4人のキュレーターがそれぞれ話を聞きたい次世代アーティストとトークを交わす「Coming Next Artists」シーズン2の対談企画第2回では、mabanuaがサイダーガールを対談相手に指名。数々のアーティストのプロデュースを手がけるmabanuaはサイダーガールのサウンドにどういう魅力を感じ取ったのか? バンドの出自や最新アルバム「SODA POP FANCLUB 2」、世代をまたいだバンド観にまつわる話など、さまざまな話題について語り合ってもらった。
取材 / 近藤隼人 文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 須田卓馬
- サイダーガール
- 動画サイトを中心に活動していたYurin(Vo, G)と、Vocaloidを使用して音楽活動を行っていた知(G)、フジムラ(B)が2014年5月に結成したバンド。同年7月に東京・下北沢CLUB251で初ライブを開催し、チケットは即日ソールドアウトした。2015年6月、1stミニアルバム「サイダーのしくみ」をライブ会場限定でリリース。2016年2月には2ndミニアルバム「サイダーの街まで」を発表し、初の全国ツアーを開催した。同年10月から行われた、東京・UNITでの初ワンマンライブを含む全国ツアーのチケットは全公演完売。2017年7月にシングル「エバーグリーン」でメジャーデビューを果たし、10月に1stフルアルバム「SODA POP FANCLUB 1」を発表した。2018年3月に映画およびテレビドラマ「兄友」の主題歌「パレット」、6月にMBS・TBS系ドラマ「覚悟はいいかそこの女子」の挿入歌「約束」をそれぞれシングルリリース。11月に映画「家族のはなし」主題歌の「dialogue」も収録した2ndフルアルバム「SODA POP FANCLUB 2」を発売した。
青春に対して後悔の思いが強い
──「Coming Next Artists」シーズン2はmabanuaさんをはじめとするキュレーターの方々が話を聞いてみたいアーティストと対談をする企画です。今回、mabanuaさんがサイダーガールさんを指名した理由はなんでしょうか?
mabanua いろいろな新人アーティストの方の音源を聴かせていただいた中で、一番アーティストとしてやりたいことが伝わってくるバンドがサイダーガールさんだったんです。
知(G) ありがとうございます! 実は僕らはmabanuaさんのことが昔から大好きで……。
mabanua え、本当ですか?
フジムラ(B) 僕は8年くらい前にDTMを始めた頃、打ち込みのビートを作ってみようと思っていろいろ調べていたら、mabanuaさんが1人でビートメイキングをしている動画を見つけて。それを参考にいろいろ勉強させてもらいましたし、もちろんOvallも好きで聴いているので、今日はすごく光栄です。
mabanua ありがとうございます。今回、対談をさせていただくにあたってミュージックビデオを拝見したんですけど、MVでは基本的に10代の学生たちを描いた物語がテーマになっていますよね。バンドが描く物語のイメージの由来ってどういうものなんですか?
Yurin(Vo, G) 僕らはサイダーガールってバンド名なんですけど、女性のメンバーは1人もいなくて。その「ガール」という言葉が象徴するものは青春時代だと考えているんです。今学生として学校に通っている皆さんは現在進行系で青春を過ごしていますし、大人だったら若い頃を回想することで誰もが青春時代を思い起こすことができる。なので、僕らはその青春を描くことで多くの人に音楽を届けようと思っているんです。
mabanua MVで描かれているようなストーリーって、言ってみれば大学生とか20代半ばくらいの社会人が主人公でも成立すると思うんですよ。サイダーガールの皆さんが10代の学生に絞って青春時代を表現するのはなぜですか?
Yurin 「儚さ」に魅力を感じているからだと思います。青春って人生の中ですごく特別な時間なのに、あっという間に過ぎてしまう。そこに僕らは刹那的な魅力を感じていて。
mabanua サイダーガールの皆さんはまだまだお若いですけど、すでに青春時代って感じではないですよね。
知 はい。僕らももう20代半ばですから。
mabanua 大人になっていく中でも青春時代を描きたいという思いは変わらない?
