ナタリー PowerPush - CORNELIUS
もしこの曲をリミックスするなら? 架空のリミックス 会議を実況中継
祝!「CM3」&「Sensuous Synchronized Show」発売! 世界最高精度のエディットとデザインに裏打ちされたこれら新作にあわせての特別企画は、Perfumeから フリージャズまで、全7曲の「もしこの曲をリミックスしてくれと頼まれたらどうしますか?」会議。
架空のリミックスプランから見えてくる、CORNELIUSの意識と無意識。思考と試行。そのアイデアの種や葉は、いかにして育てられているのかを探る、世界初の 超実践的インタビュー!
※選曲に関しては、Web上(のどこか)に試聴ファイルを確認できたもののみに絞っています。ぜひ一緒に聴きながらお読みください。
取材・文/江森丈晃 撮影/平沼久奈
「CM3」ではサンプリングはまったく使ってない
──まずは「CM3」と「Sensuous Synchronized Show」の発売、おめでとうございます。いっときはどうなることかと。
両方とも著作権の関係で発売延期になってたんだよね。「CM3」はスティングの曲(「Moon Over Bourbon Street」)の収録許可が全然来ないから、いったん収録をあきらめて、曲順もマスタリングもジャケットもやり直してたら、今度は突然OKの返事が来ちゃって。あと、DVDのほうは「インディ・ジョーンズ」が引っかかっちゃった。あの映画のテーマを手の平の空気圧で演奏する一芸オジサンってのがいて(笑)、今回彼の映像を使ってるんだけど、それにしたってジョン・ウィ リアムズのカバーってことになるから、その許諾を取るのがまた大変で……。
──「スター・ウォーズ」関係だけでも(著作権を)処理するのが大変なんだろうね。
今、著作権の問題っていうのは本当に厳しいよ。だから最近のヒップホップとかR&Bも、一点豪華主義で大ネタの許諾を取るか、もしくはマイナーな元ネタ を、さらにわからないぐらい細かく刻んで使うかっていうところにいってるんだと思う。サンプリングの規制がそれほど厳しくなかった時代、90年代の前半までに作られた作品なんかは、CDで再発するのも難しいらしくて、たとえばCOLDCUTなんかは廃盤のままだよね。あと、DE LA SOULの1stとか2ndがまだ買えるのは、許諾のスペシャリストというか、それを職業にしてる専門の人が動いたからだって聞いたことがある。
──CORNELIUSの作品で、最後にサンプリングを使ったのはどの作品?
「Sensuous」ではやってないけど、「Point」ではほんの少し使ってる。でも、それももちろん許諾を取ってるからね。「Sensuous」でそういうことをやらなく なったのは、もちろん自分のモードっていうのもあるんだけど、もしサンプリングしようと思ったら、電話をかけるところから始めなきゃいけないっていう煩わしさのせいもあるのかな。そ れは音楽を作るってこととは程遠い作業だし、単純に萎えるよね。
──返事を待ってる間に新しいアイデアが出ちゃったらどうするんだっていう。
だから「CM3」でもサンプリングはまったく使ってない。原曲の素材が10%。残りの90%は自分が出した音の編集だね。さらにそれを1枚の流れとして聴かせられるようにつないでる。
最初にゴールを決めると、そのレコーディングは「作業」になっちゃう
──「CM3」はSketch Showで始まってSketch Showで終わる構成の妙だったり、音ひとつひとつの説得力だったりがオリジナルアルバムとの境界を溶 かしているというか、「いろんなボーカリストがCORNELIUSの新作にゲスト参加した」みたいな聴後感も強いけど、こうやって自分のリミックス仕事を1枚のアルバムにまとめることっていう のは、どのぐらいの時期から考え始めるものなの?
う~ん、どうだろう。そのビジョンに関しては、ずっとうっすらとある感じなんだけど、実際に(リミックスの)作業をしているときは全然考えてなくて、やっぱり目の前にある曲をどう面白くしようかなっていうことに集中しちゃう。ただ、リミックスの依頼にもいろいろあって、たまに自分から好きな曲を選ばせてもらえる場合があるのね。今 回だと電気グルーヴ×スチャダラパーとかBLOC PARTY。あとジェームス・ブラウンもそうだったんだけど、そういうときにはなるべく他の曲の仕上がりとカブらないように、最終的なバランスを考えた上での選曲をしたりもするかな。
──その選曲の基準っていうのは?
