ナタリー PowerPush - Cornelius
音楽で紐解く「攻殻機動隊」の世界
Corneliusが音楽を担当した映画「攻殻機動隊ARISE」のサウンドトラックアルバムがリリースされる。Corneliusはこの作品のために、劇中のさまざまなシーンで使用される19曲を書き下ろしで提供。アルバムにはsalyu×salyuによる「じぶんがいない」、青葉市子が歌う「外は戦場だよ」などのボーカル曲も収められ、最新のCorneliusサウンドを堪能できる仕上がりとなった。聴き手の想像力を刺激し、作品の世界を鮮やかに彩るこのアルバムはいかにして作られたのか。小山田圭吾に話を聞いた。
取材・文 / 江森丈晃 撮影 / 佐藤類
じゃばらのワープ感
──(テーブルにCornelius×攻殻機動隊ARISEモデルのブッダマシーン。2台が同時に鳴っている)……インタビュー前になんですが、これ、ものすごく労働意欲を奪う音ですね。
(笑)。ハマる人はハマるよね。テーマ曲を含めてここに3曲入ってるんだけど、この2曲はキーも一緒だから、複数台同時に鳴らしてもらうとかなり面白いことになる。これは自分がうれしくてね。アーティストオフィシャルはThrobbing Gristleのやつ(GRISTLEISM)以来出てないはずだし。
──音程を変えられるベンドの機能もあって。
これがあることで演奏の要素が出てくるから、iPhone2台で同時に鳴らすのとは、また楽しみが全然違う。こないだもバイノーラルマイクの周りをこれで囲んで録音してみたんだけど、タイミングによっては別の曲が聞こえてきたりもして。
──CDジャケットの仕様も相当にトランシーですね。
これは赤い紙を黒で塗りつぶしたっていうのがポイント。そうすると紙の裁断面だけが赤くなるでしょ? それが「トロン」のワイヤーフレームみたいな効果になるんじゃないかと思って提案してみた。紙をじゃばらに重ねて表現した奥行きやワープ感っていうのはミニマルとかドローンの基本ビジュアルだし、紙でのトライアルは「デザインあ」のCD(参照:Cornelius「デザインあ」インタビュー)とも地続きだから、これもかなり気に入ってる。
器としての音楽
──その「デザインあ」にしても映像に音楽を付ける仕事だったわけですが、「攻殻機動隊」シリーズはまた全然アプローチが違いますよね。
まったく違うね。「デザインあ」は感覚的な表現で、音と絵だけで進行するから言葉の必要性はあまりないし、説明も少ない。でも「攻殻機動隊」の場合は劇中の台詞や人間関係がかなり入り組んでいて、感覚だけではついていけないし、ロジカルに考えなくちゃいけない部分も多い。そういう情報量の違いっていうのはすごく大きかったと思う。コーナーによっては音だけで説明していくこともあった「デザインあ」に比べて、「攻殻機動隊」は、もっと器としての音楽が求められるというか……。
──うつわ?
劇中のいろんな要素を受け止めながら、空気として物語全体を包むためのもの……かな。だから、台詞やクラッシュ音が入ることを想定して、あえて余白を残した部分というのもあるし。
──確かにサウンドの迫力や速度に比べ、実際に鳴ってる音っていうのはそれほど多くない印象ですね。
詰め込みすぎると失われるスピード感っていうのがあるんだよね。とくにバトルシーンの音楽はそうなると成立しないから、そのぶん音の配置とか余韻には気を遣ったかな。
──具体的な発注の流れとしては、「次はバトル用の曲をお願いします」みたいな感じなんですか?
そんなざっくりしたものじゃなくて(笑)、一応全体のストーリーが俯瞰できる台本と、QuickTimeで時間軸をつけた「Vコン」というコンテ──これが薄ーい色鉛筆で描かれててあんまり見えないんだけど(笑)──があって、そこに注意点とかキーワードがメモされているのね。例えば「緊張感」とか、「不安」とか。
──じゃあ、それを細かく読み解きながら。
でも、基本的には大きく3種類ぐらいなのかな。苦悩や疑心の心象風景と、緊張感を煽るサスペンス。あとはバトル。その3種類を細かく作りわけていく感じだね。「バトルでカーチェイス」というお題が「Highway Friendly」になるっていう。前作(「攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain」)はサスペンスが多め、最新作(「攻殻機動隊ARISE border:2 Ghost Whispers」)はバトルが多かったので、1枚のアルバムとしてはいいバランスになったと思うけど、あくまでそれも結果的なもので、基本はコンテ通りに音を付けていくって作業だね。
収録曲
- Opening Title
- GHOST IN THE SHELL ARISE
- Surfin' on Mind Waves
- Breaking Point
- Instability Mobility
- Highway Friendly
- じぶんがいない(salyu×salyu)
- Confusion Diffusion
- Self Running Landmine
- Logicoma Beat
- Mystic Past in the Mist
- Encounter An Enemy
- Action Woman
- ToughDAF
- Solid Iced Air
- 外は戦場だよ(青葉市子 コーネリアス)
- In The Shell
- Star Cluster Collector
- Ending Title
Cornelius(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「SENSUOUS」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。