ナタリー PowerPush - Cornelius
モジュール設計で構築した音楽「デザインあ」サウンドトラック
Corneliusの新作「デザインあ」は、NHK Eテレの教育番組「デザインあ」のために制作された楽曲を収めたサウンドトラックアルバム。CDにはChocolat、嶺川貴子、大野由美子(buffalo daughter)、salyu×salyu、やくしまるえつこがボーカルで参加した楽曲を含む計25曲が収録されている。斬新な音楽的手法によって、子供たちに「デザイン的思考」をわかりやすく伝える1枚だ。
ナタリーではこのアルバムの完成を記念して、小山田圭吾にインタビューを実施。そのアイデアの源について話を訊いた。
取材・文 / 江森丈晃 撮影 / 五十嵐絢也
従来の子供番組とは明らかに違うもの
──(最近あまり見ない気合いの入った特殊仕様ジャケットを開封して)この、ボヨヨヨーンってなるのがいいですね。
厚紙の反作用でポップアップする。びっくり箱みたいで子供は喜ぶかもね。これは、さんかく、しかく、(コンパクトディスクの)まるっていうカタチの3要素に、「あ」の型抜きが乗っているっていうジャケットで、デザイナーの北山(雅和)くんががんばってくれた。でも、ホントはこのステッカーの部分を……ね。
──なんですか?
や、あの……NHKの集金が終わった後にドアに貼られる銀色のシールあるでしょ? あのデザインにしたかったの(笑)。もちろんダメなんだけど、あのデザインはすごくいいよね。キラカードっぽくて。……まあ、今回はコスト的にも難しかったんだけどね。キラだから。
──(笑)。キラはダメでしたけど、音には子供の興味をかき立てる要素はたくさん詰まってますね。
「デザインあ」は大人も観てくれているけど、基本的には教育番組として制作されたものだしね。そこは最後まで意識して。対象年齢は、多分2~3歳から小学校の低学年ぐらいまで。そこからだいぶ飛んで、大人って感じなのかな。
──子供にテレビを観させて洗い物しているお母さんも、この音ならリビングまで来るかな、という出来ですよね。先に洗濯もの畳もうかしら、みたいな。
従来の子供番組とは明らかに違う音楽だし、映像だからね。日常の生活にいきなりこれが流れるっていうのは、かなり狂ってるよ(笑)。
──カウンターアートですね。実際の反応って、どんなものがありましたか?
こないだうちに親戚が集まったときに録画を流してみたら、小さな子はみんな集まってきて、それぞれどこかしらに引っかかってくれてるように思えたけど、うちの息子はもう大きいので、全然ダメ(笑)。もっと刺激の強いもの、例えばゲームなんかにハマっちゃってるから、あんまりいい反応は返ってこなかったね。そもそもずっとテレビの前にいるのが飽きちゃうみたいで、しかもこういうミニマルな番組だから、「つまんねー」ってどっかにいっちゃう(笑)。
──淋しい。もうちょっと大きくなったらよさがわかるのにな、って。
ね。ただ、幼少期に観たり聴いたりしていたものって、どこかしらに刷り込まれていて、大人になったときに、突然「あれってこういうことだったんだ!」ってつながることがあるでしょ? だから全くの空振りではないと思うんだけどね。でも、大人なら誰でも楽しめるってわけではないと思う。年齢っていうよりも、こういうものに興味があるかないかの適性もあって、ダメな人は徹底的にダメでしょ。僕らとしては責任も大きいし、全ての層に訴えかける、強くてシンプルなものを作ったつもりなんだけど。
“すごくいいチーム”で制作
──番組の「デザインあ」はそろそろ2年目に入りますが、スタート当時のことって覚えていますか?
元々この番組の企画は佐藤卓さんっていうデザイナーがずっと温めていたもので、2010年にパイロット版を放送しているんだけど、そこに映像ディレクターの中村勇吾さんが加わって、今度は勇吾さんに僕が呼ばれてっていう、3人のチームで再スタートしたものなのね。ただ、勇吾さんは前にも一緒に仕事をしていて。片山正道さんっていう、海外のUNIQLOとかBATHING APEの内装をやっているインテリアデザイナーの娘さんがうちの子と同じクラスで、彼がホームページを作るときに「何か音を作って」って頼まれたんだけど、そのときのWEBデザイナーが勇吾さんで。それ以来、一緒にCMをやったりしてる。
──小山田さんから見た、チームの印象というのは?