基本的には気分。あとは自分が試してみたいアイデアのストックにハマりそうなものを選ぶ場合もあって、たとえばKINGS OF CONVENIENCEのリミックスは、アコースティックギターの単音をバラで録って並べたり、ボディを叩いた音をリズムとして使ったりしていて、「アコギ1本でどこまでできるか」みたいなアイデアが最初にあったし、その後にやったBLOC PARTYは、その手法をエレキでやったらどうなるかっていうのを試してみたい時期でもあって……。
──さらにその後、そういう手法のすべてが「Sensuous」の養分になっていく。
そうだね。
──その手法をひとことでまとめると、自分はひんやりとした「寒さ」だと思っていて……。
ああ、確かに温度を下げる感じはあるかもしれない。リミックスの場合にしても、音数的にはかなり減らすし。とくに「Point」から「Sensuous」までの時期っ ていうのは、偏執狂的に「音を同時に鳴らさない」っていうのを意識していた部分もあって、もし同時に鳴らす場合も音域まではカブせないってことを徹底してた。今にして思えば、そこま でやらなくてもよかったかなって思うけど(笑)。
──自分が編み出したコンセプトや手法に、音楽を「作らされている」ような感覚はあったりした?
それはない。だって、それは最初に決めてそうしたわけじゃなくて、だんだんとそうなっていったものだからね。そのときどきで自分のやりかたとかスタイルは変わっていくし、それは頭の中で熟考した後の実践というわけではないし。
──でも、それって不安じゃない?
なにが?
──いや、その先に光が見えるのか見えないかが保証されていない実験の状態が長く続くという意味で。
でも、逆に最初っから「こういう曲を作ろう」って考えてからやると、そのレコーディングは「作業」になっちゃうからね。最初に曲やアレンジを作って、それをその通りに録音するっていうのは、今はあんまり面白くないかな。頭で鳴ってるものを実際の音に変換していくっていう作業には、絶対に誤差が生まれるし。
──最初にゴールを決めてしまうつまらなさがある?
そうそう。その点、今のやりかただと、いろんなアクシデントとかハプニングをそのつど曲に盛り込めるし、そのぶん音楽の可能性は広がってると思う。……でも、確かにそういう不安があった時期はあるよ。たとえばフリッパーズ・ギターの3rd(「ヘッド博士の世界塔」)を録ってたときは、まだテープを使ってやってたから、自分たちでも完成形が見えづらいまま、曲の切れ端が散乱してるみたいな編集作業だったわけで。ただ、今の環境はデジタルだし、Pro Toolsみたいな編集ソフトの場合は、自分の音が色とか波形で目に見えていてくれるから、そこまで迷子になるってことはないのね。最初に出す音っていうのは無意識的なものなんだけど、それをどうまとめていくのかっていうのは意識的なものだから、その繰 り返しで曲がまとまっていくっていうか。
──リミックスの場合は、その無意識の部分が他のアーティストに委ねられてるみたいな感じもあるよね。
そこが一番の違いだね。最初にあるお題に、いかに自分を返していけるかっていう表現。だからリミックスを受けるときに、まず自分が見つけようとするのが、その原曲に自分が入っていける余地がどれだけあるのかってこと。単純に好きな曲だからやりたいってことだけじゃなくて、そこに自分の取りつく島がどれだけ見つけられるかっていうの が重要なんだよね。
CD収録曲
- SKETCH SHOW / chronograph
- KINGS OF CONVENIENCE / I'd Rather Dance With You
- BLOC PARTY / Banquet
- IF BY YES / You Feel Right
- 電気グルーヴ×スチャダラパー / Twilight
- THE GO! TEAM / Universal Speech
- JAMES BROWN / Call Me Super Bad
- MONDO GROSSO / Everything Needs Love feat. BoA
- STING / Moon Over Bourbon Street
- 坂本龍一 / War&Peace
- Crystal Kay / ONE
- SKETCH SHOW / ekot
DISC1
- Breezin'
- Wataridori
- Gum
- Toner
- Smoke
- Tone Twilight Zone
- Drop
- Point Of View Point
- Count Five Or Six
- I Hate Hate
- Scum
- Omstart
- Beep It
- Monkey
- Star Fruits Surf Rider
- Fit Song
- Like a Rolling Stone
- Music
- Sensuous
- Eyes
- E
- Sleep Warm
DISC2
- 「中目黒テレビ(CORNELIUS 第1回新曲披露演)」 from Space Shower TV
- 「Yo Gabba Gabba!」 from Nick Jr.
- 「Geo Sessions」 from National Geographic Channel
- 「中目黒テレビ(コーネリアス・ワールド・ツアー 2006-2008)」 from NHK
CORNELIUS(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCORNELIUS名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21ヵ国でリリースされ、バン ド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グ ラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広 いフィールドで活動を続けている。