ナタリー PowerPush - cinema staff
「望郷」を経てたどり着いた“開かれた世界”
cinema staffが前作「望郷」から1年弱のスパンでニューアルバム「Drums,Bass,2(to)Guitars」を完成させた。地元・岐阜に対する思いと上京後の2年半でバンド内に起こったドラマを昇華し、確かな重みをたたえた大作となった「望郷」から一転して、今作は自由なマインドに満ちた抜けのいい快作となっている。メンバー全員インタビューでアルバムに込められた思いを紐解きながら、cinema staffの最新モードに迫った。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) インタビュー撮影 / 佐藤類
発想の転換ができたのは「望郷」の達成感があったから
──今回の「Drums,Bass,2(to)Guitars」はすごく抜けのいい、開かれたアルバムですね。言い方は悪いかもしれないけど、まるで憑き物が落ちたような。間違いなく前作「望郷」があったからこそ、このアルバムを作れたんだと思うし。
三島想平(B) ホントにおっしゃる通りで。憑き物が落ちた感じがありますよね。「望郷」で自分が2年間思っていたこと、昇華したかったことを形にすることができたので。今作は、平たく言うと気分一新じゃないですけど、頭を切り替えて「望郷」とは違うベクトルで制作と向き合いました。大きな青写真があったわけじゃないから、スタジオでバーン!と音を出してそれを録りましょうっていう感じが強くて。そういう発想の転換ができたのはやっぱり「望郷」の達成感があったからなんですよね。だから、作風としては「望郷」の延長線上では全然ないんですけど、バンドのストーリーとしては「望郷」と密接につながってると思います。
──うん、まさにそういうアルバムだと思います。他の皆さんはどうですか?
辻友貴(G) 今回はレコーディングがすごく楽しくて。音楽ってやっぱり楽しいなって改めて思えた制作でしたね。
久野洋平(Dr) いい意味でわがままな制作ができて。やりたいようにやりましたね。やりたいことをやってみたら全部よかったっていう、そういうアルバムになったと思います。
飯田瑞規(Vo, G) 「望郷」と違って瞬発的に作っていったんですけど、終始ライブを意識しながら作っていたなって思います。だからこそツアーがすごく楽しみだし、聴く人を限定しない、いいアルバムになったと思います。
内にこもった制作をするのはもったいない
──メインソングライターである三島くんとしては、1年弱のリリース間隔で「望郷」のような大きなテーマを見つけようと思っても見つかるものじゃないことは重々承知だったと思います。とはいえ、フラットな状態で曲を上げるのも簡単ではないですよね。
三島 「望郷」のテーマは僕にとってホントに根源的なものだったし、何かの映画を観てそれに感化されてどうとかそういうことでもないから。だからテーマを無理やり見つけるよりは、今できることをやろうという感じでした。今作はほとんどの曲が去年の夏以降から作っていて、それくらいアルバム制作に集中する時間はあまりなかったんです。去年の8月にシングル「great escape」をリリースして、活動的にもこのシングルにかける時間が長かったし。でも、じっくりアルバムを作れないから「望郷」と同じようなクオリティのアルバムはできないって悲観するよりは、こういう状況だからこそバンドの力量が試されてると思ったので、今のバンドのベストを尽くして勢いよく作りましょうと気持ちを切り替えました。
──今のcinema staffだからこそ、その切り替えもできたんだろうし。
三島 そうですね。正直に言えば、個人的には一時的な葛藤もあったんですよ。それだけ「望郷」の制作における方法論は自分の中で手応えがあったので。で、最初は「望郷」のノリでアルバム制作を始めちゃってたところもあったんです。でも、そのモードで次のアルバムを作るのはちょっと違うんじゃないかという意見がメンバーから上がって。それをきっかけに1回リセットしようと思ったんですよね。
飯田 テレビアニメ「進撃の巨人」の後期エンディングテーマに採用されて、多くの人に聴いてもらうことができた「great escape」を経たアルバムだったので、内にこもった制作をするのはもったいないと思って。バンドの存在が広がったタイミングだからこそ、「great escape」だけじゃないことを提示できるチャンスだとも思ったし、しかもアルバムを聴いてもらってライブに行きたくなるようなものにしようと4人で話しました。
──アルバムのラストに収録されている「great escape」は作品全体から見れば異彩を放ってるんだけど、この曲がバンドにもたらしたことが本作の抜けのいい方向性を引き寄せたとも言えるという。
