4人のキュレーターがそれぞれ話を聞きたい次世代アーティストとトークを交わす「Coming Next Artists」シーズン2の対談企画。11回目はねごとの沙田瑞紀が、宮川愛李を対談相手に指名した。今回のインタビューでは、6月にミニアルバム「スマホ映えの向こうの世界」でデビューを果たしたばかりの宮川が、本名を名乗ってアーティスト活動を始めたきっかけや、実兄であるアーティスト・みやかわくんとのエピソード、歌に対するまっすぐな思いを謙虚な姿勢で語った。
取材・文 / 寺島咲菜 撮影 / 曽我美芽
- 宮川愛李(ミヤカワアイリ)
- 東京・式根島出身のクリエイター。みやかわくんの実妹“妹子”としてSNS上での音楽活動を始め、2019年4月に本名“宮川愛李”名義で東京・マイナビBLITZ赤坂にて初のワンマンライブ「宮川愛李 First Live ~はじめてのわんまん~」を行い、6月にミニアルバム「スマホ映えの向こうの世界」で本格的なアーティストデビューを果たした。
デビューのきっかけとなった兄の存在
──まずは沙田さんが、対談相手に宮川さんを選んだ理由からお伺いできればと思います。
沙田瑞紀 私もSNSをやってるんですけど、「これで伝わるかしら……」と推敲するから、投稿にものすごく時間がかかるんですよ。SNSを上手に使えるようになりたいなと思っていたところで愛李さんのSNSを拝見して、すごく自由にオープンにやってらっしゃるなと。きっと日頃からいろんなことを素早く考えて、発信しているんですよね。
宮川愛李 「SNS上のテンションと違うね」とよく言われるので、戸惑わせてしまったらごめんなさい(笑)。
沙田 話しやすい方だなと思いますよ。愛李さんはどういうきっかけでデビューされたんですか?
宮川 もともと歌うことは好きだったんですけど、好きという気持ちだけで目指せるような仕事じゃないと思っていました。でも、みやかわくんのライブに妹として出させていただく中で、兄とスタッフさんが一丸となって作り上げたライブを間近で観て感動して、私もこんなふうになりたいと思っていました。ちょうどその時期に、兄がお世話になっているスタッフさんから「愛李も本気でやってみれば?」と声をかけてもらって、それで決意しましたね。
沙田 歌うことが好きだと自覚したのはいつぐらい?
宮川 ずっと小さい頃からです。人前で初めて歌ったのは、小学校行事の劇で。当時目立ちたがり屋だったので、自分から妖精役に立候補しました。歌って魔法をかける役で、体育館のステージで大声で歌い上げましたよ。懐かしい(笑)。
──沙田さんのデビュー当時はいかがでしたか? 学生時代にデビューされているという点では、お二人共通されていますね。
沙田 私も兄の影響で音楽を始めました。5つ上の兄が高校時代にバンドを組んでいて、家にエレキギターがあったので、それで中学生くらいから弾き始めて。高校生のときにソニーの人に声をかけていただいて、愛李さんと同じく「できるかわかんないな」というところからのスタートでしたね。曲を猛烈に作ってライブで披露するというのを1年くらい続けて、私が大学2年のときに、ねごととしてデビューしました。メンバーは当時バラバラの大学に行っていたので、授業が終わって1時間かけて新宿のスタジオに集まって練習して、学校生活とバンド活動の両立はけっこう大変でしたね。
“妹子”から“宮川愛李”へ
──宮川さんはもともと「妹子」というお名前でSNS上で活動されていましたが、本名で活動を始めた理由はなんだったんでしょう。
宮川 みやかわくんの妹だったから妹子というあだ名が付いただけで、特に深い意味はなかったんですよ。アーティスト活動を本格的に始めるにあたり、区切りを付けたほうがいいんじゃないかという気持ちがあったので、本名を公表しました。妹子としてファンの皆さんに愛してもらっていたのはうれしかったんですが……妹子だと力抜けちゃいません?(笑) それはそれでよさがあったんですけど。
沙田 宮川愛李として歌うことで、心境の変化はありました?
