ナタリー PowerPush - Cornelius
音楽で紐解く「攻殻機動隊」の世界
Corneliusのアニソン定義
──最初に取り組んだ曲というのは?
テーマ曲(「GHOST IN THE SHELL ARISE」)。まずはここに使いたい音をすべて並べてから、その音色やフレーズをほかの曲に伝染させていくっていう作業もあって。やっぱりサントラの仕事っていうのは全体の音色を統一することでひとつの世界観を構築することだとも思うし。
──アニメの色彩設計と一緒ですよね。最初に使う色を絞ることで全体のトーンをならすというか。
すごく近いと思う。同じ旋律をサブリミナル的に入れたりもしてるし、そういう意味ではすごくまっとうなサントラの作り方なんじゃないかな。あと、このテーマ曲に関して言えば、とにかく「ゴースト感」っていうのを出したかったのね。いかようにもとれるようなテンポ感で、暗くも明るくもなくて、半透明な感じ。コードは循環っぽく聞こえるんだけど、実はずっと展開し続けていて、いつまでもつかめない、覚えられない。他の人が演奏しようとしても、どんどん先に進んでしまうようなもの。
──なんなら聴き流すこともできるぐらいにスムーズな曲なのに、「どんな曲? 歌って?」と言われても説明できない曲ですよね。繰り返される「ゴースト」という言葉だけを頭に残して、いつの間にか終わってしまう。
その繰り返しって、自分のアニソン定義にとってはすごく重要なもので。
──というのは?
単純な繰り返しならではのキャッチーさを狙いたかったっていうのもあるんだけど、山下毅雄が音楽をやってた最初の「ルパン三世」のテーマで、ラテンのリズムでずっと「♪ルパンールパンールパンー」って連呼してるやつ。あれが念頭にあったの(笑)。タイトルを歌うっていうのはわかりやすさの究極だと思うし、たまにさ、なんの説得力もなしに本編と全然関係ないバンドの曲がタイアップで入ってくるアニメってあるでしょ? 絶対にああいうのは作りたくなかったのね。そもそもタイアップじゃないし。
──(笑)。小山田さんの中で、アニソンを手がける際の落とし前というか自己問答がたくさんあったというのが伺えますね。20年近く前の話ですが、「ちびまる子ちゃん」主題歌「ハミングがきこえる」への心ない意見もありましたしね。(※Corneliusが提供した1996年当時のテーマ曲。作詞はさくらももこ。ボーカルはカヒミ・カリィ)
あったあった(笑)。「せっかくの日曜日なのに暗い気持ちになります」って新聞に投書されたんだよ。あれはちょっとトラウマになったな(笑)。あれ以来アニソンはやってなかったもん。
まったく新しい攻殻機動隊のために
──そもそもアニメ、そんなに詳しくないですか?
実はまったく通ってないんだよね。「ガンダム」でノレなかったから。
──ファーストガンダムも?
うん。プラモ2個作って終わった。ドムと量産型ザク。
──またスター性のない。
ドムのフォルムはわりと好きだったけどね。でも、そこでノレないともう駄目ってのはわかるでしょ?
──基礎ができていないと落ちこぼれちゃう。
そうそう。「ガンダム」も解けない人が「エヴァンゲリオン」を解けるわけがなくて。だから「攻殻機動隊」も、まずDVDのボックスをもらったんだけど、ずっと箱だけを眺める状態が続いて。
──アハハハハ(笑)。
そしたら子供が観始めて、「けっこう面白いよ」って推薦されて(笑)。そこからだんだんと魅力に気付いていった感じなんだよね。
──「攻殻機動隊」といえば菅野よう子。菅野よう子といえばアニメ界の大御所作曲家ですが、じゃあ、そこからのプレッシャーというのもなく。
もちろん菅野さんの名前は知ってたし、UNIQLOの目覚ましアプリ(UNIQLO WAKE UP)で、菅野さんの曲を僕がアレンジする仕事があったので面識もあったんだけど、アニメ界での評価というのはまったく知らなかった。菅野さんの曲をいろいろ聴かせてもらったときも、CMソングに好きなものが多くて……でも(菅野よう子のアニメ仕事を)知らなかったからよかったというのはあるかもしれないね。もちろん続編をやるからには前作(「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」)も観せてもらったけど、だからといって意識も萎縮もしなかったし。
──まったくの「新作」として取り組めたと。
うん。そもそもこれまでとは脚本も監督も違うわけだし、タイミング的にも「新しい攻殻機動隊を作るんだ!」と盛り上がってるところに呼んでもらったわけだしね。
──これまでのシリーズに思い入れの強いコアなファンというのは、かえって「少しだけ変えたもの」へのジャッジは厳しいと思うんですよ。
そうだよね。その点これはまったく新しいものだから、意外とすんなり受け入れてくれるんじゃないかな。
電子音と生音の“半分人間”感
──2作続けてみての実感というのはありますか?
