あえて無駄を増やした
──セルフプロデュースということも含めて、「熱源」はタイトル通り10曲入魂で今のcinema staffが鳴らしたいオルタナティブロックのサウンドと、ポピュラリティを満たす歌をダイレクトに形象化したアルバムだと思います。1曲目のタイトル曲「熱源」からもそれは明らかですよね。
三島想平(B) ありがとうございます。いいアルバムになったと思います。自分の中からナチュラルに出てくるものを最優先にして、それを自然といい形にまとめることができたなと。
──前作「eve」で完成された音楽性や作品性を1つ提示したからこそ、改めて自由度の高いモードになったというのはデカいですよね。
三島 デカいですね。「eve」を作るまでの1、2年と「eve」から「熱源」までの1年ってだいぶプロセスが違うというか。特に考え方をこの1年で思いっきり切り替えて「熱源」が生まれたなと。
──その考え方の切り替えについて詳しく聞かせてもらえますか?
三島 サウンドの構築において、ざっくり言うと無駄を削いでいくことを「eve」でやったんですけど、「熱源」はあえて無駄を増やしたんですよね。
──どんどんキメを入れたり?
三島 そうですね(笑)。無駄なキメばっかり入れていくという。最初の発想のまま曲を完成させるというか、パッと思い付いたことを削がずにそのまま形にしようということですね。それはインディーズの最後のほうのモードに近くて。あと、ここ数年で僕はDAWでデモを作るようになったんですけど、デモの段階である程度完成型を見据えてから、バンドに持っていくようになったんです。「eve」のときは「ここはたぶん使わないから」と思って最初から排除していたところがいっぱいあって。最終的にプロデューサーの江口(亮)さんの提案でシンセが加わったりもしましたけど、大きく言うとその違いはデカいですね。
──飯田さんはどうですか?
飯田瑞規(Vo, G) おっしゃる通り、「eve」はcinema staffの1つの完成型だと僕も思っています。そのあと、去年の11月にリリースした「Vector E.P.」は今改めてインディーズ時代の雰囲気で曲を作ってみたらどうなるか、という発想で制作しました。「熱源」では最初に三島から送られてきたデモが「souvenir」だったんですが、それを聴いたときに三島の今のモードは僕個人も本当にやりたいことだと感じて。このモードでずっとやっていきたいと思えるワクワクする感じがあったんです。
三島 「souvenir」も「Vector E.P.」の収録曲候補の1つで。「メーヴェの帰還」や「diggin'」もそうでしたね。
──「メーヴェの帰還」は歌うのかなり難しいでしょう?
飯田 めちゃくちゃ難しいですね(笑)。
三島 気づいたらAメロからGメロまであって、間奏が1つもないっていう(笑)。
──でも、そのいびつな構成も今やりたいことだったという。
三島 そうですね。
今まで積み重ねてきたことは無駄じゃなかった
──ワルツテイストの6曲目「波動」や、どこかThe Beatlesの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」などを想起させる7曲目「el golazo」など中盤以降の2曲もアクセントとしてかなり効いてますよね。
三島 「波動」はもともとバラードだったんです。
久野洋平(Dr) ビートがもっとワルツだった。僕としては「波動」が「eve」に入ってる「YOUR SONG」の延長線上に聞こえて。今回は「eve」と違うモードを打ち出していることを明確に提示したかったので、アレンジを変えてほしいと三島にお願いしたんです。
三島 「el golazo」もデモからかなり変化しましたね。さらに遊び心に富んだアレンジになった。最初はもっと原始的なビートが終始続くような感じで、展開はこんなに激しくなかったんです。
久野 最初は「ハワイや南国を思わせる曲だね」ってみんなで話していて、仮タイトルも「ハワイ」だったんですよ。で、僕はまさに「Ob-La-Di, Ob-La-Da」を聴いてこのビートにしたんです。The Beatlesを参考にしたいなと思って。
──改めて、久野くんは「熱源」というアルバムをどう捉えてますか?
