小玉史上もっともアレンジに時間をかけた曲
──カップリング曲の「ソーダ」もダンスナンバーですが、こちらはチルめのディープハウスで、いい温度感ですね。ずっと聴いていられます。
うれしいです。マスタリングのときに気付いたんですけど、「チャージ!」は目覚ましの曲で、「ソーダ」は眠りにつくときの曲になったなって。「ソーダ」は2月から始めたマンスリーワンマンの中でできた新曲で、初披露のときは私が作った打ち込みのデモをバックDJに流してもらうという謎のスタイルで歌ったんです。それから6月にsomeiちゃんとツーマンライブ(LAWSON presents ミュージックレイン / MiCLOVER Sub Session「小玉ひかり & somei 2人のライブ」)をしたときにバンドアレンジをしてもらって、この音源のアレンジはそのあと作ったものなんですけど、だいぶ悩みまして……。
──小玉さんが打ち込んだデモがベースにはなっているんですよね?
私としてはK-POP的なサウンドを意識していたんですけど、自分でも正解が全然わからなくて。「このデモの感じを下敷きに」と言ってアレンジャーの花村智志さんにお渡しして、そこから「こうしたほうがいいかな?」「いや、こっちかな?」みたいな感じで、私のわがままにお付き合いいただいたので、この場を借りてお礼を申し上げたいです。
──花村さんは「good night my dear (arrange ver.)」(2020年6月配信)のアレンジをなさった方ですよね。
そうです。あと、コロナ禍にYouTubeでワンコーラスだけアップした「Shine」という曲も。花村さんは、私が弾き語りの「good night my dear」(2020年2月発売の4thミニアルバム「good night my dear」に収録)を出したときに「この曲、めっちゃいいからアレンジしたい」と自らアレンジを買って出てくださって。その花村さんがアレンジした「good night my dear (arrange ver.)」のミュージックビデオが、とあるきっかけですごくたくさんの方に観てもらえたんです。そういう意味でも私は花村さんにめちゃくちゃ恩を感じているし、メジャーデビューしてからもぜひご一緒したいと思っていたので、私の指名で「ソーダ」のアレンジをお願いしました。
──「ソーダ」のアレンジ、かなり凝っていますよね。シンセベースがわりとえぐい音を出していたり、2番のAメロだけダブっぽい処理がされていたりするのも効いていると思います。
そう、花村さんはベーシストでもあるので、シンセベースの音もめちゃくちゃこだわっていただきました。花村さんはもともとJ-POPを中心に作曲や編曲をなさっている方なので、ご自身にとっても「ソーダ」のアレンジはけっこうなチャレンジだったと思いますし、たぶん「ソーダ」は小玉史上もっともアレンジに時間をかけた曲なんです。その甲斐あって、まるで水中にいるかのような、歌詞にある「しゅわしゅわ」感をうまくサウンドで表現できた、お気に入りの楽曲になりました。
映像と音楽の融合が大好き
──先にアレンジの話をしてしまいましたが、「ソーダ」の作詞作曲はどのような着想から?
私には季節感のある曲があまりなくて、そういう曲を書きたいと思ったとき、このシングルのリリースが8月末だったので「じゃあ、夏の曲だな!」と。「ソーダ」は完全にタイトルから書いた曲で、今言ったようにアレンジには時間がかかったんですけど、作詞作曲はほとんど悩まずにすぐできちゃいました。サビダッシュの「あっそうだ」「あ、ううん、えっと、ソーダ」のあたりも最初に浮かんだフレーズのまんまで。
──そこの歌詞、面白いですね。
「好き」と言いたいけど言えないというか、言おうか言うまいか迷っている。そのジレンマを表したいと思っていたらこのフレーズが降りてきて「きたー!」みたいな(笑)。「ソーダ」は恋の始まりをテーマに書いたんですが、人を好きになる瞬間って、自覚的じゃないことのほうが多くないですか?
──気付いたら好きになっていた、みたいな話ですか?
そうそう。じゃあ、いったいどのタイミングで好きになったのか……というのを友達に話を聞いたりしていろいろリサーチしまして。私の中で1つの結論として落ち着いたのが、その人の、今まで見たことがなかった顔を見た瞬間というか、「もっとその表情を見たい」と思った瞬間なんですよ。そこから生まれたのが1番Aメロの歌詞です。
──ああー。「ソーダ」の歌詞はずっと「君」しか見ていなくて、実に初々しいですね。
本当に初々しさを詰め込んだ1曲ですね。「チャージ!」がオープンに「好き」を伝えているのに対して、「ソーダ」は言えそうで言えない、一番楽しい期間を描けたかなと。
──なおかつ映像的な歌詞だと思いました。絵が浮かんでくるといいますか。
まさに私が曲を作っているとき、例えば「こういうMVにしたいな」とか、なんらかの映像が浮かんだ瞬間に、曲も詞もカチッとハマる感じがするんですよ。「ソーダ」に関しては、リリックビデオみたいな映像が頭の中で再生されて「じゃあ、こういうサウンドかな」「こういう言葉が欲しいな」と、曲の輪郭も定まっていきました。
──ちなみに「チャージ!」は?
