CIVILIAN×篠原ともえ|コンプレックスと向き合った4人が出した答え

「出るべくして、出たMV」って思われる作品にしたかった

──MVでは顔にコンプレックスを持った画家がだんだんと前向きに変わっていく様子が描かれていますが、篠原さんはどんな気持ちで撮影に臨みましたか?

篠原 MVを観た方が「わかる、わかる」って共感するというよりも、心をギュッと連れて行かれるような世界を表現できたらいいなって。打ち合わせで「こういうパーソナリティなら、こういう服だよね、髪型はこうだよね」とか、私が簡単なデザイン画を描いて、どうやったらリアルに見えるかを監督と相談しながら臨みました。

──そうして、篠原さんはMVの中で前髪を15cmもカットされていますよね。

篠原 はい。自分がどれだけこの曲の力になれるかをずっと考えていたんです。だって、女優さんはほかにたくさんいらっしゃる中で、せっかく私にお話をいただいたから「篠原ともえが出るべくして、出たMV」って思われる作品にしたかった。お洋服のアイデアだったりもそうだし、私くらいの世代の方も若い方もご覧になったときにピタッとこなきゃいけないなと考えて。「昔の私と今の私が手を取り合うためにはどうすればいいかな」って考えたとき「髪を切ったらいいかも」と撮影当日に思い立って。

──18歳の頃のご自身の写真を見て篠原さんが前髪を切られる場面は、すごくエモーショナルだと思いました。

篠原ともえ

篠原 前髪をぱっつんにする表現は、シノラー時代があった私にしかできないと思ったからやってみたんです……ちなみに、前髪を切った記念にちゃっかりやったことがあって。切った前髪で筆を作ってみました(笑)。

CIVILIAN (机に出された3本の毛筆を見て)えー! すごい。

純市 これは1人1本ずつもらえるんですか?

篠原 あははは! これは差し上げたいんですけど、私の欠片なので(笑)。前々から髪で筆を作りたいなと思っていたんですよ。切った髪を奈良の職人さんに渡したら「これだけ作れました」って。よい思い出の品ができました。

有田 MV撮影をしている日、僕らは同時進行でレコーディングをしていたんですけど、LINEで「篠原さんが髪を切った!」って情報が入ってみんながざわついたのをすごく覚えています。そこまでやっていただけるなんて、めちゃめちゃ感動しました。

篠原 シノラー時代もテンションを上げるために「グフゥー」と言いながら前髪を切っていたんですよ。で、撮影で15cmも切ったから「うわぁー! 前髪切った」って自分としては大イメチェンですけど、私はどうしても短い前髪のイメージが強いから、せっかくひさびさに切ったのに誰も気付いてくれなくて(笑)。

有田 あれだけ切ったのに!

篠原 ちょっと寂しかったです。「気付いてよ!」って(笑)。

感動と同時に襟を正された

──CIVILIANの皆さん、MVの仕上がりについてはいかがですか?

有田 ラフの映像を観たとき、純市がすごくウルウルしてました。

篠原 繊細なんですね?

純市(B)

純市 僕はピュアなほうだと思います。

篠原 やっぱりそうなんですね(笑)。

純市 本当に感動しましたし、わかりやすいMVなので観ているほうも入り込めて。

篠原 どのシーンでキュンときましたか?

純市 主人公が描いた絵を路上で売っていたら、酔っ払ったサラリーマンに荒らされるシーンですね。

篠原 自分の描いた絵をグシャッと捨てられちゃうっていうね。あのシーンは自然と涙がぽろぽろ流れてしまいました。我ながら女優だなと(笑)。

CIVILIAN あははは(笑)。

コヤマ 僕もできあがった映像を観させてもらって、ものすごく感動したんですけど……それと同時に襟を正されたというか。

篠原 どうしてですか?

コヤマ 果たしてこれが「篠原さんじゃなくて僕らが出ているMVだったら、ここまでいいものになっていたのだろうか?」と思うわけですよ。それで映像の篠原さんを観て、女優としてのプロフェッショナルさを見せつけられました。

篠原 チャッチャッチャーラーラーン♪(「情熱大陸」のテーマを口ずさむ)

CIVILIAN ?

篠原 ごめんなさい、変なタイミングでふざけちゃった(笑)。

──しかも今のは「プロフェッショナル」じゃなくて「情熱大陸」の方でしたね。

篠原 あ、しまった。黙ってたらわからなかったでしょ!(笑)

コヤマ あははは(笑)。とにかく篠原さんを見て、自分は表現する人間としてまだまだだなと思いました。

コンプレックス

──ちょっとここで、「顔」のテーマであるコンプレックスについて聞きたいんですが、皆さんはコンプレックスを持っていますか?

コヤマ 僕はコンプレックスの塊です。

篠原 細かく聞いてもいいですか?

コヤマ まず見た目ですね。顔とか背が低いこととか。

篠原 どういう感じになりたかったんですか?

コヤマ そういうのは特になかったです。ただ、バンド界隈で顔の整ったボーカルってたくさんいるじゃないですか。いわゆるイケメンなボーカルを何人も目の当たりにしてきて。あくまで僕から見た意見ですけど、ボーカリストにとって見てくれが整っていることは、それだけで1つの条件をクリアしていることになると思うんです。すごく華があるし。だけど自分の見た目にはそれがないと思ってたんですよね。そういう意味で華がある人に対して、ずっと憧れを持っていて。

篠原 お化粧をしようとか、ヴィジュアル系になろうとかは?