佐藤卓さんは、僕らが普段の生活で目にするような、例えば食品のパッケージであったり、携帯のプロダクトデザインをやってる大御所の人で、すごくシンプルな理念を持ってる人だと思う。NHKだと「にほんごであそぼ」って番組を担当していたり、作るものに温かいアナログ感がある。番組のロゴも作っているし、全体のプロデュースをする人だね。勇吾さんは同世代で、ヤングチームをガンガン動かして、実際の映像を作っていく人。とにかく話が早くて面白いから、あんまり打ち合わせらしい打ち合わせをした記憶っていうのがないぐらいで。すごくいいチームだと思いますよ(笑)。
スカスカぐらいがちょうどいい
──実は今回のインタビューにあたって、佐藤さん中村さんからの質問を預かっていて。
そうなんだ(笑)。
──まず、佐藤卓さんからは……。
「デザインあ」は音楽がとても重要な役割りを担っています。小山田さんの音楽がこの番組のトーンとリズムをつくってくれていることは云うまでもありません。強すぎず弱すぎない、そして熱すぎず冷たすぎない微妙な力加減が、映像と相まって観る人を引きつける磁力、もしくは言い方を変えれば余白になっているように思うのですが、その辺りの力加減は意識してつくっておられるのか、それとも自然に出てきているのかを、敢えてここでお聞きしてみたいと思います。
……という質問が来ています。
うーん、すごく難しい(笑)。意識した部分もあるし、自然に出ちゃった部分もあるし……。例えばCorneliusのオリジナルアルバムが一番好き勝手にできるものだとしたら、「デザインあ」の音楽に関しては、やっぱり番組の“いち部分”なわけで、そこには明確な違いがあるよね。僕のアルバムの場合は自分の作りたいものを作るし、もっと叙情的な感情だったりストーリーを盛り込んでいくと思うんだけど、今回一切そういうのはナシで、徹底的に機能に即した音楽になってると思うのね。で、その機能というのは、子供に向けられた機能であって、おのずと全体に詰め込みすぎず、説明しすぎずに制作するってモードになったんだと思う。……やっぱりどんなものにも順応してくるのが子供だし、ないならないで補ってしまうのが子供だし、余白は想像力で埋めてしまうのが子供だと思うから、スカスカぐらいがちょうどいいっていうか。
──ただ、そこまでは頭で考えたコンセプトであって……。
そうそう。そこをつかんだあとは、自分の作風が自然に出た感じだね。だから答えは「両方」かな。
- サウンドトラックアルバム「デザインあ」 / 2013年1月23日発売 / 2000円 / Warner Music Japan / WPCL-11286
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CD収録曲
- デザインあのテーマ(うた:ショコラ)
- デザインの観察
- デザインかぞえうた
- ロングクラッチA
- 解散!
- デッサンあ
- まるとしかく(うた:嶺川貴子)
- かたちの式
- はせる
- Sound of Composition
- ない世界
- やじるしソング(うた:やくしまるえつこ)
- からだのカタチ
- 1DAY
- デザインの人
- ロングクラッチB
- おととおんがく(うた:大野由美子)
- あな
- 解散!(リバース)
- モノ目線
- ぶぶん
- 思ってたんとちがう
- カラーマジック(うた:salyu×salyu)
- ロングクラッチC
- エンディングテーマ
企画展「デザインあ展」
- 会期
- 2013年2月8日(金)~2013年6月2日(日)
- 休館日
- 火曜日(4月30日は開館)
- 開館時間
- 11:00~20:00(入場は19:30まで)
- 入場料
- 一般1000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料
- 会場
- 21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)
- 展覧会ディレクター
- 佐藤卓、中村勇吾、小山田圭吾
Cornelius(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「SENSUOUS」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。