「チャージ!」はアニメのオープニングテーマなので、オープニング映像を作っていただくことを想定していました。例えばBメロで「タッタタッタ、タッタタ」と手拍子を入れたのは、ライブでやると楽しそうだからというのもあったんですけど、手拍子に合わせて映像が切り替わったら面白いだろうなと思って。だからある意味、MV監督のような視点で曲を作れたときが、自分としては最高なんですよ。ついでに言うと、昔から映像と音楽の融合が大好きなので、いつかは自分で映像作品を監督して、その主題歌や挿入歌も自分で作ってみたいという、わりと大それた夢があって。そういう意味では、2作続けてアニメ作品に携われたのはすごく素敵な経験だと思っています。
ラブソングを書くのが好きになりました
──小玉さんがメジャーデビュー以降にリリースした楽曲は、1stシングル「ドラマチックに恋したい」のカップリング曲「今夜君と、」と「淡雪」、配信シングル「言わない」(2024年5月配信)も含めて、全曲ラブソングですね。
思い返せば、インディーズ時代は逆にラブソングがほとんどなくて。
──あるにはありましたが、わりとしんどいやつでした。
確かに(笑)。だいたい「ほどける。」(2022年2月配信)みたいな、しんどい曲ですね。今はハッピーなラブソングを書いていますけど、そうじゃないラブソングの引き出しもちゃんとあるので、これからも小玉のいろんな表情をお見せできればいいなと思っています。
──「今夜君と、」は、その引き出しを開けた感じがありますよね。
あ、そうですね。「今夜君と、」は好きになった相手のことをどうしても忘れられない女の子の曲なので、けっこうしんどいです(笑)。
──ラブソングはお好きなんですか? 聴くという意味でも、書くという意味でも。
いや、好んで聴いていたわけではないですね。自分がシンガーソングライターとして大きな影響を受けた方の1人が高橋優さんなんですよ。だから10代の初めの頃は、高橋優さんみたいになりたくて「なんで人は嘘ばっかりつくんだ?」とか「そんなのは偽善だ」みたいな曲をめっちゃ書いていて、それもあってインディーズの初期はラブソングを書くこともなかったんです。ただ、愛とか恋ってチープに見られることもあるけれど、よくよく考えると人間の生の根幹にあるものじゃないですか。今日ここに来るまでの電車の中でもふと思ったんですけど、愛がなかったら私も生まれていないわけで。もちろん異性愛に限った話ではなくて、人の行動の中心にあるのが愛だと考えるようになってからは、ラブソングを書くのが好きになりましたね。
できるだけたくさんライブをしたい
──「ソーダ」のボーカルはウィスパー気味で、「チャージ!」とはだいぶ雰囲気が違いますね。
デモのときはもっとかわいく、ぶりっ子みたいな感じで歌っていたんですけど、アレンジが固まってから曲の印象が変わりまして。アレンジに寄り添うように、ちょっと大人っぽく、気だるい感じが出せたらいいなと思って歌いました。
──「チャージ!」ではItaiさんがディレクションをなさったというお話でしたが、「ソーダ」では、例えばディレクターなりプロデューサーなりに何かディレクションを受けたりは?
いつもお世話になっているプロデューサーさんと相談しながら録っていったんですけど、私はわりと自分の中で「こうしたい」というプランを持っているタイプで。そのプランに沿っていろいろ試して「どれが一番いいですか?」と聞く感じで、現場のスタッフの皆さんも巻き込んで多数決をとることもよくあるんですよ。「ソーダ」には何通りもニュアンスを付けられるパートがあったりするので、皆さんの意見も参考にさせてもらいました。
──例えばテイクAとテイクBで多数決をとって、Aを推す人のほうが多かったけれど、小玉さんとしてはBがよかったみたいなパターンは……。
なくはないです(笑)。自分から皆さんに意見を求めたくせに「いや、でもこっちも捨てがたくないですか?」みたいな。大変申し訳ないです。
──「ソーダ」では、そういった食い違いは?
なかったと思います。確か僅差で悩んでいて「多数決の結果はこっちだけど、本当に好みの差だから、あとはひかりが選ぶところだよ」みたいな。でも、まさに「好み」の部分が歌い手としては一番悩むところでもあって。一応、音源としてはこれが完成形ですが、ライブではいろんなバージョンを歌えるので、ライブをたくさんできることを願っています。いつかアルバムを作りたいという話をしましたけど、それと同じぐらい、ライブもしたくて。
──その理由は?
私は、ネガティブな感情もポジティブに昇華することが、音楽だったらできると思っているんです。どんなにつらかったことも曲にして、ライブで披露したときに、その場にいる皆さん全員が感動を共有したり盛り上がったりできるコンテンツになる。それってすごいことだし、その科学反応的なものがライブの醍醐味なんじゃないかなって。私ももっと大勢の方に楽しいライブをお届けしたいし、そのために今必要なことは場数を踏むことなので、できるだけたくさんライブをしたいです。
プロフィール
小玉ひかり(コダマヒカリ)
2000年生まれのシンガーソングライター。14歳で音楽活動を開始し、YouTubeに歌ってみた動画や弾き語り動画を投稿する。ソロ活動の傍ら、2021年までアカペラサークル・WHITEBOX、2023年5月まで音楽ユニット・ぷらそにかに所属していた。2021年7月に1stアルバム「ヒロイン症候群」をタワーレコード限定でリリース。同年よりFm yokohamaの番組「BREAK IT DOWN」のレギュラーDJを務める。2023年春に放送されたテレビアニメ「絆のアリル」にてメインキャラクター・クリス役の声優を担当した。11月にミュージックレインよりメジャーデビューシングル「ドラマチックに恋したい」をリリース。同曲で「令和五年アニソン大賞」新人賞を受賞した。2024年8月にアニメ「女神のカフェテラス」第2期オープニングテーマ「チャージ!」を表題曲とした2ndシングルをリリース。