ナタリー PowerPush - CORNELIUS

もしこの曲をリミックスするなら? 架空のリミックス 会議を実況中継

SMITHSっぽくやりたかったんだけどそうはならなかった

──次の曲は説明不要。

THE SMITHS / Strangeways, Here We Come◎THE SMITHS「Girlfriend in a Coma」
(from the album「Strangeways, Here We Come」)

SMITHSだ! でも、またなんでこの曲なの?(笑)

──これも意図があって。この曲っていうのは、いちおう四つ打ちなんだよね。

確かに!(笑)

──最初は「The Boy With The Thorn In His Side」とか「Cemetry Gates」とか、よりSMITHSらしい曲を選ぼうと思ったんだけど、あまりにもバン ドの音なので躊躇しちゃって……。

そこで気を遣ってもらったのか(笑)。……ただ、それでもメチャクチャ難しいよ。これも歌詞から攻めるというのは難しいかなぁ。確かこれって「病院で彼女が昏睡状態でどうしよう」みたいな歌だよね。そんな歌詞をこの明るいメロディに乗せてるっていう。……でも、その彼女の危機感とか心拍数を音で表現するっていうのもなんだしなぁ(笑) ……。

──かつ、SMITHSはメチャクチャいろんな人の思い入れを背負っているバンドだし、それをイジる難しさっていうのもあるよね。

ヘタに触れない感じはある。もちろん自分も大好きだったしね。……(しばらく曲を聴いて)……じゃあ、これは「いかにもSMITHSがやりそうな感じ」ってことでやってみようかな。基本はバンド編成を意識した音作りで、透明なトーンのギターを使ったアルベジオとか、よく動くメロディアスなベースみたいなのも入れて、音色も完コピしちゃって、 パッと聴きはカバーに近いんだけど、実はまったく違う曲、みたいな感じ(笑)。音の質感とか構成はクローンなんだけど、タイミングとかグルーヴはCORNELIUSっていうのはいいかもしれない。フレージングとかも相当に意識してみるんだけど、肝心なところがまったく違ってて、SMITHSっぽくやりたかったんだけどそうはならなかった、みたいな感じに落ち着けたいかな(笑 )。

「聴き慣れたもの」を「聴き慣れないもの」にしたい

──次も難題です。これはホーンとベースとドラムのみのジャズで、一番の特徴としては、ひとつも和音楽器が使われていない、モノフォニックな演奏だということ。各メンバーが単音を置いていって、その集合が和音になっていくっていう部分はCORNELIUSの表現にも通じる手法だと思うんだけど。

ORNETTE COLEMAN / Love Call◎ORNETTE COLEMAN「Check Out Time」
(from the album「Love Call」)

なるほどね。ただ、その意図はわかるんだけど、たぶんこの時代のジャズは「せーの」で録ってるからマルチがないよ(笑)。

──しまった!(笑) 意味先行で肝心なところが抜けてた……。

(笑)でも、もし発注があるのであれば、こういう曲こそやってみたいけどね。この時代のジャズのサンプリングっていうのはたくさんあるんだろうけど、リミックスっていうものはまだまったく存在しないはずだから、誰も聴いたことのないメチャクチャ異質なものができる可能性はあるよね。そこには挑戦してみたいかな。せっかくの一発録り なんで、この曲の演奏とか空気感は丸ごと残して、そこにまったく時代感の違うシンセなんかを入れていったりして、「聴き慣れたもの」を「聴き慣れないもの」にする。

──違和感そのものを聴かせるリミックス。

うん。ここに今の音をひとつ鳴らすだけで、まったく新しい音楽になる可能性はあるよね。あと、コード楽器がないぶん自由度が高い演奏ができていると思うから、そこに執拗にコード楽器を入れていくとかもいいかも。

──ここからとことん自由を奪っていくっていう。

過剰に息苦しい音楽になるだろうね(笑)。

──じゃあ、最後はPerfumeです。これは振りつけ込みの「芸能」ということで、PVを観てみましょう。

アコギは却下。それだと不幸になりすぎるもん(笑)

Amazon.co.jpへ◎Perfume「ワンルーム・ディスコ」
(from the single「ワンルーム・ディ スコ」)

わ、このLEDライトとカラーバーの使いかたは、かなりCORNELIUSに通じてるかも。そこにザ・ベストテンとドリフが入った感じだね(笑)。(歌が入って)あぁ……ディスコがテーマの曲なんだ……。

──何か問題がある?

