須田景凪「teeter」
2019年1月16日発売 / Warner Music Japan
これまで以上に体温が感じられるアルバム
文 / 風間大洋
シングルコイルのギターが刻むカッティング、硬質で軽快なビート、やや性急なテンポ、瞬く間に聴き手の脳内を侵食する中毒性の高いリフやメロディ。ボカロP・バルーンの生み出す楽曲は、大きく見ればハチやwowakaといった作家たちの登場以降の「ボカロ的なサウンド」と形容される系譜の上にある。その中で彼の楽曲が多くの支持を獲得し、シーンで傑出した存在となったのは、そういう王道のアプローチを極めて高い水準でまとめられるからだろう。約1年前、シンガーソングライター・須田景凪として初めてリリースしたアルバム「Quote」でも彼の強みは遺憾なく発揮されていた。
このたびリリースされる「teeter」は、同名義での2作目。前述した先駆者たちを例に挙げるまでもなく、より広い層へ届けるべく音楽性を拡張させていくのか、ボカロ時代からのやり方をさらに鋭角化するのか、はたまた大胆に方向転換を図るのか。あらゆる選択肢と可能性を含んだタイミングであり、今後を占う意味でも注目度の高い作品だ。
実際に聴いてみると、サウンド面では得意技と新機軸がバランスよく同居している印象を受けた。「パレイドリア」はこれまでのやり方でさらなる高みに到達した感があり、「Dolly」のようにスピード感よりもグルーヴで攻める姿には目新しさも感じる。その一方で、てらいのないグッドメロディに乗せて「素直になって話がしたいな」と歌う「レソロジカ」や、「世界が終わる頃に ふたりが笑っていますように」と結ぶバラード「浮花」といった楽曲に顕著なのは、感情にフィルターをかけるようにいささか難解な言葉を選びながらも、その行間や歌い回しからこれまで以上に体温が感じられること。
タイトルの「teeter」は「シーソーに乗る」と訳すこともできる。クリエイターと表現者、俯瞰と主観。2つの視点を併せ持つ須田景凪の比重は、その言葉の如く、この先どちらかに傾くのか。はたまた絶妙なバランスで均衡していくのだろうか。のちに振り返れば今作がターニングポイントとなる気もする。
初回限定盤 [CD+DVD]
2700円 / WPZL-31556
通常盤 [CD]
1944円 / WPCL-12982
- CD収録曲
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- mock
- パレイドリア
- farce
- Dolly
- レソロジカ
- 浮花
- 初回限定盤 DVD収録内容
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- 「mock」 Music Video
- 「Dolly」 Music Video
- 各配信サービスで、須田景凪「teeter」を聴く
- 須田景凪(スダケイナ)
- 2013年より「バルーン」名義で動画共有サイトにボカロ曲を投稿し、人気を集める。自身の曲を自ら歌うセルフカバーでも数多くの支持を集めており、「シャルル」のセルフカバーは2019年1月時点でYouTubeにて2200万回以上再生されている。2018年1月、自身で書いた楽曲を自身で歌う須田景凪名義の初アルバム「Quote」をリリース。同年3月には東京・WWWにて須田景凪名義の初ライブ「須田景凪 1st LIVE "Quote"」を行った。2019年1月には新作音源「teeter」をリリースした。
2019年2月25日更新