小玉ひかりが2ndシングル「チャージ!」をリリースした。
小玉は昨年11月にシングル「ドラマチックに恋したい」でミュージックレインからメジャーデビューしたシンガーソングライター。同曲で「令和五年アニソン大賞」新人賞を獲得し、アニソンファンから熱い眼差しを注がれている。2ndシングルの表題曲はテレビアニメ「女神のカフェテラス」第2期オープニングテーマ。キャッチーなメロディと「チャージマイハート! チャージウィズキス!」というフレーズが印象的なポップチューンとなっている。
音楽ナタリーではシングルの話を通して、小玉の作曲方法や今後のビジョンに迫った。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 山口真由子
自分が作る音楽ってなんだろう?
──小玉さんは去年の11月29日に1stシングル「ドラマチックに恋したい」でメジャーデビューしました。それから8カ月と少し経ちましたが、何か変わったことはありますか?
メジャーデビューを1つのきっかけに、原点回帰したようなところがあって。今年の2月から6月まで「#こだまつり2024」と題した弾き語りワンマンライブを毎月開催していたんですが、もともと私はピアノの弾き語りで音楽活動を始めて今に至るんです。なので、期せずして原点に立ち戻ったことで「自分が作る音楽ってなんだろう?」とか、改めていろいろ考える期間になりました。
──具体的には?
例えばデビュー曲「ドラマチックに恋したい」は、テレビアニメ「カノジョも彼女」シーズン2のオープニングテーマとして書き下ろした曲で。それまでの私は、何かに向けて曲を書くという経験がほとんどなくて、自分が書きたいものを書き続けていたんですよ。だから「ドラマチックに恋したい」は初めてアニメ作品に向けて書いた曲という点でも挑戦的な部分はたくさんあって。ただ、そうした新しい試みとは別軸で「小玉ひかりとしてどんな音楽を届けていきたいのか」という視点は必要だと感じています。今後、アルバムを作りたいという気持ちも当然あるんですけど、小玉ひかりの楽曲は「ドラマチックに恋したい」が筆頭にありつつ、ほかにどんな物語を描いていけるのか。将来的な道筋みたいなものを考えている最中です。
──アルバムを見越して曲を作っていると。
いつ出せるかはわからないんですけど、もちろん曲作りはしていて。2月から始めたワンマンライブも毎月、つまり5カ月連続で新曲を披露するという裏テーマがあったし、その倍は曲を書いているんですよ。その中で「アルバムを作るんだったら、こういう曲も欲しいな」とか、思案し続けた8カ月でもありました。
──ディスコグラフィ的には、小玉さんはインディーズ時代に「ヒロイン症候群」(2021年7月発売の1stアルバム)と「Wanna be!」(2022年9月発売の2ndアルバム)という2枚のフルアルバムをリリースしていますよね。
インディーズでアルバムを出す前は、あまり考えずに、とにかく自分が書きたいように書いて曲を増やしていたんです。でも、2枚のアルバムを通して「ライブでこういう展開にしたい」「ライブの終盤にみんなで歌いたい」「みんなでタオルを振りたい」「ここはしっとり聴かせたい」とか、いろんなことを想定したうえで曲を作るようになって。おかげで楽曲の幅も、ライブでできることの幅も広がってきたんですけど、まだまだ全然足りないと思っていますし、挑戦したい曲がたくさんありますね。
「跳びポが最高の曲」
──「楽曲の幅」という点に関して言えば、インディーズ時代の小玉さんの曲はバンドサウンドを基盤にしていたように思います。しかしメジャーデビュー曲「ドラマチックに恋したい」も新曲の「チャージ!」もクラブミュージックに接近していますね。
うんうん。「ドラマチックに恋したい」も「チャージ!」も四つ打ちの、踊り出したくなるようなサウンドを意識していますね。特に「チャージ!」は、7月から先行配信しているのでSNSでエゴサしているんですけど、実際に踊ってくださる方や、「跳びポが最高の曲」みたいなポストをしてくださる方もいらっしゃって。
──跳びポ?