宮川 妹子のときはYouTubeに歌唱動画を投稿していたんですけど、正直「みやかわくんの妹」という立場に甘えていた部分もありましたね。ミニアルバム「スマホ映えの向こうの世界」を制作するにあたって、自分の表現力の限界に挑戦することができました。
──宮川さんは伊豆諸島の式根島という小さな島のご出身ですよね。地元を離れることに迷いはなかったんでしょうか。
宮川 高校1年のときに海を越えて東京都内にやってきたんですけど、日常的に地元の人たちの温かさに触れていたので、やっぱり心細さはありました。兄と一緒に活動していく中で、第二の家族と呼べるスタッフさんに恵まれて、デビュー自体に大きな不安はなかったです。
「あれ、歌ったっけ?」
──宮川さんは4月に初ワンマン(参照:「宮川愛李初ワンマンでみやかわくんと兄妹共演、6月に「スマホ映えの世界」発売」)を終え、6月からリリースイベントで各地を回っております。手応えはいかがでしたか?
宮川 初ワンマンは思った以上に緊張して、記憶がけっこう抜けてるんですよ(笑)。兄がゲストとして登場したときに一気に安心した覚えはあります。そういうところも踏まえて、私は1人のアーティストとしてまだまだだなと実感しました。リリースイベントではファンの方々から「ライブよかったよ」と感想をいただいて、自信につながりました。沙田さんの、デビュー当時のライブの思い出はありますか?
沙田 もう9年ぐらい前の話なんですけど、自主企画ライブをやり始めてから、友達の輪がどんどん広がっていくのが楽しくて。いろんなアーティストの方々の話を聞くことが、音楽活動の原動力になっていましたね。あと、デビューしたての頃のワンマンでは出来不出来をあまり意識せず、回数を重ねていくごとに新しいものが吸収できるという喜びが大きかったです。
宮川 ワンマンでの印象深かった出来事はありますか?
沙田 蒼山幸子(Vo, Key)がリハからまったく声が出ない日があったんです。公演を中止するかどうか判断を迫られていたんですけど、「4人でステージに立てば大丈夫!」と自分たちを奮い立たせてライブに臨みました。今振り返ればあの日のライブは、ねごとの歴史の中で大きなステップアップのきっかけだったのかも。
宮川 私がその場にいたら泣いてますね。
沙田 愛李さんはもう信頼できるスタッフに出会えてるから、心強いですね。
宮川 初ワンマンは「ノリで行けるでしょ」と思っていたんですけど、お客さんの歓声が自分だけに向いてるって意識したら一気に緊張してしまって……気付いたらMCに入っていて「あれ、歌ったっけ?」みたいな(笑)。そういう状況をファンの方たちは「よかった、ちゃんと歌えてる。でも手がぶるぶる震えてるよ!」と保護者目線で見守ってくれていました。
沙田 初ワンマンを経て、6月のリリースイベントはどうでした?
宮川 「もっとお客さんの顔を見れたな」「こういう歌い方ができたな」など、自分を省みる冷静さは出てきました。終演後にはスタッフさんに感想を聞いたり、撮っていただいたライブ動画を見返したりして、改善点を探していましたね。兄もこっそり来てくれたようで、いろいろとアドバイスをもらいました。普段から不安なことがあると、夜中でも兄の家に行って相談しています。
沙田 私は反省しすぎるとステージに立つのが恐くなっちゃうから、反省会はやったりやらなかったり。例えば、「この音程が弾けないな」とか気になるところはあると思うんですけど、それは努力の問題だから、ライブを楽しんでることがお客さんにも伝播すれば、突き詰めて反省する必要はないんじゃないかな。そうやって楽観的に考えられるようになってから、ライブの雰囲気もよくなっていったし、ステージでのびのびと演奏できるようになりましたね。
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表現力の限界を超える