ナタリー PowerPush - CORNELIUS
もしこの曲をリミックスするなら? 架空のリミックス 会議を実況中継
ダンスの靴音を細かく編集してリズムを作りたい
──それでは今日の本題です。ここからは、まさにその「取りつく島」の検討会ということで、こっちで7曲のお題を用意したので、「もしこの曲の リミックスのオファーがきたら、どこから手をつけて、どう仕上げていくのか」ってことを、いっしょに下相談してもらいたいと思います。
はい(笑)。
──じゃあ、まず1曲目はマイケル。
◎MICHAEL JACKSON「Human Nature」
(from the album「Thriller」)
うわぁ、この曲かぁ。……(しばらく曲を聴いて)マイケルだったらもっと他にあったんじゃない?
──いや、そこには理由があって。この曲って、平歌の部分もサビの部分もFから始まる意外にシンプルな曲でしょ。
あ、確かに。このシンセの浮遊感みたいなものを自分なりに差し替えて、ミニマルなワンコードものにしたらカッコいいかもしれないね。
──まさに。そういう部分でこの曲は「もしものCORNELIUS Remix」というのが想像しやすい曲だなぁと思ったの。じゃあ、原曲から残す素材はボー カルのみ?
そこは絶対に残すでしょ(笑)。できることならうまくリコード(原曲のコード進行を変えて、メロディに別のニュアンスを持たせること)してみたい気もするから、シンセはいらないかな。ただ、もし本当にマイケルをリミックスできるんだったら、やっぱりダンスしてるときの靴の音とかを細かく編集してリズムにするとか(笑)、もっとマイ ケル自身のシルエットが目に浮かぶようなことをやりたいんだよね。
──(笑)確かにそのアイデアを試すには、この曲は大人しすぎるかもしれない。あと、完成図が見えすぎちゃうっていうのもある?
そうなんだよ。あんまり自分には作れないテイストの曲のほうが、逆にいろいろ試せると思うし、この曲の場合、あんまり飛躍できなそうな気がする。そういう意味では「Beat It」みたいな曲のほうがやりやすいのかな。あの曲ってマイケルにしては凄くカッチリした8ビートだから、それをさらにスクエアな感じのリズムに直して、そこに靴の音 の編集を入れて、みたいなことは楽しいかもしれない。
──それは本当に聴いてみたい!
そういえば、マイケルのいいリミックスって全然ないんだよね。バラードをハウスにしたものなんかはあるんだと思うけど、そういうのは完全にDJ仕様だろうし、メロディに新しい解釈を加えたものなんかは聴いたことがない。そのくせ海賊盤のマッシュアップものとかにはかなり使われてたりするから、どんどんそういうのをオフィシャルで発注 していってほしいよね。そうやって借金を返していけばいいんだよ(笑)。
やっぱり自分にできないものには憧れるよね
──つぎはアリエル・ピンク。この人はANIMAL COLLECTIVEのメンバーが発掘したロスの宅録アーティストらしいんだけど、最近いきなり「本当の俺 はこんなじゃない!」とか言い始めて、スタジオ録音に転向したっていう人。これは2004年の宅録期の曲です。
◎ARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITI「For Kate I Wait」
(from the album「The Doldrums」)
わ、これはかなりいいね。音ひとつひとつは全然磨かれていないから、自分の表現とは対極だけど、メロディは立ってるし、すっごい絶妙。なんだかよくわかんないパッド(シンセの持続音)がずっと入ってるのと、明らかに天然っぽいボーカルの濃さ。こういう人って最近見なくなったよねぇ、みたいな個性がある(笑)。
──小山田くんの音楽は常にデザインや編集が施されていると思うんだけど、こういう不器用なハミ出しかたに憧れたりするっていうのはある?
ある。やっぱり自分にできないものには憧れるよね。でも、それはみんなそうじゃない?
──これは自分でもできそうだなって思うものにはそれほど惹かれないというか、「これってどうやって作るんだろう」みたいに想像させる部分がないとつまらないというか。
うん。
──その意味で、リミックスというのはマルチ(各楽器のトラックをバラバラに聴けるミックス前の音源)を受け取れるってこともあって、その曲がどういう構造でできているのかというのがハッキリとわかってしまうから、そこでいきなり原曲のマジックみたいなものが消えてしまうってことはない?
