ナタリー PowerPush - Cornelius
モジュール設計で構築した音楽「デザインあ」サウンドトラック
「解散!」ハッサク回の衝撃
──そして中村勇吾さんからは……。
製作のお願いをしてからのできあがりの早さと完成度に驚いていますが、曲はどのように考えて、つくっているのでしょうか? 打ち合わせのときに、もうイメージができあがっていたりするのでしょうか? それとも作りながら考えているのでしょうか?
……と来ています。
作業的には、まず最初に絵コンテがあるので、それを見ながらイメージを膨らませていく感じかな。歌詞があるものに関してはそこに寄り添った音にしたいし、やっぱり曲によって違うと思う。ただ、今回は全体の音数が少なくて、サウンドスケッチ感を強く打ち出した音だから、確かに作業は早かったかもしれないね。でもそれは勇吾さんに負うところも大きいんだよ。最初にとりかかったのは番組のオープニング「デザインあのテーマ」なんだけど、最初の打ち合わせの段階では、すでに歌詞だけはできている状態だったのね。でも、番組全体に「あ」って強いキーワードがあるから、それを活かしたいと思って、せっかくなので「あ」って音だけで作るのはどうですか?って提案したら、すぐにそれが通って。そういう意思疎通ひとつとっても、すごくやりやすかったし、早い段階からみんなが同じ方向を見れていたのはよかったな。
──テーマソングのミニマルさが、番組の内容にまで浸透している感じはありますよね。単なる映像担当 / 音楽担当という分業ではなくて。
そうだね。対等なものづくりをしていた感覚はあるかな。それはいろんなコーナーを担当した人たちも含めてなんだけど。よく覚えているのは「解散!」の試写をやったときのことで、これは日常のいろんなものをパーツに分けて並べていくっていう、コマ録りアニメのコーナーなんだけど……。
──例えばランドセルなら、皮から金具から全部をバラバラにして整然と並べていく。
そう。で、僕らが最初に観た映像のお題っていうのが、ハッサクだったのね(笑)。
──みかんの。
みかんの。もうね、皮と房はもちろん、房の中の果肉ひと粒ひと粒をバラして並べてて(笑)。みんなそれに衝撃を受けて、ちょっとこれは大変なことになったぞと(笑)。「解散!」はその後も伝説の回がいくつかあって、七味唐辛子とかは本当にすごかったな(笑)。最近は自分たち(撮影スタッフや機材)を解散させたりしてるし、もう後戻りできない状態になってて(笑)。
モジュール設計で作る音楽
──それではアルバム「デザインあ」について具体的に訊いていきたいんですけど、これは小品が25曲も並ぶってこともあって、独特のサンプラー感があるというか、80年代のRecommended Recordsとか、もっと前の電子音楽のコンピレーションにも通じる質感がありますね。
あるある。60年代にブルース・ハークのDIMENTION 5が出してた子供向けレコードとか、「Powers of Ten」(建築家 / 映像作家のチャールズ・イームズ夫妻によって制作された1968年の教育映画)のサントラとかね。あと、僕はモーガン・フィッシャーがコンパイルした「Miniatures」ってアルバム(THE RESIDENTSやロバート・ワイアット、マイケル・ナイマンら51組のアーティストに「1分の曲」というお題を与え制作された1980年発表のコンピレーション)が大好きなんだけど、そういう企画ものに通じる軽さとかテンポは出てると思うな。
──その意味でも、2040年にどう発掘されるのかっていうのが、すごく楽しみなアルバムなんですよね。全体としては、広い床に、音の鳴るブロックがバラバラに並べられているような印象があります。
そもそも音楽だけを取り出して聴かれるものとしては作っていなかったからね。最初はある程度まとまった量の音楽を作ったんだけど、1学期ごとに新しいコーナーが増えていって、そのたびに少し音楽が必要になって、学年が変わってまた……みたいに少しずつ溜まっていったものだから、そういう印象を受けるのかもしれない。
──ただ、そのブロックを、聴く人それぞれがカタチにしていける、みたいな自由度も魅力なんですよ。
やっぱりそれも番組の性格にあわせたものだね。元々この番組っていうのは、いくつかの独立したコーナーをランダムに並べるっていう、モジュール設計になっているのね。いろんなコーナーを自由に組み替えることによって、番組が進行していく。だから僕もコーナーごとの音楽を独立して制作するのはもちろん、それがどの順番でつながってもいいような状態にはしていて。なおかつ実際の放送では、画面に何かが出てきたときの音とか、何かを閃いたときの音っていうのもセパレートしておいて、それを随時音効さんにハメ込んでもらったり。
──映画やドラマの劇伴以上に厳密なシンクロ率が求められる仕事ですよね。
そうかもね。でも、そういう作業はCorneliusがライブでやっていたこととすごく近いから、外しちゃいけないポイントをつかむのはすごく早かったと思う。
意識したのは“子供という生き物”
──今回のフィーチャリングボーカリストは、Chocolat、嶺川貴子、大野由美子(buffalo daughter)、salyu×salyu、やくしまるえつこ、と全員女性ですが、これはやっぱり、母性を意識してのものですか?