三島 その意味はめちゃくちゃ大きいですね。バンドに新しい経験をさせてくれた曲だったので。いろいろ考えるようにもなったし。
次につながる余韻を残すこともすごく大事
──やっぱり「great escape」以降、ライブの意識も変わりましたか。
三島 かなり変わったと思います。「進撃の巨人」と「great escape」をきっかけにRevo(Linked Horizon)さんと大きなイベントで共演させてもらったりして。いつも自分たちのライブを観に来る人たちとは違うタイプのお客さんを前にして、アウェーのライブとどう向き合うか、そこにいる人たちが何を求めているのかということをすごく考えるようになったんですよね。それは、プロ意識について考えるようになったとも言えると思うんですけど。
久野 自分だったら初めて観たバンドのライブをまた観たいと思うポイントはなんだろうなって考えたり。フェスに出ても「great escape」にしか興味を持ってない人もいっぱいいるんだろうなとも思ったけど、そこで終わったらあまりにもったいないし、言い方は悪いですけどムカつくから。今回、初回限定盤にSHIBUYA-AXのワンマンライブを頭からダブルアンコールまですべて収録したDVDを付けるのはそういう思いがあったからなんです。
飯田 1本1本のライブに全力で臨むのはもちろんなんですけど、今までは必死になりすぎて余韻を残せてなかったなと思うところがあって。今は次につながる余韻を残すこともすごく大事だと思うんです。
久野 最近は、その日のお客さんと音楽で対話しながらライブの様相が変わることがありになってるというか。このアルバムもそういうスタイルのライブにすごくフィットすると思います。
辻 今までは異なるジャンルの人たちと自分たちのライブを分けて考えてたと思うんですよね。でも、いろんなジャンルのアーティストと一緒にライブをする機会が増えて、もっと広い視野で戦っていかないといけないと思ったし、そのうえでどう爪痕を残したらいいのか考えることってホントに重要なんだなって思ってます。Revoさんとのライブでは爪痕を残そうと思いすぎて僕は両足を骨折しちゃったんですけど(笑)。
- cinema staff ニューアルバム「Drums,Bass,2(to)Guitars」 / 2014年4月2日発売 / ポニーキャニオン
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3600円 / PCCA-04008
- 通常盤 [CD] / 2600円 / PCCA-04009
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CD収録曲
- theme of us
- dawnrider
- tokyo surf
- borka
- shiranai hito
- sea said
- sitar of bizarre
- unsung
- fiery
- great escape(alternate ver.)
初回限定盤 DVD収録内容
「two strike 2(to) night 決定版」
2014.1.18@SHIBUYA-AX- KARAKURI in the skywalkers
- great escape
- 想像力
- AMK HOLLIC
- 白い砂漠のマーチ
- いたちごっこ
- 第12感
- into the green
- バイタルサイン
- salvage me
- 制裁は僕に下る
- daybreak syndrome
- dawnrider
- 君になりたい
- ニトロ
- 奇跡
- 優しくしないで
- 西南西の虹
- AIMAI VISON
- borka
- 望郷
- 海について
- GATE
cinema staff(しねますたっふ)
飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にメジャーデビュー作となるポニーキャニオン移籍第1弾作品「into the green」を、同年9月にメジャー第2弾となるミニアルバム「SALVAGE YOU」を発表。2013年5月にメジャー1stフルアルバム「望郷」を発売し、同月末から7月にかけて全19公演にわたる全国ツアー「cinema staff『僕たちの秘法』tour」を実施した。同年8月、テレビアニメ「進撃の巨人」の後期エンディングテーマに提供した「great escape」がスマッシュヒットを記録。同曲を含むニューアルバム「Drums,Bass,2(to)Guitars」を2014年4月にリリースした。