やっぱり彼女たちの曲の特徴って、まずこのオートチューン(ボーカルや楽器の音程を調整する音楽ソフト)を使ったケロケロ声だと思うから、それをかける前の素材をもらって、自分なりの生っぽいボーカルを追求してみようと思ったんだよね。たとえばピッチを補正する前の、丸裸で不安定な声に、アコギ1本だけとか(笑)。ただ、それで「ディスコ」って言葉を連呼してる曲っていうのは……悪夢だよね。

──(爆笑)しかも「ワンルーム・ディスコ」じゃなくて、「四畳半ディスコ」になる危険性もある。

(笑)でも、割り切ってそこを目指すしかないかなって気もするな。ミカン箱を叩いた音をスネアにしたり、バスタブの腹を叩いた音をバスドラにするとか(笑)。この曲の歌詞はどんなことを歌ってるの?

──彼氏と同棲していた女の子がひとり暮らしになって、新しい部屋ですることもないから踊ってしまおうみたいな、ちょっと切ない歌詞……なのかな?

キャンディーズだね。「微笑がえし」だ。ちょっと衣装も似てるし。じゃあアコギは却下。それだと不幸になりすぎるもん(笑)。

──アコギはなしだとしても、やっぱり音を減らしていく方向で考える?

そうだね。まずは骨格だけにして、そこに自分の音をあてていくっていうパターンにはなるかな。自分が歌ものをやるときは全部そうだし。……じゃあ、この曲はミニ楽器ばかりを使ったリミックスにしてみようかな。カシオトーンみたいなオモチャっぽい楽器ばかりに限定して、ワンルームの印象をまったく変えてしまうみたいなことができるとい いかも。実際のマンションを、レゴの家にするっていうかね(笑)。

インタビュー写真

ニューアルバム『CM3』 / 2009年5月13>日発売 / 2520円(税込) / Warner Music Japan / WPCL-10658

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CD収録曲
  1. SKETCH SHOW / chronograph
  2. KINGS OF CONVENIENCE / I'd Rather Dance With You
  3. BLOC PARTY / Banquet
  4. IF BY YES / You Feel Right
  5. 電気グルーヴ×スチャダラパー / Twilight
  6. THE GO! TEAM / Universal Speech
  7. JAMES BROWN / Call Me Super Bad
  8. MONDO GROSSO / Everything Needs Love feat. BoA
  9. STING / Moon Over Bourbon Street
  10. 坂本龍一 / War&Peace
  11. Crystal Kay / ONE
  12. SKETCH SHOW / ekot

ライブDVD『Sensuous Synchronized Show』 / 2009年5月13日発売 / 5900円(税込) / Warner Music Japan / WPBL-90122

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DISC1
  1. Breezin'
  2. Wataridori
  3. Gum
  4. Toner
  5. Smoke
  6. Tone Twilight Zone
  7. Drop
  8. Point Of View Point
  9. Count Five Or Six
  10. I Hate Hate
  11. Scum
  12. Omstart
  13. Beep It
  14. Monkey
  15. Star Fruits Surf Rider
  16. Fit Song
  17. Like a Rolling Stone
  18. Music
  19. Sensuous
  20. Eyes
  21. E
  22. Sleep Warm
DISC2
  • 「中目黒テレビ(CORNELIUS 第1回新曲披露演)」 from Space Shower TV
  • 「Yo Gabba Gabba!」 from Nick Jr.
  • 「Geo Sessions」 from National Geographic Channel
  • 「中目黒テレビ(コーネリアス・ワールド・ツアー 2006-2008)」 from NHK
CORNELIUS(こーねりあす)

プロフィール

小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCORNELIUS名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21ヵ国でリリースされ、バン ド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グ ラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広 いフィールドで活動を続けている。