NHN PlayArt株式会社と株式会社ドワンゴによるスマートフォンリズムゲーム「#コンパス ライブアリーナ」がリリースされた。
「#コンパス ライブアリーナ」は、スマートフォン対戦ゲーム「#コンパス 戦闘摂理解析システム」に登場するヒーロー(キャラクター)がダンサーとなって活躍するリズムゲーム。ヒーローのプロデュースはニコニコ動画で活躍するボカロP、絵師、踊り手たちが手がけ、それぞれにテーマソングが設定されている。
いかにして対戦ゲームからリズムゲームが生まれたのか。音楽ナタリーは「#コンパス 戦闘摂理解析システム」のヘビープレイヤーで、ヒーロー・メグメグのプロデュースに携わった八王子Pと、NHN PlayArtのプロデューサー林氏、ディレクター佐藤氏の3人にインタビュー。八王子Pには「#コンパス ライブアリーナ」をテストプレイしたうえで、ヒーローおよびテーマソングができあがるまでのプロセスや制作秘話、今後に期待することなどを語ってもらい、開発者の2人にはゲームの成り立ちやこだわり、展望などについて聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 須田卓馬
「#コンパス ライブアリーナ」とは
NHN PlayArtとドワンゴはスマートフォン対戦ゲーム「#コンパス 戦闘摂理解析システム」を2016年にリリースした。「#コンパス 戦闘摂理解析システム」は多彩なキャラクターとアイテムカードを使い、MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)のような戦略性、カードゲームのような駆け引きによって陣地を奪い合う3対3リアルタイムオンライン対戦ゲーム。登場するヒーローの多くはニコニコ動画で活躍するボカロP、絵師、踊り手、動画クリエイターたちがプロデュースしており、1つひとつにテーマソングと、豪華声優陣によるボイスが設定されている。今やダウンロード数は1500万を突破し、若年層に人気を誇るゲームアプリに成長した。
ヒーローと参加クリエイター(一部)
そのヒーローたちがダンサーとなって登場するのが「#コンパス ライブアリーナ」だ。ゲーム内容は、テーマソングに合わせて踊るヒーローのライブステージを背景に、画面上に現れるノーツをタイミングよくタップするというもの。戦略性を求められる「#コンパス 戦闘摂理解析システム」と比べて、ヒーローや楽曲の魅力そのものを堪能しやすい。プレイヤーはリアルタイムでマッチした仲間と遊ぶことができ、メンバーの特性によってもらえる報酬が変化。プレイ後、ロビーに集まって仲間とコミュニケーションを取ることもできる。
八王子P×開発陣インタビュー
みんなの想像力が膨らみやすい、ある意味ニコ動的なコンテンツ
──まず、「#コンパス」プロジェクトにおける林さんと佐藤さんの役割を教えてください。
林プロデューサー もともと2016年にサービスインした「#コンパス 戦闘摂理解析システム」(以下、「#コンパス」)という対戦型のバトルゲームがありまして。おかげさまで今年6周年を迎えるんですけども、今回の「#コンパス ライブアリーナ」(以下、「ライアリ」)は、バトル版「#コンパス」のキャラクターが活躍するリズムゲームなんです。僕はその「#コンパス」プロジェクト全体のプロデューサーを担当しています。
佐藤ディレクター そして、私が「ライアリ」のディレクターになります。
林 プロデューサーとディレクターの区別は曖昧ではあるんですけども……僕自身も、バトル版「#コンパス」リリース時はディレクター的な立ち位置でした。現場を指揮して、リリースするまでのクオリティに責任を持つ役割ですね。今回、同プロジェクト内に新規タイトルが増えることになったので、全体を見るプロデューサーとしての役割が新たに発生したというか。
──イメージとしては、佐藤さんが監督で林さんが製作総指揮のような感じ?
林 まあ、そうですね(笑)。
──そして八王子Pさんは2018年、「#コンパス」にキャラクターソング「バイオレンストリガー」を提供されています。これはどういう経緯で実現したものだったんでしょうか。
八王子P もともと、僕は個人的に「#コンパス」を普通に楽しんでいたいちプレイヤーだったんです。それがあるとき、ありがたいことに「新ヒーローのテーマソングを作りませんか?」というお話をいただいて。
林 「#コンパス」では、ヒーローと呼ばれるキャラクターを作るにあたって「ニコニコ動画で活躍されているクリエイターさんに協力していただく」という方針が最初からあったんですよ。その方針に基づいて新ヒーローを追加していく中で、あるとき「次の新ヒーローは、『#コンパス』をすごく愛してくださっているクリエイターを集めて作ろう」という企画が持ち上がりまして。それで、すでに「#コンパス」をヘビーにプレイしてくれている方の中から、絵師としてぽあろさん、踊り手として217さん、そしてボカロPとして八王子Pさんにお声がけしたという流れです。そのときにメグメグというキャラクターが生まれ、そのテーマソングが「バイオレンストリガー」になりました。
──「バイオレンストリガー」は、どういうイメージで作った楽曲なんでしょうか。
八王子P 開発チームからは、楽曲についてのオーダーはほとんどなくて(笑)。キャラクターについてのざっくりした説明はもちろん受けたんですけど、細かい設定資料などをいただいていたわけではなかったんですよ、実は。ただ、それではさすがに歌詞が書けないんで(笑)、ぽあろさんとも話し合いながら、アイデア段階の歌詞も見てもらいつつ進めていきました。もちろんメグメグのイメージに沿って作っていったものではあるんですけど……あまり僕の口からああだこうだいうよりも、解釈は聴き手に委ねたいんですよね。
──逆に言うと、あまり歌詞でイメージを限定しすぎないように意識した?