これは「攻殻機動隊」に限った話じゃないと思うけど、アニメの音楽っていうのは、最終的には音響監督の判断によるところが大きくて、全部の曲が採用になるわけじゃないし、最初のコンテとは別のシーンに使われることもあるっていう、ラッシュ(試写)までは完成がつかみにくいものなのね。ただ前作ではそのあたりのさじ加減というのがよくわかってなくて、けっこうガチガチに作り込みすぎちゃった結果、「ほかのシーンに流用できません」みたいなことを言われたりして。でも今回はその反省を踏まえて、もう少し柔軟なものを心がけて。結果的にはそれがすごくよかったと思うし、絵と音のシンクロ率を上げる結果になった。オープニングのハマり具合からしてそこは感じてもらえると思うな。あと、やっぱり「攻殻機動隊」は義体化された人間が活躍するっていうのが一番の面白さなわけだから、電子音と生音のバランスっていうのはずっと意識していて。その面でも今回のほうが徹底できた気がする。全体的にはひんやりしていて冷たいんだけど、ときどき入る肉声だけに温度がある感じというか。
──ミニマルテクノをベースにした「Logicoma Beat」にしても、ピッチベンドされたシンセに不思議な肉感があって、歌詞までが聞こえてくるような気もします。
これはまさにロジコマが歌ってるイメージだね。シンセのパラメータを細かく設定していって、人間には歌えないメロディっていうのを書いていった。ロジコマって未来のロボットにしてはかなり旧型というか、鉄板とネジ!って感じの造型でしょ? 「禁断の惑星」のロビーみたいな。どこかペットっぽいイメージ。そうなると、例えばボーカロイドのメカっぽさを充ててしまうというのは違和感があるんだよね。「攻殻機動隊」の中では唯一の癒し系キャラだし(笑)。
──人間のほうは全員が疲れてますからね。登場人物全員が悩んでて、全員が不幸で。シャワーのお湯もぬるそうで。
ハードSFはみんな暗いよね。例えば1970年の万博なんかを思うに、あれは明るい未来を想像できてた時代のものだって感じがすごくするけど、80年代以降は世の中的にも暗い未来のほうが簡単に想像できるようになって、それこそ万博感みたいなものはなくなって久しい。そうなると、もう能天気な作品というのは成立しなくなってくる。ただ、僕らはそれに慣れちゃったからね。特に自分たちより下の世代なんて、それがデフォルトなわけだから……。
──そのぶんメタリックな質感であったり「半分人間」感に関しては日々のアップグレードが求められると。
それってノイバウテンだっけ?(※ドイツのノイズ / インダストリアルグループEinstürzende Neubautenの1985年作「Halber Mensch」の邦タイトルが「半分人間」)
──(笑)。「攻殻機動隊」はCornelius流のインダストリアル仕事でもありますよね。そういえば「ToughDAF」というキラートラックもあります。まさにDAFの「Sato Sato」をタフにしたような。
これは基本的にシンセベースとドラムマシーンが核になってるんだけど、そういうサウンドでやってるアーティストの代表格が、自分の中ではDAFなんだよね(笑)。わざわざ聴き直して参考にしたりとか、そういうものではないんだけど。
収録曲
- Opening Title
- GHOST IN THE SHELL ARISE
- Surfin' on Mind Waves
- Breaking Point
- Instability Mobility
- Highway Friendly
- じぶんがいない(salyu×salyu)
- Confusion Diffusion
- Self Running Landmine
- Logicoma Beat
- Mystic Past in the Mist
- Encounter An Enemy
- Action Woman
- ToughDAF
- Solid Iced Air
- 外は戦場だよ(青葉市子 コーネリアス)
- In The Shell
- Star Cluster Collector
- Ending Title
Cornelius(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「SENSUOUS」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。