the Mist
- Encounter An Enemy
- Action Woman
- ToughDAF
- Solid Iced Air
- 外は戦場だよ(青葉市子 コーネリアス)
- In The Shell
- Star Cluster Collector
- Ending Title
Cornelius(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「SENSUOUS」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。