久野 いい意味でやらなくていいことをやってるし、やれることをあえてやらないという意志が貫かれてるアルバムだと思います。もっと親切にしようと思えばできるけど、しないみたいな。それも「eve」を作ったからこそできたことで。ライブのときにいろいろ肌で感じることが多いんですね。
──例えば?
久野 フェスに出たときに親切な音楽しか必要とされていないような疎外感を覚えることがあって。それで、とにかく一度cinema staffを聴いてほしいという思いでそこに寄せて「eve」を作ったんです。でも、ずっとそういう方法論を押し進めていくバンドじゃないよなとも思って。
──今の時代の風向きとしては、音楽的にはみ出ていく独創性が求められてきてますよね。
久野 僕もそれはちょっと感じてます。フェスやライブの現場でお客さんの音楽の受け取り方がだんだん変わってきてるなって。数年前よりも無駄を楽しんでくれる人が増えているような気もしなくはない。先日もフォーリミ(04 Limited Sazabys)主催の「YON FES 2017」に呼んでもらったんですけど。「YON FES」のライブで僕はお客さんのいい反応を感じられたんですよ。ジャンル的にはアウェイな部分もあったと思うけど、そういうことも関係なくなってる気がした。面白い音楽を面白がる人が多いなと。
飯田 「YON FES」はフェスのあり方として、音楽性のごちゃ混ぜ感がコンセプトになっていると思うし。それもフォーリミの力だと思うんですよね。フォーリミも、もともとシーン的にギターロックにもメロコアにも入れなかったという思いが根底にあるみたいで。
久野 そうだね。フォーリミが紹介するバンドなら1回ライブを観てみようという感じがある。それはほかのフェスではないムードでしたね。
飯田 そう。だからああいうアーティスト主催のフェスにはどんどん出ていきたいと思うし。
──三島さんはそのあたりはどうですか?
三島 僕も同じようなことは思いますね。ちょっと前まではフェスに出ても僕らがよかれと思ってやってる曲に対して思うようなリアクションを得られてないと感じていました。最近では、今まで僕らがやってきたことがメインストリームになった実感があるわけではないけど、今まで積み重ねてきたことは無駄じゃなかったなと思える。フォーリミも僕らが貫いてきたことを評価してくれているから「YON FES」に呼んでくれたんだろうし。フォーリミは歳下のバンドですけど、それってフックアップだと思うんですよね。
辻友貴(G) 「YON FES」はバンド主催のフェスということがやっぱりデカいと思う。
三島 最初の信頼関係が全然違うよね。演者もお客さん側も。イベントの趣旨も明確だし。
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「譲れないもの」を描いてる
- cinema staff「熱源」
- 2017年5月17日発売 / ポニーキャニオン
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初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / PCCA-04537 -
通常盤 [CD]
2808円 / PCCA-04538
- CD収録曲
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- 熱源
- 返して
- pulse
- souvenir
- メーヴェの帰還
- 波動
- el golazo
- diggin'
- エゴ
- 僕たち
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 前衛懐古主義 part1 東京編@2016.10.17 LIQUIDROOM
- 「エゴ」Music Video
- 「返して」Music Video
- 「ビハインド」Music Video
- 「pulse」Music Video Document
- cinema staff 自主企画「シネマのキネマ」
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2017年5月19日(金)東京都 東京キネマ倶楽部
<出演者>
cinema staff / Age Factory / SHE'S / PELICAN FANCLUB
- cinema staff(シネマスタッフ)
- 飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」をリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にメジャーデビュー作「into the green」を、2013年5月にメジャー1stフルアルバム「望郷」を発表した。同年8月、テレビアニメ「進撃の巨人」の後期エンディングテーマに提供した「great escape」がスマッシュヒットを記録。同曲を含むニューアルバム「Drums,Bass,2(to)Guitars」を2014年4月にリリースした。2016年5月にはプロデューサーに江口亮を迎えた5thアルバム「eve」を発売。同年11月に新作音源「Vektor E.P.」を発表し、自主企画イベント「シネマのキネマ」の第1回公演を開催した。2017年5月に6thアルバム「熱源」をリリースする。