八王子P そうですね……というか、僕自身があまり正解をわかっていないので(笑)。音のイメージとしては、「激しめの曲調が合うキャラだろうな」というのがまずぼんやりあって、あとはやっぱり対戦ゲームなので「BGMとしてかかったときにテンションが上がるものを」というのは意識しました。
林 そのとき上がってきたデモに対して、こちらから特にフィードバックなどはせずに即OKを出した記憶があります。
──もともと八王子Pさんたちが熱心なプレイヤーでもあったから、ある程度信頼してお任せしたわけですか?
林 そこに関してはメグメグのときに限らず、基本的に毎回クリエイターさんにお任せしています。もちろん、セリフなどは開発チームで書くのである程度の設定は用意するんですが、こちらで指示したものをそのまま作ってもらうというよりは、なるべく各クリエイターの想像力を自由に働かせてほしいので。「みんなで一緒に考えていきたい」という思想がベースにあるんです。
八王子P そこが「#コンパス」の魅力でもあると思うんですよ。細かいところまで世界観が明示されているコンテンツではないから、クリエイターだけでなくユーザーによる二次創作なども含めて、みんなの想像力が膨らみやすい。ある意味すごくニコ動的というか……それが面白い化学反応を生んでいるような気はしますね。
商売がヘタなもので
──ちなみに、プレイヤーとしては「#コンパス」にどういう魅力を感じて遊んでいたんでしょう?
八王子P まず、単純にゲームとして面白いなと。僕はけっこう課金をするタイプなんですけど……1個すごくいいなと思うのは、必ずしも課金をしなくてもある程度ゲーム本来の面白さを味わえるようになっているところですね。もちろん課金をすることで有利に遊べる要素もしっかりあるんですけど、無課金ユーザーをないがしろにしていないというか。内容についての話じゃなくて申し訳ないですけど(笑)。
林・佐藤 あははは。
八王子P 一般的には、ソシャゲって新キャラが出るたびに強いキャラがどんどん更新されていきがちなものなんですけど、「#コンパス」はだいぶ昔に手に入れたカードでも十分運用できる作りになっている。ソシャゲユーザーとしては、そういうところがけっこう驚きではありましたね。
林 商売がヘタなもので(笑)。そもそも僕らがゲームを作るのはなんのためかというと、自分たちの作ったものをたくさんの方に遊んでもらいたいからなんですよね。だから無課金の方でもしっかり遊べる状態というのは維持したいですし、もちろん課金していただく方には出した金額に納得してもらえるだけのものをお出ししたい。どちらも欠かせない要素ではあると思っています。
八王子P でも、そのバランスを取るのって現実的にはすごく難しいと思いますよ。遊ぶ側はすぐ「このバランス調整はひどい」みたいに感じちゃうものですし、僕もユーザーとしてはよくそういうことを言ってますし(笑)。
林 そのセリフ、よく言われます(笑)。
八王子P 1つすごく驚いたのは、このゲームは必ずしも「強くなりたい」という目的で課金するユーザーだけじゃなくて、対戦は苦手でも「キャラクターや楽曲が好きだから」という理由でリアルイベントやグッズにお金を使う人も多いことだったんですよ。対戦ゲームなのに(笑)。そこがけっこう珍しいなと感じていますね。
会社を辞めて入ってきました
──「ライアリ」の企画は、どのような経緯で立ち上がったんですか?
林 今、八王子Pさんが言ってくれたように、バトルが苦手でもヒーローを好きでいてくれているユーザーさんがたくさんいることを、我々もイベントなどを通じて感じていたんですよ。それで、そういう人たちにもこの「#コンパス」の世界をもっと気軽に遊んでもらえる形を用意したいなと。リアルイベントでは音楽のパートが一番盛り上がるので、「であれば、音楽にフォーカスしたゲームを作ろう」という発想からスタートした感じですね。
──「#コンパス」は対戦ゲームではありますが、各ヒーローにテーマソングが設定されていたり、当初から音楽には力を入れていましたよね。でも、初めから音ゲー展開を想定していたわけではない?
林 まったくないですね。
──そうだったんですね。佐藤さんは、どういう経緯でこの開発に携わることに?
佐藤 私はもともと全然違う会社にいたんですが、個人的に「#コンパス」が大好きで、一般ユーザーとしてリリース当初から遊んでいたんです。それがあるとき、たまたま「『#コンパス』の音ゲーが作られるらしいよ」というお話を耳にしまして。「それはやりたい!」と思って、その会社を辞めて入ってきました(笑)。
──もともとNHN PlayArtや林さんとはつながりがあったんですか?
佐藤 いえ、全然なくて。ゲームイベントで林プロデューサーを見かけて「あ、はやしPだ!」とはしゃいでいた立場ですし(笑)。本当に一般の窓口から門を叩いて、熱意で参加させていただいた形です。
林 僕はこれまでにリズムゲームを作ったことが全然ないので、ほかに作れる人を探さなければいけなかったんです。それでいろんな会社さんと話をさせていただく中で、見つけたのが彼女だったという。
──見つけたというか、向こうからやって来たというか。
林 そうですね(笑)。
佐藤 はい(笑)。先ほどのお話にあった通り、バトルが苦手で「#コンパス」から離脱していく人を私は実際に見てきているんですよ。すごく魅力的な世界だから本当はいろんな人に薦めたいんだけど、同時に「バトルはハードルが高いよな」とも感じていて。「ライアリ」はそういう人たちにとっての入り口になり得ると思いましたし、これをきっかけに音楽やボカロを好きになる人も出てくるかもしれない。いろんなところに派生していける可能性を感じていますし、派生していってほしい。そこに少しでも力添えできるのであれば、という思いで開発に当たっていますね。
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対戦が苦手な方にも“やり込み勢”にも満足のいくものに