いや、それはあんまりないかな。だって構造がわかったらわかったで、また違った楽しみ方が出てくるじゃない? たとえばゲイリー・グリッターのマルチを解体してみたら、リズム・トラックにテープのループが使われていることが判明して、「世界初のヒップホップはここにあった!」(笑)みたいなイイ話って山ほどあるでしょ? 普通の人 はマルチを聴く機会なんてないと思うから、なかなか説明が難しいんだけど……。
──カメラマンの常盤響さんが、「デザインをメインでやっていた時期に、カメラマンから受け取るモデルの写真の目を見ることで写真を勉強した」って話してくれたことがあって、今、そのことを思い出しちゃった。モデルの目を拡大していくと、そこに、ライティングなんかのノウハウが全部写り込んでるんだって。
あぁ! なるほどね。細部から見えてくる大局ってことでは、それに通じる楽しみはあるかもしれない。そういえば、カエターノ・ヴェローゾとかアート・リン ゼイをやってるアレシャンドリ・カシンってプロデューサーが、マルチのコレクターなんだよね。ネットで音源のやりとりをする時代になってからは、いつのまにかQUEENみたいなクラスのアーティストのアカペラまでがどっかから流出しちゃってるみたいで、彼はそういうのをメチャメチャ集めてる(笑)。……(またしばらく曲を聴いて)それにしてもこれはカッコいい。やっ ぱりこの曲はこの曲でデザイン的だし編集的だと思うな。デザインされていないように聴かせるデザインっていうのが働いてる気がするし、まったくの天然じゃこういうことはできないと思 う。最近のOF MONTREALとかにも通じるグラムっぽさもあるよね。
──さて、ここまでローファイで雑多な宅録をどう仕上げましょう?
これは難しいよ。これに勝つのはメチャクチャ大変(笑)。
──いや、もう締め切りが迫ってるんで。
(笑)そうだな……まず、ビートは全部いらないかな。たぶん手でリズムボックスを叩いてるよね。じゃないとこんなガタガタなリズムにはならない(笑)。素材としては、まずボーカルをもらって、いかにも宅録なキーボードソロも残して、あとはこのホワワワワ~ってなったまま全然鳴り止まないパッドの音は使ってみようかな。このパッドがこ の曲のキモだと思うし、もしかしたらそこに引っぱられすぎちゃうかもしれないけど、そうなったらそうなったでパッドをメインに使うとかでもいいかもね。そのはるか奥のほうに、すっご い深いリバーブをかけたボーカルをポツーンと置くとか(笑)。
──あっちの洞窟に?
ひとりで悶えさせとくの(笑)。
CD収録曲
- SKETCH SHOW / chronograph
- KINGS OF CONVENIENCE / I'd Rather Dance With You
- BLOC PARTY / Banquet
- IF BY YES / You Feel Right
- 電気グルーヴ×スチャダラパー / Twilight
- THE GO! TEAM / Universal Speech
- JAMES BROWN / Call Me Super Bad
- MONDO GROSSO / Everything Needs Love feat. BoA
- STING / Moon Over Bourbon Street
- 坂本龍一 / War&Peace
- Crystal Kay / ONE
- SKETCH SHOW / ekot
DISC1
- Breezin'
- Wataridori
- Gum
- Toner
- Smoke
- Tone Twilight Zone
- Drop
- Point Of View Point
- Count Five Or Six
- I Hate Hate
- Scum
- Omstart
- Beep It
- Monkey
- Star Fruits Surf Rider
- Fit Song
- Like a Rolling Stone
- Music
- Sensuous
- Eyes
- E
- Sleep Warm
DISC2
- 「中目黒テレビ(CORNELIUS 第1回新曲披露演)」 from Space Shower TV
- 「Yo Gabba Gabba!」 from Nick Jr.
- 「Geo Sessions」 from National Geographic Channel
- 「中目黒テレビ(コーネリアス・ワールド・ツアー 2006-2008)」 from NHK
CORNELIUS(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCORNELIUS名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21ヵ国でリリースされ、バン ド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グ ラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広 いフィールドで活動を続けている。