映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」O.S.T.発売記念 安部勇磨(never young beach)×イシグロキョウヘイ(アニメーション監督)対談|「この国に生まれたからこそ作れるものがある」

海外のものを追いかけてるだけだと越えられない壁

──一緒に仕事をしてみて、監督が感じたネバヤンの魅力はどんなところですか?

映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」より。©︎2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

イシグロ そうですね……ちょっと安部くんに聞きたかったんだけど、ネバヤンって細野晴臣さんとか70年代の日本のロックからの影響があるじゃない? でも、できあがった曲を聴くと、どの時代の、どこの国なのかわからない不思議な音になっている。その無国籍な雰囲気がどこから生まれるのか知りたいんだよね。

安部 うーん、僕もよくわからないんですけど、無国籍っていうところだと、僕は海外の音楽もすごく好きで憧れていて。だけど、そのまんまやっても勝てるわけないし、日本で育った日本人にしかできない何かがあるはずだから、向こうから借りた音像に日本的な何かを入れたいって思ってるんです。もしかしたら、それがサウンドを無国籍な雰囲気にしているのかもしれないですね。

イシグロ その話、超共感するよ。僕もこの国に生まれたからこそ作ることができるアニメがあるような気がしていて。日本って内輪文化じゃないですか、島国だし。それが10~20年経つと海外に発見されるわけですよ。「とんでもないポップカルチャーだ!」って。目が大きい日本のアニメのキャラクターが海外でクールなものになったりね。海外に対する憧れやコンプレックスが醸成されて独自のアートになる。

安部 生まれた頃から当たり前に海外のものが周りにいっぱいあって。ディズニーとかを観て「アメリカ、すごい!」だったり、いろんなことを思ってたけど、20代後半になってきて、自分がモノを作るうえで海外のものを追っかけてるだけだと壁を越えられないって思うようになったんです。ファンクみたいな曲をやるにしても、そこに日本的なグルーヴを乗せるとか、そういうことを意識しないといけないような気がして。

──はっぴいえんどをはじめ、60~70年代に日本のロックの礎を築いてきたアーティストたちも同じ思いを抱いていたんでしょうね。洋楽に対する憧れとコンプレックス。そして、オリジナリティという課題と向き合いながら生まれた音楽が、現在シティポップというかたちで海外から評価されている。

映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」より。©︎2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

安部 今みたいに考えるようになったのって、海外に友達ができたことも大きくて。海外の友達とちょっと話すだけで、自分の考え方が偏っていたり、無知だったりしたことに気付かされるんです。それがわかると、もっと勉強しなきゃって思うし、じゃあ、どんなふうに伝えたらいいのかって考える。今はSNSで世界と簡単につながれるようになったと言われているけど、本当にそうなのかなって思うんですよね。ちゃんとつながっているんだったら、こんなふうに世界中で争いが起こるわけがない。ネットに群がっているくらいなら、現地に行って友達を作る方がいい。そうすればこれまで知らなかったことに気付ける。日本で作られた映画や音楽も、日本人が気付かなかった面白さに気付くことができる。この映画はいろんな日本の文化や文脈が盛り込まれているので、海外の人たちにも面白がってもらえるんじゃないかなと思います。

イシグロ 「海外に向けた作品を作りましょう」ってオーダーをされることがあるんですけど、海外に向けるっていうことはアメリカナイズしたり、世界共通のわかりやすいものにするということじゃないんだよね。それよりも届けるべきメッセージとかに時代性を感じさせることが重要で。作品の舞台やディテールなんて、自分の国の中で育ったものをそのままぶつけちゃえば相手は勝手に理解してくれる。

この映画はピュアで素朴な人間らしさみたいなものを大事にしている

──安部さんから見て、この映画の面白さはどんなところでした?

安部 僕の勝手なイメージかもしれないんですけど、最近世の中がどんどん派手でわかりやすいほうに行ってる気がしていて。そういうキャッチーさはSNS社会では大切なのかもしれないけど、そっちに行きすぎてしまうとよくない部分もあると思うんです。この映画はピュアで素朴な人間らしさみたいなものを大事にしている気がしたんです。そこがすごく素敵だなって思いました。

イシグロ そんなふうに感じてもらえたんだったらありがたいです。この作品を作った意義っていうのは自分なりにあるんですけど、チェリーの視点で言うと、自分の半径数メートルだけにカメラを置いているような作品なんです。地方都市を舞台にして、そこから外に出ない小さな物語なので、観た人それぞれが身近なことのように感じられる仕掛けにしたつもりです。

映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」より。©︎2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

──脚本に則して音楽を依頼した、というのもいいですね。音楽を大切にしている感じがします。

イシグロ 監督の音楽に対する興味の度合いで、そのへんはどうにでもなると思うんですよね。僕は音楽に関しては「こうしたい」っていう方針が強くあるんで。劇伴に関しては「シンコペーション禁止です!」とか言ったりするし。

安部 マジですか!

イシグロ 今回、スコアは牛尾憲輔さんにお願いしたんですけど、メロディを立てずにリズムで劇伴を成り立たせたくて、ポリリズムをたくさん使ってくださいってお願いしたんです。あとは自由にやってもらったんですけど。


2024年8月14日更新