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「進撃の巨人」諫山創と同世代対談

上京して闘争心が薄まっていくのが恐い(飯田)

──世代以外にも共通点がありますよね。cinema staffは岐阜、諫山さんは大分ですが、どちらも盆地育ちという。

諫山創

諫山 岐阜も盆地なんですか。じゃあやっぱり夏がすごく暑くて、冬がすごく寒いんじゃないですか。

飯田 まさにそうです!

諫山 フェーン現象ですよね(笑)。

久野 岐阜はとにかく田舎なんですが、いわゆる山や川があるキレイな田園風景って感じじゃないんですよ。平地で、ただただ何もない。辻の家の周りとか、街灯すらないんです。

 はい。山も川もない、田んぼだけの田舎で、こんなに退屈なんだってずっと思ってました(笑)。

諫山 僕の家も田んぼにすごい囲まれてます。兵隊の行進みたいな「ザッザッザッザッ」って音が聞こえて、「えっ、何!?」って慌てたことがあるんですけど、よく聞いたらカエルの鳴き声で。

一同 あはははは(笑)。

飯田 ウシガエルですか? 梅雨入りの時期とかすごいですよね。岐阜はコウモリとかも飛んでます(笑)。

諫山 そんな田舎だけど、帰りたくなることってありますか?

辻友貴(G)

 僕は今のところはそうは思えないですね。帰ったら帰ったで居心地がいいんですけど、まだ帰りづらい。音楽に人生を懸けるといって上京してきたからには、何かを成し遂げるまでは帰れないなって。

飯田 でも基本的にはすごく地元好きだと思います、cinema staffは。

──その名もズバリ「望郷」ってアルバムを5月に出したばっかりですもんね。

三島 はい(笑)。東京に出てきて故郷のありがたみがわかったし、お世話になった人や先輩バンドもすごくリスペクトしているので、地元に何かを返したいっていう思いは常々あります。

──対して諫山さんは、田舎の閉塞感が嫌になり、そこから出たいという思いから「進撃の巨人」が生まれたと、以前インタビューでお話していました。

諫山 そうですね。でも東京に出てきて人に知られたり認められるようになると、「やってやるぞ!」みたいな感じが和らいでいってしまって、まずいなって思いませんか?

飯田 それ、めちゃくちゃわかります。こっちに出てきて、ライブに人がたくさん来てくれるようになったり、温かく迎えられるようになって。僕は怒りでライブをやっていたところがあったので、闘争心むき出しでやっていた部分が薄まっていくことに焦りますね。ギリギリのライブを見せ続けられるかなって、心配で。

三島 僕たちもうこのバンドを10年間一緒にやってるんですけど、スタートした頃のきっかけからは気の持ちようが変わってきてますね。モテたいとかそういうレベルから始まったのが、人の目にどんどん晒されて、責任感もどんどん出てくるし。

人を楽しませることによって自分が楽しいこともある(諫山)

諫山 変わっていきますよね。僕、自分がちょっと前に描いてたものが読めないんですよ。読んでても、「なんでこんな手の描き方してるんだ?」とか気になって、内容が頭に入ってこなくて。読めるのは、最新巻から今連載で描いてるところくらいまで。それもいずれは「えっ?」ってなっちゃうと思うんですけど。

久野 それは僕らも同じです。インディーズで最初に出したアルバム(2008年のミニアルバム「document」)とか聴けないですね。

三島 正確に言うと、聴けるんだけど自分がやったものとして認めたくない瞬間が多いんですよね。曲の題材というか根本はいいものがあるなって思ったりもするんですが、肉付けがいかんせんヘタクソだとか。でもやっぱり「cinemaは1stがいいよね!」って言われるわけですよ(笑)。

飯田瑞規(Vo, G)

飯田 すごく言われるんですよね。1stのほうがいいって言う人がライブで初期の曲を聴きたいと思ってることは知ってるけど、僕たちは新しい曲をどんどんやっていきたいし。ジレンマがすごくあります。

久野 求められている曲と自分たちがやりたい曲が違うとき、それを両方満たすものってなんだろうって考えます。諫山先生は、読者からのリアクションとか外的要因で、作品の展開を変えたりすることはあるんですか?

諫山 自分の描きたいものを描くこと、自分が楽しむことが大前提としてあって。でも「こうしたほうがよりウケるだろうな」って考えるのもそんなに嫌いじゃなくて、人を楽しませることによって自分が楽しいってこともありますよね。100%のうち自分のやりたいことが60%で、需要に応えることが40%なのかなとか、そういうふうに考えてたんですけど、どちらも100%にすることだってできるんじゃないかなって。自分次第だなと最近は思ってます。

三島 なるほど。すごく勉強になります。

cinema staffニューシングル「great escape」/ 2013年8月21日発売 / 1300円 / ポニーキャニオン / PCCA-03900
[CD] 1300円 / PCCA-03900
収録曲
  1. great escape
  2. cinema staff【僕たちの秘法】tour Final@2013.07.11 渋谷CLUB QUATTRO
    (望郷 / 世紀の発見 / into the green / 革命の翌日 / 西南西の虹 / 溶けない氷)
cinema staff(しねますたっふ)

飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にポニーキャニオン移籍第1弾作品となる「into the green」を、同年9月にメジャー第2弾となる4thミニアルバム「SALVAGE YOU」を発表。2013年5月にメジャー1stフルアルバム「望郷」を発売し、同月末から7月にかけて全19公演にわたる全国ツアー「cinema staff『僕たちの秘法』tour」を実施した。同年7月、テレビアニメ「進撃の巨人」の後期エンディングテーマに新曲「great escape」を提供。8月には同曲を含むニューシングル「great escape」をリリースした。

諫山創(いさやまはじめ)

1986年生まれ、大分県出身。2006年、週刊少年マガジン(講談社)のMGP(マガジングランプリ)にて「進撃の巨人」で佳作受賞。2008年、同誌の新人マンガ賞にて「orz」で入選、同作にてデビューを果たす。2009年、別冊少年マガジン(講談社)にて「進撃の巨人」の連載を開始。同作は2011年に第35回講談社漫画賞少年部門を受賞。2013年4月からはテレビアニメ化され、大ヒットを記録している。なお、同年8月9日には「進撃の巨人」11巻を発売。累計発行部数は2300万部を突破している。


2013年8月23日更新