ナタリー PowerPush - Cornelius
次作につながるマストアイテム 最新リミックス集「CM4」/span>
ヨーコさんのアイデアやエネルギーがすごかった
──Corneliusの音楽は基本的に1人で全てやってますが、こういう他人とのコラボってどうですか。
曲によるかな。最終的にミックスまで自分でやってると、(自分1人でやる音楽と)そんなに違いは出てこないよね。セッション一発録りでそのままOK、じゃなく、みんなで録った素材を最終的に編集したり配置したりして作るわけだから。アートの場合は向こうで最終的に作業やってるからまた少し違うんだけど。
──仕上がったのを聴いてどうでした?
いや、実はそんなに大差はなかった。自分が仮でやったやつと。
──Corneliusの場合、実際のレコーディングよりも、いわゆるポストプロダクションのほうに時間をかけるということですね。
そうだね。でも今回のヨーコさんのやつに関しては、よりセッションぽかったね。みんなで一緒に演奏しながら曲を作って。大人数ででっかいスタジオに入ってね。最初の元になったやつも、僕とヨーコさんが2人でスタジオ入って作ったものを素材にしてるから。だから「The Sun Is Down!」はリミックスとかじゃなく、本当にセッションの録音だね。
──実際に一緒にやってみて、ヨーコさん、どうでした?
いやあ、すごかったですよ(笑)。
──どういうところが?
エネルギーですよね。「The Sun Is Down!」は、あらき(ゆうこ)さんのシンプルなドラムループを録って、それを流しながら僕がTENORI-ONを弾いて、その上でヨーコさんが歌うっていう、完全なインプロビゼーションでやったのね。ヨーコさんがアイデアをいろいろ書き留めたノートがあって、それを見ながら、その場で思いついたり音楽に反応して出てきたものを即興で歌うんだけど、それだけでこの曲の基本となるものはできてるんですよ。だから普段僕がやっているような、ちまちまと音を組み立てていくみたいな作業じゃなく──もちろん最後はそれをやるんだけど──大人数で即興でセッションで曲を作っていくわけです。そういう体験、僕はしたことなかったんで、すごく面白かったですね。実際に形にしていくのは僕やショーン(・レノン)や(本田)ゆかさんなんだけど、とにかくヨーコさんから出てくるアイデアやエネルギーがすごくて。
──そういう体験を経て、改めて気付いたことってあります?
いやあ……本当に自分は普通の人だなって思った(笑)。それに気付いてなかったわけじゃないけど、ああいう人とやると改めて思い知らされましたね。本当に自分は普通なんだって(笑)。
──どこが特にすごいの?
……全部(笑)。LADY GAGAと一緒にYOKO ONO PLASTIC ONO BANDでライブしたことあるのね、LAで。そのときこの曲をやったんですよ。GAGAがガンガンとピアノを弾いて、足で弾いたりとかするじゃないですか。するとヨーコさんがグランドピアノの上に飛び乗って「あああああああっ!!」とか叫んで(笑)、したらGAGAもピアノの上に飛び乗って、最後はピアノの上で2人で抱き合って終わり、みたいな。それ全部即興だから。すっごい盛り上がりましたよ。そんな2人を見ながら後ろでちまちまと演奏してると、「本当に僕は普通の人間なんだなあ」って痛感した(笑)。あの人と一緒にいるともう何がなんだか……。レコーディングのときはずっと踊ってるし、みんなへとへとになって疲れて寝ていても、ヨーコさんは絶対寝ない。
──それぐらいの人じゃないとジョン・レノンみたいな人を受け止めきれないでしょうね。
うん、そう思いますよ(笑)。
これは自分でも気に入ってる
──三波春夫さんも違う意味ですごそうな人ですね。
三波さんは会ったことないからわからないけど……ヨーコさんよりは普通な気がするな(笑)。でも音楽的にはヨーコさんの音楽とCorneliusの音楽って、そう遠いものでもないじゃないですか。でも三波さんの音楽って遠いですよね。だからどうするか、最初は悩んだけど……。
──お父さん(歌謡グループ、和田弘とマヒナスターズの故・三原さと志)は三波先生と共演したことがあるんじゃないですか。
ああ、どうだろう。同時代だから、可能性はありますよね。
──「赤とんぼ」のリミックスはどんな経緯で実現したんですか。
坂本龍一さんのレーベル・commmonsで、「にほんのうた」という、唱歌をいろんなミュージシャンがやるという企画があって話が来たんです。もともとうちの事務所の人が三波先生の仕事を昔やってたことがあって知り合いだったみたいで。それで「こういう音源があるよ」ってことを聞いて、じゃあそれを使って何かやりたいって言って。当時LAかどっかでやったライブテイクらしいんですけどね。ボーカルだけ残して、トラックは全部新たに作りました。
──さっきも話に出たとおり、これまで三波先生の音楽的背景は小山田圭吾がやってきた音楽とは全く違うし、その意味で大きな挑戦ですね。
でも結局、自分のパターン(の音)になりましたよね。音の入れ方とか配置の仕方とか。普通の人がやらないようなパターンになってるんだけど、でも聴いてるぶんには普通に聴けるっていう。
──素晴らしいトラックになってると思います。非常に感動的だった。
うん、これは自分でも気に入ってる。なんか説得力あるよね。
──日本人であることの喜びとか誇りみたいなものを感じる(笑)。大げさにいうと。
あはははは(笑)。
──そこらへんは意識しました?
うーん、多少はね。なんか、刷り込まれてる何かってあるじゃないですか。ああいう郷愁感っていうか。まだ僕の子供の頃にはかすかにあった風景がこの曲の中にはあるなって感じはします。
──東京っ子でも感じる。
うん、感じますよ。昭和の頃って、東京でもまだこんな雰囲気があった気がする。三波さんの歌に濃厚に残っているそういう香りを、いかに今の時代につなげていくかが、僕のやったことかな。
──そういう新たな人との出会いで、新たな発見とか手法みたいなものはありましたか。
いろいろありますよ。その都度新しいやり方は試しているし。「赤とんぼ」はリズムもないし、ピアノとストリングスだけで作ったから、普段やらない感じのことができたと思います。
ニューアルバム「CM4」 / 2012年9月5日発売 / 2520円 / Warner Music Japan / WPCL-11113
CD収録曲(アーティスト / 曲名)
- 布袋寅泰 / Battle Without Honor Or Humanity
- YOKO ONO PLASTIC ONO BAND / The Sun Is Down!
- MGMT / Brian Eno
- 相対性理論 / QKMAC
- LALI PUNA / Hostile To Me
- BEASTIE BOYS / Make Some Noise
- マイア・ヒラサワ / It Doesn't Stop
- アート・リンゼイ / The Rare
- IF BY YES / Still Breathing
- 野宮真貴 / マジック・カーペット・ライド
- 三波春夫 / 赤とんぼ
Cornelius(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「SENSUOUS」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。