私も初めて見る言葉だったので調べてみたところ、ジャンプしたくなるポイントのことみたいで。たぶん、クラブとかで流してくださったんだと思うんですけど、そこまで想定していなかったので面白かったですね。今までやってきたサウンドとまったく異なることを2枚のシングルでやって、新しい世界に飛び込んだような感覚があります。
──言われてみれば「チャージ!」はハッピーハードコア的なダンスナンバーで、アニクラ方面にもリーチしそうですね。
もちろん出発点としてはテレビアニメ「女神のカフェテラス」があって、その第2期オープニングテーマになることを踏まえて、疾走感があってライブでも盛り上がる曲にしたいと思って作ったんです。前作の「ドラマチックに恋したい」と同様に、「チャージ!」も自分でDTMで打ち込んだデモをアレンジャーのNaoki Itaiさんにお渡しして、私の意図を汲み取ってもらいつつ、ポップなダンスチューンに仕上げていただきました。
──あ、僕はてっきりピアノで作曲していると思っていたのですが。
ピアノで作ってから、Logic Proでドラムやベース、シンセのメロディを打ち込んでいて。本当にラフなデモなんですけど、テンポも自分で決めていましたし、シンセのメロディとかはそのまま使ってもらっているので、けっこう原型は留めているんですよ。Itaiさんには、サウンド的に大幅にきらびやかに、おしゃれにしていただいた感じですね。
──ラフとはいえ、自分でアレンジまでできるのは強みになると思います。
まだまだ試行錯誤中なんですけど、いずれは楽曲提供もできたらいいなと思っていて。そのためには自分でアレンジもできたほうがいいだろうと、練習しているところです。
お互いが充電できる場所
──先ほどおっしゃったように「チャージ!」は「女神のカフェテラス」第2期オープニングテーマですが、作品からはどんな着想を?
オープニングテーマのお話をいただいてから何曲も書いたんですけど、「チャージ!」が最後にできた曲で、かつ一番テンポが速い曲なんですよ。「女神のカフェテラス」は主人公のおばあちゃんが残してくれた「Familia」という喫茶店が舞台になっていて、そこに5人の女の子たちが住み込みで働いているんです。私は原作マンガとアニメの第1期を拝見したとき、この「Familia」という“場所”をテーマにしたいと思って、当初は「おかえり」というタイトルで、「その場所に行くと安心する」みたいなハートフルな曲を書いたりしていて。でも、もうちょっと刺激的なワードを入れたくなって、そのとき「『Familia』という場所がみんなのチャージスポットになっているのかも」という視点に切り替わったんです。そこからもう何曲か書いて、最終的に「そこで触れ合うことで、お互いが充電できる場所」という方向で「チャージ!」を書き上げました。
──「女神のカフェテラス」はざっくりいえばラブコメですが、そこからチャージスポットという発想が出てくるのは面白いですね。
私のスマホはあまりにも電池の減りが早いというか、いつも「充電しなきゃ!」と言っているので、もしかしたらそこからつながったのかもしれない(笑)。
──今回でアニメのタイアップは2回目になりますが、慣れみたいなものはありました?
まず、アニメからインスピレーションを受けて曲を書くという工程はすごく好きだなと、今回「チャージ!」を作って初めて感じました。「ドラマチックに恋したい」のときは何が正解なのかわからなくて……もちろん今もわからないことに変わりはないんですけど、今よりもっとわからなかったし、何曲も書いていく中で「これでいいのか?」と悩む時間がすごく長かったんです。それに比べると「チャージ!」は楽しみながら書けましたし、タイアップがなければ浮かばなかったアイデアもたくさんあって。例えば曲のテンポが速くなったのもそうだし、歌詞の内容も、「女神のカフェテラス」のヒロインたちはけっこう積極的なので、よりオープンに「好き」を表現できました。たぶん、普段の小玉だったらもうちょっと内気な感じになっていたと思うので、そこはアニメに引き出してもらった部分なのかなって。
──そう、オープンですよね。あけすけと言ってもいいぐらい。かつ小玉さんの歌詞は、「チャージ!」に限らず、あまり背伸びしている感じがしないのが、僕は好きです。
ありがとうございます。インディーズ時代からいろんな方に「等身大」という言葉で歌詞を褒めていただいているんですけど、一方で「このままでいいのかな?」と悩んだ時期もあって。本当はちょっと背伸びして大人っぽい、おしゃれな歌詞を書きたい気持ちはあるし、そういう歌詞が書けるアーティストの方々をうらやましく思っているんですよ。でも、今おっしゃったように背伸びしない歌詞だからリスナーの皆さんにスッと届く部分もある気がしていて。このインタビューの最初にメジャーデビューして変わったことについて聞いてくださいましたけど、等身大でいることは変わっていないですね。
──変わってもいいと思いますけどね。これから何年も音楽活動をしていく中で、インプット次第で何がどう転ぶかわかりませんから。
確かに、今後どうなるかはわからない。でも、核となる部分は変わりたくないというか。背伸びするにしても、うっすら等身大の小玉が見えちゃうような歌詞が書けたら面白いかもなって、今ふと思いました(笑)。
一番大事にしているのは、気持ちよく聞こえること
──「チャージ!」はキーも高いしテンポも速いですが、ボーカルはふわっと乗っている感じで、絶妙なバランスだと思いました。
今でこそこういうキーとテンポで歌っているんですけど、弾き語りを始めた頃は今よりずっとキーを低くしていて。もともと地声が低めなので、高い声が出せないというコンプレックスがめちゃくちゃあったんですよ。以前、ぷらそにかというセッションユニットに参加していた頃も、私だけみんなよりキーが低いからサビが歌えなくて悩んでいた時期があったりして。それを考えると「何があったの?」というレベルで成長できた感じはあります。
──では、レコーディングでは特に苦戦はしなかった?
