ナタリー PowerPush - cinema staff

結成10年目でメジャー進出 今までの軌跡を振り返る

去年は精神的なつらさを曲作りで埋めていた

──改めて、「into the green」がどのように生まれたのか聞かせてください。

三島 「cinema staff」という1stフルアルバムを去年の6月にリリースして。次の展開に向かう中でポニーキャニオンとの契約が決まりかけていて。そこでとりあえずできるだけ曲をたくさん作っていこうということになったんです。でも、ちょうどその頃、震災以降の流れの中で自分が精神的にあまり良くない時期に入っていて。

──塞ぎ込んでいたんですか?

三島 かなり塞ぎ込んでいましたね。

──曲作りに向かう気になれなかった?

三島 いや、逆に音楽をやってないとしんどくて。だから、負のエネルギーが全部曲作りに向かってしまった感があったんです。あと、そのとき単純にお金が全然なかった時期でもあって。上京して1年半くらいなんですけど、ありがたいことに徐々にバンドが忙しくはなるけど、バイトもあまり入れないから生活的には厳しくて。ライブには人が入るけど、手元にはお金が残ってないっていう。メンバーそれぞれプライベートでもいろいろあって、そこに震災以降の塞ぎ込んでしまう感じが重なって、複合的な要因でどんどんつらくなってしまったんです。それを曲作りで埋めていたというか。

久野 去年、みんな厄年だったんですけど、思い返すとかなり思い当たる節があって。

飯田 でも、バンドが少しずつ前に進んでいるのを実感できていたのが救いでもあったんです。

久野 そう、バンドが後ろを向いてる感じはなかった。曲を作ってるのが唯一の希望だったんです。バンドが前に進まないと俺たちも前に進めないって思ってました。

三島 そんな中、3カ月ちょっとで20曲くらい書いて。今、思い返すと異常だったなと思うくらいのペースでした。「into the green」はその中で最後のほうにできたんです。この曲ができたときに自分が救われるような思いがして。その感覚はこれまでにないものでした。

この曲は間違いなく自分が歌って良くなる曲だ

──どういう部分に救われたんですか?

三島 曲作りの過程も、ちょっとほかの曲と違っていて。俺はいつもは凝ったアレンジをしたくなるタイプなんですけど、この曲は素っぴんのまま完成させたほうがいいと思ったんです。

──確かにこれまでのサウンドと比べても、かなりシンプルなアレンジですよね。

三島 そうですね。この曲は絶対にシンプルなほうがいいと思った。

久野 最初になんとなく合わせたアレンジをそのまま採用した感じがあるよね。ドラムのフレーズを変えようとしたら三島に「いや、変えなくていい」って言われたりもしました。

インタビュー写真

 シンプルさを出すのが難しくもあったんですけど。いつもは歌が乗る前にアレンジがほぼ決まっているんですけど、この曲はメロディと歌詞が乗ってから出てきたフレーズもあって。メロディと歌詞に感化されたところがかなりあります。

飯田 三島から最初に聴かせてもらったときに、この曲は間違いなく自分が歌って良くなる曲だって思えたんです。泣きそうになるくらいそう思えた。今までは、歌ってみて曲を自分のものにしていくという感覚だったんですけど、最初からそこまで思えたのは初めてでした。

三島 みんなで合わせたときに「この曲ができてホントによかった」っていう空気がバンド全体に生まれて。確かな希望を感じるような空気をみんな同じように共有できたんです。バンドがこの曲に救われたというか。

自分の中で緑が救いの色というイメージがあった

──「into the green」の歌詞には喪失感と過ぎ去りし夏の匂い、そしてここからまた何かを始めていく意志が描かれていると思いました。どういうイメージでこの曲の物語を紡ぎましたか?

三島 実はそこまで物語を意識して書いた感じではなくて。ただ、自分がいかに立ち直るかをすごく考えていたんです。

──うん、確かに再生の歌になってますよね。

三島 そういう感じはすごくあると思います。これより前に作っていた曲たちは、もっと自分の中のドロドロしていた部分が出ていたんです。今、読み返すとそれはそれで気に入ってるんですけど、この曲を作ったことで自分は救われたんだなって思う。歌詞の文法とかおかしいなと思うところもあるんですけど、推敲する気にもならなかったんです。ひとつ、自分の中で緑が救いの色というイメージがあって。前に「Blue, under the imagination」(2010年7月リリース)というミニアルバムを出したんですけど、そのときの青から、緑に芽吹いて、バンドの成長過程に絶対必要なプロセスをたどってきたというイメージも重なって。緑は自分がしんどい時期を乗り越える上で必要な色だったのかなって。

──「名前を呼んでくれ。それ以外は何ひとついらない。」というフレーズがとても印象的です。

三島 この曲の象徴的なフレーズですよね。当時の自分の気持ちって、しんどすぎて思い出したくないんですけど、自分の切なる思いが表れていると思います。

──2曲目の「棺とカーテン」もそうですけど、三島さんが書く歌詞には未来の扉を開きたいという思いが表出しているものが多いですよね。

三島 それはすごくありますね。特に最近の歌詞のテイストは、自分が先に向かえるものでありたいという感覚が強い。リスナーが曲を聴いたときも次の日に仕事や学校に行こうと思えるものでありたいというか。日常を鼓舞するものですよね。内容がフィクションであれ、ノンフィクションであれそういう歌でありたいと思ってます。

──さらに今作には、ライブの定番曲である「チェンジアップ」「優しくしないで」「KARAKURI in the skywalkers」「AMK HOLLIC」が新録されています。

飯田 単純に前に録ったバージョンに納得いってないところがあって、いつか録り直す機会があればいいなと思っていたんです。メジャーデビューというタイミングはそれを実現するのにちょうどいいなと思って。このCDで新しいリスナーとも出会えると思うので、自分たちがライブでよくやっている代表曲を新録しようということになりました。すごく満足したテイクが録れました。

──cinema staffがこれからバンドとして貫きたいのはどんなことですか?

三島 楽しくやること。それに尽きますね。バンドを続けることだけが人生の全てじゃないと思うんですけど、楽しくやれるのであればずっと続けたい。楽しく音楽をやりながら飯を食えるのはひとつの夢だと思うので。自分は表現者じゃなくちゃいけないと思っていた時期もあったんです。でも、自分に課していたそういうある種のプレッシャーも去年のしんどかった時期を乗り越えたことでなくなったんです。だから、メジャーに行っても楽しく音楽をやりたいです。

インタビュー写真
CD収録曲
  1. into the green
  2. 棺とカーテン
  3. チェンジアップ (Re-Recording)
  4. 優しくしないで (Re-Recording)
  5. KARAKURI in the skywalkers (Re-Recording)
  6. AMK HOLLIC (Re-Recording)
cinema staff 1st E.P.「into the green」
release oneman live「望郷」
2012年7月1日(日)
岐阜県 岐阜BRAVO
OPEN 17:30 / START 18:00
※SOLD OUT
2012年7月15日(日)
東京都 LIQUIDROOM ebisu
OPEN 17:15 / START 18:00
料金:前売3000円 / 当日3500円
(ドリンク代別)
cinema staff(しねますたっふ)

プロフィール写真

飯田瑞規(Vo, G)、三島想平(B)、辻友貴(G)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月、ポニーキャニオンに移籍。1st E.P.「into the green」をリリースした。