Czecho No Republic「Mirage Album」インタビュー|武井優心と空白の4年間

Czecho No Republicが9thアルバム「Mirage Album」をリリースした。

前作「DOOR」から4年ぶりのアルバムとなった本作。空白の4年間、コロナ禍の中でCzecho No Republicの内部にはいったい何が起きていたのか。

音楽ナタリーではギターボーカルの武井優心にインタビュー。Czecho No Republicらしさの模索と、“霧のアルバム”を意味する本作が完成するまでの軌跡を追う。

取材・文 / 矢島由佳子撮影 / 大橋祐希

チェコに感情移入できない

──アルバムの楽曲についても触れたいのですが、やっぱり最初に「この4年5カ月、どうしていたのか?」ということを聞きたくて。

そりゃそうなりますよね。4年5カ月……そんなに経ちましたか。

──前作「DOOR」が、2020年6月リリースなので。

矢島さんに担当していただいた2018、19年頃のインタビューを読み返したところ、すごく前向きに、ポジティブにやってるじゃないですか。2018年4月に八木類さんが脱退したタイミングでは、当時のインタビュー通り「4人でやれることをやろう」というモードで、新しいCzecho No Republicを作っていこうとがんばっていたんです。でも、だんだん物足りなさを抱えていったんですね。気持ちとしては「4人で大丈夫」と思っていたけど、ずっと5人で鳴らす音楽を作ってきたので、物理的に物足りなかった。ライブ中も「もうちょっといけるんだけどな」と思ったりして。しかも自分は5人で鳴らす音楽を作ることが得意なのか、無意識に5人のアンサンブルが頭の中で鳴ってしまっていて、4人で構築しようとすることが自分の首を絞めていったんです。ポジティブなことを言っていたけれど、その反動がだんだん溜まってきて。

武井優心(Vo, G)

──表で言ってる言葉と、体感のリアルとのズレが……。

そんな中で、いよいよ疲弊してきて。前作は4人になってから1枚目のアルバムだったので、あえて4人で鳴らせる音楽を意識していたんです。その結果、自分の中ではつまらないものができてしまった。

──「DOOR」もいい作品だと思いますけど、武井さんの中では物足りなかった、ということですよね。

それでいよいよ冷めちゃったんですよ。そのときバンドは10年目で、人間関係も冷え切っていて。4人で集まっても、ドキドキするものがないというか。スタッフとかがいたらみんなしゃべるくせに、いざ4人になると誰もしゃべらない。それくらい空気が終わっていたんですよ。そこにいるのがもうつらくて、「もうキツいな、無理だな」と思っていたら、ちょうどコロナ禍に入ったんです。あの頃、バンドは誰も何もできなくなったじゃないですか。

──バンドとして動かないでいい理由ができちゃった。

そう。俺としては、バンドに向き合わなくて済むことが逆に助かったというか。そのまま無理矢理やっていたら、リアルに解散していた気がします。コロナになってなくても活動はちょっと無理だったと思う。それにコロナ禍に入って、お客さんと歌ったりすることができなくなったじゃないですか。それが持ち味のバンドだったのに、もういよいよ何もやりたいことがないっていう。

──ギターが1本なくなっていたところに、みんなの歌声まで失っちゃって。

そうそう。それでさらにチェコに感情移入できなくなっていて。またそこで俺の情けないところは、潔く解散もできないっていう。

武井優心(Vo, G)
武井優心(Vo, G)

チェコとして書くべき曲

──解散という決断をとる勇気もない?

ない。みんなはそこで「やりきった」とか言って解散すると思うんですよ。でも俺は、やめることもできず、でもやりたくもない、っていう期間に突入して。ただやっぱり音楽は好きで、それなら違う音楽をやろうと思って、Living Rita(武井優心とタカハシマイによる音楽ユニット)を始めたんです。そうしたらLiving Ritaをやっていく中で、チェコのことをまた客観的に見られるようになって。Living Ritaをやっていると「ここでこういきたいんだけど、グルーヴが足りないんだよな」「チェコだったらここでガッていけるんだけどな」みたいな、そういうジレンマが生まれてきて、「チェコって強いんだな」「バンドっていいよな」ということを思うようになったんです。それで今一度チェコを構築し直すかと思って、サポートメンバーとしてオオナリヤスシ(SISTERJET)を入れて、ライブで5人で音を出すことから着手しました。

──それがいつ頃でしたっけ?

初ライブをしたのは2021年11月だったかな。そこからちょっとずつ、本当の意味で今のチェコのアイデンティティを見つけようと思ってゆっくりライブをやっていたら、「ライブがすごくいい」と言っていただけるようになったんです。俺としては4人から1人増えただけで、サウンドもそんなに変わってないし、「なんで?」という感じで。昔ほど気張らなくなったというか、肩慣らしとしてちょっと気楽に、ギスギスした空気も取っ払って、情けないんですけど、週末集まってやってるようなギラついてない社会人バンドみたいな空気で。そうやって2022年、2023年にかけてだんだん雪解けしていった感じでした。でも新曲は出してないので、こっ恥ずかしかったんですよね。過去の曲ばかり擦ってるバンドみたいになっていて、俺としては「ダサいな」と。それと同時に、バンドと初めて距離を置いたことでだんだんチェコとして書くべき曲が見えてきたので、ようやくアルバム制作に取りかかろうかなと思えたんです。

武井優心(Vo, G)

──そのときに武井さんが考えた「書くべき曲」とは?

新しいことにトライし続けるのがクリエイターであり、ミュージシャンとして一番カッコいいものだと思ってたから、「バンド名から連想されるものを着実にこなすのは、果たしてカッコいいことなのか?」とずっと思っていて。でも今回はいわゆる“Czecho No Republicらしさ”を真っ向からやってみようと思いました。

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