コヤマ それも自分には似合わないと思ったんです。

篠原 コヤマさんは、そうやって自分の嫌な部分と向き合ってきたんですね。

コヤマ 今ステージに立てているのは、僕を好きだって言ってくれるファンの人たちとか、心ある友人のおかげだと思います。僕を好きだと言ってくれた気持ちを裏切りたくないんですよね。

篠原ともえ

篠原 それはすごくわかります。シノラー時代に皆さんは私に対して、すごいポップなイメージを持っていらしたと思うんです。で、とある舞台に出ることになって「ランドセル禁止! ウサギの帽子を被っちゃダメ! ハーフパンツじゃなくてスカートを穿いてください!」って言われたとき、私は「普通に髪を下ろして、お化粧もしてない私なんて、誰も好きになってもらえない」と思ったんですよ。でも、ファンの方から「何もないともえちゃんも好きだよ」ってお手紙をいただいたんです。それにはとても助けられました。「こういう篠原のことも好きになってもらえるんだ」っていう勇気をいただいたというか。

コヤマ 僕もお手紙をもらうんですけど、そこに「CIVILIANの音楽が好きです」って書いてあるのを見つけると、「いつまでもコンプレックスに囚われていたらダメだな」って思わされるんですよ。だって、僕が自分のことを嫌いなままでいたら、その人の好きなものを否定することになるわけじゃないですか。今は「もっと自分を好きになりたい」と思うようになりました。

篠原 なれますよ。だって、こんなに素敵な曲を書いてるんですから。曲は分身ですね。

コヤマ ありがとうございます。

純市 僕はこの髪質がコンプレックスです。天パーなんですけど、少なからずこれが原因で傷付いたことがありまして。

篠原 私、撮影のときに天パーのことたくさんイジっちゃいました。

純市 いや、全然いいんです。バンドの初期の頃は縮毛矯正をかけていたんですけど、あるときから「地毛でいったれ」と思って。僕は「顔」の歌詞を髪に置き換えて「みんな同じ髪で生まれたら 誰も悲しまずに済んだのに」って感じです(笑)。

有田清幸(Dr)

有田 僕は輪郭がコンプレックスなので、あえて髭を生やしてるんですよ。それはなんでかと言うと、7年前にある撮影のタイミングで髭を剃ってみたんです。そうやって向き合う作業をしたことで、「なんで自分は輪郭が嫌なんだろう?」って立ち返ることができたと言うか。ただ嫌いなわけじゃなくて、「どうすれば自分を好きになれるか」を見極められた。

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自分が大好き

CIVILIAN「顔」
2017年8月2日発売 / Sony Music Records
CIVILIAN「顔」初回限定盤

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CD収録曲
  1. デッドマンズメランコリア
  2. ハロ/ハワユ
初回限定盤DVD収録内容
  • 顔 -Music Video-
CIVILIAN(シビリアン)
CIVILIAN
ボーカロイドプロデューサー・ナノウとしても知られるコヤマヒデカズ(Vo, G)と、純市(B)、有田清幸(Dr)による3ピースロックバンド。2008年、コヤマが同窓生の純市、有田に声をかけて結成。2009年よりLyu:Lyu名義で活動を開始し、2010年、1stミニアルバム「32:43」をリリース。オリコンの「ネクストブレイクアーティスト」に選出されるなど、アグレッシブなサウンドと絶望的な言葉の中に希望を垣間見せる詞が話題を集める。2011年には2ndミニアルバム「太陽になろうとした鵺」を、2012年には「SUMMER SONIC2012」の大阪公演にも出演。そして2013年3月、1stフルアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」をリリースした。全国でワンマンライブを行うなどバンドとして精力的に活動する一方、コヤマが小説「ディストーテッド・アガペー」をWebで連載するなど、多方面で活躍する。2016年7月にはバンド名をCIVILIANと改め、8月に改名後初となるシングル「Bake no kawa」を発表。11月にはSony Music Recordsよりメジャーデビューシングルとなる「愛 / 憎」をリリースする。2017年8月にメジャー3作目のシングル「顔」を発表した。
篠原ともえ(シノハラトモエ)
篠原ともえ
1979年3月29日生まれ、東京都出身。タレント、衣装デザイナー、歌手、女優、ナレーター、ソングライター等、幅広い活動を展開中。1995年、16歳のときに石野卓球プロデュースの篠原ともえ+石野卓球名義で歌手デビュー。シングル「チャイム」をリリースする。1990年代には自身のアイデアでデコラティブな“シノラーファッション”を発信。大学ではデザインを本格的に学び、ライブなどで着用する衣装はデザイン、縫製ともに自身で手がけている。2013年から松任谷由実コンサートツアーの衣装デザイナーに抜擢。藤あやこのCDジャケットの衣装デザインも手掛けている。また、近年では天文を愛する「宙(そら)ガール」としてプラネタリウムでの星空解説やライブを開催。2011年には天文や宇宙の知識を問う「天文宇宙検定」3級に合格した。著書には「ザ・ワンピース」「ザ・ワンピース2」(ともに文化出版局)、「篠原ともえのハンドメイド~アクセサリー&ファッション小物77~」(講談社)など。2017年3月には初のベスト盤CD「ALL TIME BEST」をリリースした。