ナタリー PowerPush - cinema staff
自らをも救う新作「SALVAGE YOU」メンバー全曲解説で迫る制作秘話
05 「warszawa」
──5曲目「warszawa」は、スケールの大きなロックバラードで。どこまでシンプルなサウンドを構築できるかがポイントになったのかなと。
三島 そうですね。余分な音は付けたくなかったですね。とにかくメインリフが発している、聖堂で鐘が鳴っているような趣を大事にしたくて。最初に大聖堂で少女がひとりポツンと歌っている映像が浮かんだんです。その少女は大きな問題を抱えていて、誰かに救いを求めているみたいな。飯田くんのボーカルだからこそ表現できる曲だと思います。
飯田 スケールは大きいんだけど、壮大すぎない歌にしたかった。ひとりのリスナーに向かっていくような。
三島 そうだね。それこそひとりの少女にスポットを当てるような曲にしたかったね。
──この歌詞はドラクエ的なストーリー性がありますよね(笑)。
三島 ドラクエ的ですよね(笑)。推敲する前はもっとドラクエ的だったんですよ。完全にフィクションなんですけど、現代の孤独感にも置き換えられるムードがあるんじゃないかと思います。
──コーラスも美しいですね。
三島 ありがとうございます。僕、裏声のコーラスがうまいんですよ(笑)。
06 「小説家」
──「小説家」は、疾走感に富んだダイナミックなサウンドやドラマチックに展開していくメロディにcinema staffの原点を感じる。
三島 実は、この曲のオケだけはかなり前からあったんです。2枚目のミニアルバム(2009年6月リリースの「Symmetoronica」)の頃にはオケの半分ができていて。それをちょっと引っ張ってきたんです。ほかに速い曲があんまりできていなかったし、そろそろこのオケに歌詞を付けてみようということになって。この曲の歌詞だけ「into the green」の後に書いたんです。
──つまり、古いオケに最新の歌詞が乗っている曲であると。
三島 そう。初めて最初から完全にストーリーを決めて、そこに言葉を当てていく方法を取ったんですけど、やっぱり苦労しました。
──小説家のストーリーはソングライターとしての自分を重ねているところがあるのかなと思いました。
三島 そう、なんで小説家のストーリーを書こうと思ったのかは忘れたんですけど、確かに自分を重ねてるところがありますね。遅筆の小説家の話ですね。僕は遅筆ではないですけど……。あといかに故郷への思いを書くかがテーマだったと記憶しています。
07 「salvage me」
──ラストは「salvage me」。アルバムを総括するにふさわしい曲で。タム回しを軸にどこかメランコリックだけど、美しいメロディが広がっていく。「into the green」や「奇跡」とも力強く呼応する曲だと思います。
三島 最初にドラムのイメージができたんだっけ?
久野 そうだね。この曲も最初から三島くんの中でしっかりイメージができていて。そのイメージをもとにサウンドを構築していきました。個人的にスタジオで一旦アレンジが完成したときは全体像を浮かべづらかったんです。でも、プリプロで録ってみたらむちゃくちゃいい曲だなと思って。なるほど、と思いましたね。この曲ができたからこそ、三島くんのイメージに寄り添ってプレイすることの大切さを実感できたというか。
三島 プリプロで録ってみて、この曲を最後に持ってこようと思ったんです。
久野 三島くん、最初は「最後の曲にするのはヤだ」って言ってたよね。
三島 うん。この曲も最初は第三者的な視点の強い歌詞だったんです。自分自身の思いや情景がぼやけていて。それで終わるのはヤだと思ったから、丁寧に推敲しました。「salvage me」という曲名も歌詞が変わってから、ギリギリのタイミングで付けたんです。歌詞を書き直したことで「これは自分の曲だ」って思えた。自分が救われていく様をいちばんリアルに描けたなって。だからこその「salvage me」で。
──結果的に「SALVAGE YOU」というアルバムタイトルにもつながって。
三島 そう。だから、プリプロして、歌詞を書き直したことで化けた曲ですね。ホントによかったです。
「SALVAGE YOU」は起承転結の「承」
──最後に、こうして1曲ずつ振り返ってみて、改めて「SALVAGE YOU」はどんな作品になったと思いますか。
三島 僕の中では、このミニアルバムが起承転結における「承」の位置付けなんです。今はまだ具体的には言えないんですけど、今後の「転」と「結」につながっていくイメージがあって。この1年で、とにかくひたすら曲を作って、バンドの意識も高まっていく記録としての「起」と「承」を「into the green」と「SALVAGE YOU」は担っていて。それぞれが独立した魅力のあるシングルとミニアルバムになったという満足感もあるし、「SALVAGE YOU」を聴いた後に「into the green」を聴いてもらえると、さらに深く「into the green」に入り込んでいけると思います。そして、この次に何が来るのかをぜひ楽しみにしてほしいですね。
ミニアルバム「SALVAGE YOU」/ 2012年9月5日発売 / 1800円 / ポニーキャニオン / PCCA-03652
CD収録曲
- 奇跡
- WARP
- さよなら、メルツ
- her method
- warszawa
- 小説家
- salvage me
cinema staff(しねますたっふ)
飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にポニーキャニオン移籍第1弾作品の1st E.P.「into the green」をリリースし、同年9月に早くもメジャー第2弾となる4thミニアルバム「SALVAGE YOU」を発表。