そうだね。最近は、ここにきて男性ボーカリストを使うのもアリかな、って思ってるけど。
──たまに帰ってくるオヤジ。
(笑)。そうそう。ただ、子供的にはやっぱり女性の声のほうがとっつきやすいよね。基本、丸くて優しい感じなんだけど、ときどきアニメっぽい、キャラクターの強い声が入ってくるみたいな感じ。Chocolatとかやくしまるさんの声なんかは子供はみんな好きだと思うし、これもやっぱり、サウンドの機能を考えての人選で。
──小山田さんの声は、オープニングとエンディングのみですね。
低音域を補いたい箇所だけ。1曲目「デザインあのテーマ」は、人間の声とクラップと口笛、つまりは人体の発する音だけで作ってるから、どうしても低い声が必要になって、誰かに頼むのも面倒だし、それなら自分で歌おうかなっていう。歌うというよりは、素材録りだね。Chocolatにも「『あ』って言って」ってお願いして、それだけで帰ってもらったし(笑)。
──「デザインかぞえうた」の冷淡なボイスサンプルは「Count Five or Six」や「Gum」を思わせますね。「ロングクラッチB」を聴いて喜ぶ男の子も浮かびます。
確かにその2曲はすごく男の子っぽい。メカっぽい曲だね。子供はロボ声が好きだよね。
──頭に思い描いていた“子供像”というのは、やっぱり男の子でしたか?
うーん、そこはザックリ子供って感じかな。“子供という生き物”って感じ。子供のことは意識したけど、顔までは思い浮かべてなかったかもしれない。
- サウンドトラックアルバム「デザインあ」 / 2013年1月23日発売 / 2000円 / Warner Music Japan / WPCL-11286
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CD収録曲
- デザインあのテーマ(うた:ショコラ)
- デザインの観察
- デザインかぞえうた
- ロングクラッチA
- 解散!
- デッサンあ
- まるとしかく(うた:嶺川貴子)
- かたちの式
- はせる
- Sound of Composition
- ない世界
- やじるしソング(うた:やくしまるえつこ)
- からだのカタチ
- 1DAY
- デザインの人
- ロングクラッチB
- おととおんがく(うた:大野由美子)
- あな
- 解散!(リバース)
- モノ目線
- ぶぶん
- 思ってたんとちがう
- カラーマジック(うた:salyu×salyu)
- ロングクラッチC
- エンディングテーマ
企画展「デザインあ展」
- 会期
- 2013年2月8日(金)~2013年6月2日(日)
- 休館日
- 火曜日(4月30日は開館)
- 開館時間
- 11:00~20:00(入場は19:30まで)
- 入場料
- 一般1000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料
- 会場
- 21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)
- 展覧会ディレクター
- 佐藤卓、中村勇吾、小山田圭吾
Cornelius(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「SENSUOUS」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。