しなかったですね。私にしてはすんなり録れて、スタッフさんからも「めっちゃ早かったですね」と言われました。もともと歌っていて楽しい曲をイメージして書いたので、自分自身もレコーディング中はすごく楽しかったです。あと、前回の「ドラマチックに恋したい」と同じくアレンジャーのItaiさんがディレクションしてくださったんですけど「めちゃくちゃ歌うまくなったね。表現に余裕が出てきてる」と褒めてくださって、感激しました。
──自分が歌いやすいキーを考えて作曲しているんですか?
いや、むしろいつも「もっと低くすればよかった」と後悔していて(笑)。歌いやすいというよりは、聴感上、自分の声が一番気持ちよく聞こえるであろうキーで作っている感じですね。だいたいピアノで作っているのでキーもなんとなく決まっているんですけど、一番大事にしているのは、気持ちよく聞こえることです。
──「ちょっとキーが高めだから半音下げて歌ってみたら、驚くほど地味になってしまった」みたいな話をされるボーカリストの方もたまにいらっしゃいます。
私もデモを作るときに試しに下げてみたりするんですけど「ん? なんか寂しくない?」みたいな。特に「チャージ!」は皆さんにとってのチャージスポットになるような曲を目指して作ったのに、自分の声に元気がなかったら元も子もないので、そういうことも念頭に置いてキーは調整しました。でも、いっそもうちょっと上のほうが歌いやすい場合もあって。「チャージ!」もそうだったんですけど、あるラインを超えてしまうと聴感上、キンキンしてしまうんです。結果、絶妙に歌いづらいキーになるという(笑)。
──確かにキンキンしていないですね。うまい言葉が見つからないのですが、まろやか?
だとしたらよかったです。私は、さっきも言ったように自分の声にコンプレックスがあったんですけど、自分の声は変えられないので、向き合うしかないと腹を決めまして。インディーズでアルバムを出したあたりからいろんな歌い方を試してきて、今ようやく落ち着いてきたというか「これが小玉の歌かな」というのがわかってきた頃合いです。
──例えば3rdミニアルバム「コイシイトキハ。」(2019年8月発売)と比べたら、ずいぶん遠くまで来ましたね。
本当にそうですね。「コイシイトキハ。」はアルバムよりもっと前に自主制作で作ったので、歌い方もまるで違うし、個人的には早めにサブスクから取り下げたい(笑)。
──僕は好きですよ。全編ピアノの弾き語りで、今と比べると重く、暗いトーンですが。
もちろん私にとって大切な曲たちですし、ああいうタイプの曲も今後はやれたらいいなとは思いつつ、たぶん今歌うとかなり表情が変わってくるんですよ。あの頃の憂いは失われてしまっているので、可能なら取り戻したい。歌えるようになった曲もあれば、歌えなくなった曲もあって、人間って不思議ですね。
──小玉さんはインディーズ時代から曲に応じて歌い方も声のトーンも変えていますが、「チャージ!」のボーカルを選択するにあたって、何か意図したことはありますか?
「女神のカフェテラス」の中の人……と言うつもりはないんですが、自分もちょっとアニメのキャラクター的な気持ちで歌ったというか。それは「ドラマチックに恋したい」のときも同じで、小玉ひかりが歌ってはいるけれど、キャラクター感は出したいなと思ったんです。「チャージ!」も曲自体がすごくポップということもあり、いつも通りに歌ってみたらなんとなく平坦な感じがしたんですよね。なので、例えばAメロの「もたんっちゅーねんって」とかに顕著なんですけど、わりとセリフっぽく、話しかけるように歌うことを意識していました。別の言い方をするなら、小玉にはいろんな曲があって、曲ごとに主人公がいるから、「チャージ!」は「チャージ!」の女の子になりきって歌った感じです。
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小玉史上もっともアレンジに時間をかけた曲