フジムラ そうですね。例えば恋愛もののドラマを観ても、自分が10代半ばで観ていたときよりも、大人になってから観たときのほうが心に刺さるものがあるんです。
Yurin 僕は青春に対して後悔の思いのほうが強くて。ドラマで描かれているような華々しい青春時代を送れなかったからこそ、今もそれを追いかけているのかなって思っています。
インターネットで出会った3人
mabanua サイダーガールの皆さんがそれぞれ出会ったきっかけはなんですか?
知 出会ったきっかけはインターネットですね。僕らそれぞれニコニコ動画を通じて知り合って。僕とフジムラはオリジナル曲を公開していて、曲を通じて知り合ったんです。Yurinくんは僕の曲を1回歌ってくれたことがあって、その歌声に惚れ込みました。もともと僕はバンドがやりたくて上京したんですけどバンドが組めなくて、その気持ちを2人に打ち明けて誘ったのがサイダーガール結成のきっかけですね。だから僕ら3人は出身地もバラバラなんです。
mabanua それがだいたい4年前くらい?
知 はい。20代前半のときですね。
Yurin 2人は働き始めの頃だったもんね。
フジムラ うん。サラリーマンをやってた。
mabanua ってことは知さんとフジムラさんは脱サラしてバンド活動に本腰を入れたんですか?
知 はい。僕は働きながらインターネットで曲を公開していたんですけど、いつかはちゃんと音楽活動1本に絞りたいなと思ってて。Yurinくんはまだ働き始める前だったんだよね?
Yurin うん。就職活動はしてなかったけど、「とりあえず上京したいな」と思ってたタイミングでバンドに誘ってもらったんです。
mabanua Yurinくんに関して言えば、曲を作れてボーカルギターをやれるってことは、ソロデビューだってしようと思えばできたと思うんです。なぜバンドを組むことを選んだんでしょうか?
Yurin もともとバンドが好きだったので、高校のときはバンドを組んで音楽で遊ぶことが当たり前になってたんです。でも大学進学のタイミングで上京したことで組んでいたバンドが解散して、新しくメンバーを探すのがちょっと面倒になっちゃいまして……。そういう理由があってインターネット上で音楽活動をやっていたんですが、心のどこかには「バンドをやりたいな」という気持ちがあったんだと思います。
mabanua バンドで活動するのとソロで活動するのでは気持ちの持ちようが違うと思いますが、Yurinくんはどう感じてますか?
Yurin 1人で音楽をやっていると、自分の作りたいものに100%近いものができるんです。でも、そこに至るまでの工程がなんだか作業っぽくなってしまうことがあるんですよね。どっちかというと、誰かといろんな意見を出し合って曲を作っていくほうが楽しいと思うところがあって。
mabanua 1人で活動していたときと、サイダーガールとして活動したときの音楽性って、けっこう変わったんですか?
Yurin それが実はそんなに変わっていないんです。もともとインターネットを通じてお互いの作品を知っていたのもあって、趣味嗜好がけっこう近かったんですよ。バンドを組む前からお互いの音楽性がわかっていたのはいいことだったと思います。
mabanua 昔は「with9」というバンドメンバー募集サイトが盛んで、僕も「R&B」とか「ロック」とかジャンルを選んだり、年齢層とかで絞り込み検索をしたりしてたんですよ。それで「ブラックミュージックが好きです」ってプロフィールに書いてあるから一緒にスタジオに入ってみたら、ブラックミュージックの「ブ」の字も知らないみたいな人と一緒になったこともあって(笑)。当時はインターネットで調べてもプロフィール以外でその人の音楽性を読み解くことができなかったんだけど、今はもうネットで自分の曲を聴いてもらえる時代だからね。
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3人共欲張りな性格