“大先生”になる予感
藤井 最近のアニソンは声優さんが歌われるパターンも多いですよね。自分が書いた曲を声優さんに歌ってもらうことに関しては、どう感じていらっしゃるんですか?
ZAQ やっぱり声優さんが歌うと説得力があるんですよ。だってキャラクターが歌っているわけですから。ただ声優さんが歌っている歌詞が、やっぱり与えられた言葉なんだってことを感じることはあります。私が書いた歌詞を声優さん自身のものにしてくださる方って、少ないんですよ。いい意味でも悪い意味でもすごく収まりがいい形になってしまうと感じることはありますね。
藤井 キャラクターのことだけでなく、歌を担う声優さんのことまで考えて曲を作っているわけですね。
ZAQ はい。声優さん自身にも嘘偽りないように書こうと意識していますし、ライブでも歌ってもらえるような曲にしたいですし。自分の曲だったらアレンジを難しくするところを提供だったらちょっと歌いやすくしよう、とか。
藤井 作家としての自分と、シンガーソングライターとしての自分、どっちの比重が大きいんでしょうか?
ZAQ それが自分の中でも謎な部分でして、職業作家としての脳とアーティストとしての脳をうまいこと切り替えながら、どっちも大事にしているんですよね。
藤井 曲を提供するときに照れを感じることはありませんか? 作品やキャラクターに寄り添った歌詞をご自身の言葉でつづることに躊躇する瞬間とか……。
ZAQ 提供のときはめちゃくちゃ遠慮せずに書きます。むしろ自分の曲だったら歌えないであろう言葉を、キャラクターに歌わせてやる!って気持ちがあって。ときには下品な言葉になっても、そのキャラクターが歌うことに嘘がなければ「いけいけー!」ってなっちゃいます(笑)。
藤井 なんだかZAQさんは将来“大先生”になる予感がしますね。何に対してもオープンだから表裏がないし、すごく頼もしいです。
挫折も全部間違いじゃなかった
藤井 ケースバイケースだと思うんですけど、作り始めてどれくらいで曲が完成するんですか? 例えば一番早いときでどれくらい?
ZAQ 一番早かったので言うと、フルコーラスの作詞作曲を半日くらいで仕上げたことがあります。
藤井 それはすごい!
ZAQ もちろんアレンジとかまで入るともっと時間はかかるんですけど、作詞作曲だけならそのくらいですね。もちろん難産となると1カ月くらいかかるときもあるんですけど。「このキャラクターの気持ちがどうしても理解できない!」って。
藤井 そんなときでもちゃんと対峙して1つひとつ結果を出してきたわけですよね。これまでギブアップしたことはありますか?
ZAQ ギブアップはないですね。これは先入観ですけど、アーティストさんによくある「俺、そういうのやらねえから」みたいなお断りって自分にはまったくないんです(笑)。依頼があればなんでもやります。
藤井 ちなみに、歌詞と曲だとどっちを先に作りますか?
ZAQ これは曲によってバラバラですね。真面目な作品のテーマ曲のときは、メッセージが大事だと思うので歌詞を先に書きます。コメディだったり、すごく明るい作品のテーマ曲だったらキャッチーな曲のほうがいいからメロディから考え始めて、そこにうまくハマる言葉をはめていきますし。ヒップホップとか洋楽っぽい楽曲のときはアレンジから入りますね。
藤井 すごく柔軟だし、パリピ時代に培ったノリとかバイブスも今にちゃんと生きていらっしゃる気がします。
ZAQ それは自分でも感じます。挫折も全部間違いじゃなかった。
藤井 曲作りに煮詰まったり、ピンチになったりすることはないんですか?
ZAQ 煮詰まることはあまりないですね。ただアニメ業界全体が飽和している状態なので、その中で生き残っていくにはどうすればいいか、みたいな悩みはあります。作品が多くてもみんながみんなタイアップを取れるわけではありませんから、アニメという作品に頼らずシンガーソングライターとして生きていく選択も必要なんじゃないかとか。
──藤井さん自身も、お笑い芸人でありながら、役者としても活動し、さらに音楽活動も行っていますよね。ジャンルをまたいで複数の顔を持っているわけですし、ZAQさんに何かシンパシーを感じる部分もあるんじゃないでしょうか。
藤井 僕自身、いろいろやらせてもらっていますけど、ZAQさんのように清々しくはないですね。実は僕、昔はすごく保守的だったんです。音楽活動を始めたときも、自分からすごくやりたかったわけではなくて、ふわっと始まったものだったし。20代の頃は先々のことを見る余裕がなかったから、目の前のことをやり切るので精一杯だったんです。だからお茶の間のテレビの前でアニメを観ている視聴者の方のことまで考えて曲を作れているZAQさんは本当にすごいなと思います。しかもシンガー、作曲家、作詞家と、音楽という芯がしっかりあるので、音楽家はZAQさんの天職なんでしょうね。ピッタリだと思います。
ZAQ ありがとうございます!
次のページ »
ZAQの弟オーディション