サイダーガールの4thアルバム「SODA POP FANCLUB 4」がリリースされた。
本作には今年配信された「待つ」や「ライラック」、テレビアニメ「古見さんは、コミュ症です。」のオープニングテーマとなっている「シンデレラ」を含む全11曲を収録。物語性を強く感じさせる楽曲の数々により、リスナーが“映画館”で短編映画を観ているような感覚を味わえる仕上がりとなっている。これまでの活動で築かれたパブリックイメージに捉われることなく、自分たちがやりたいことを表現しきったというアルバムについて、メンバー3人にじっくりと話を聞いていく。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / Tetsuya Yamakawa
テレビサイズはおりこうさんな部分だけ
──10月31日に行われたライブ「ぼくらのサイダーウォーズ5」はいかがでしたか? Zepp Tokyoでのワンマンはサイダーガールとして初でしたよね。
フジムラ(B) バンドをやっている身としてZepp Tokyoは憧れの会場でしたからね。自分が観に行っていたさまざまなアーティストと同じステージに立てているんだと思うと、やっぱり感動しちゃうというか。閉館が決まっているので、もうワンマンで立つことはできないという口惜しさはありましたけど、すごくいい夜になったと思います。
──ライブ中、転倒してしまったと伺いましたが。
フジムラ そうなんですよ。「No.2」の間奏だったんですけど、演奏しながら後ろへ下がっているときに距離感をミスって足元の照明に引っかかってしまって。頭は打たなかったんですけど、ちょっと恥ずかしかったです(笑)。
Yurin(Vo, G) 歌いながら横見たらフジムラがいなかったからね(笑)。
フジムラ あははは。なんとかすぐ立て直して演奏に戻ったら、ベースのチューニングがすごいダウンしてて。結局しばらくの間弾けなくて、ベースなしの状態になっちゃいましたけど(笑)。
──ケガがなくて本当によかったですね。Yurinさんと知さんは初のZepp Tokyo、どうでしたか?
Yurin 僕は5年くらい前に、個人で一度Zepp Tokyoに立ったことはあったんです。でも、今回はサイダーガールとして、僕らのお客さんたちだけを目の前にしてのライブだったので、そこで見える景色は全然違っていましたね。「やっとここまで来られたんだな」って、すごく感慨深い気持ちになりました。あとは、ちょっとずつコロナ禍になる前のライブハウスの雰囲気が戻ってきたような感覚もあって。それもすごくうれしかったです。
知(G) 僕も以前、いろんなアーティストが出演するイベントでZepp Tokyoに立ったことはあったんですよ。でも、そのときは知らない人ばかりだったからめちゃくちゃ緊張して、あまり記憶に残ってなくて。今回はもうスタッフさんも含め、僕らを応援してくれている人たちばかりだったからすごく安心感がありました。いつかワンマンで立ちたいという願いもあったので、それが叶ったのはうれしかったです。
──そんなZepp Tokyoでライブ初披露となったのが、10月8日に配信がスタートした「シンデレラ」です。放送中のアニメ「古見さんは、コミュ症です。」オープニングテーマとしてオンエア中ですが、反響はいかがですか?
フジムラ インスタでの告知に対して、今回は地元の友達からのメッセージがすごく多いし、友達が自分のアカウントで宣伝してくれたりもしてるんですよ(笑)。そういう部分では、すごく届いているんだなっていう感覚がいつも以上に強いですね。
Yurin うん。実はタイアップのお話をいただいたのはもう2年くらい前で。コロナの影響でいろいろと延期になってしまっていたので、やっと皆さんに届けられることになったのが純粋にすごくうれしいですしね。
──ポップなサウンドと日常の光景を切り取った歌詞が、アニメの世界にしっかり寄り添っていますよね。
Yurin キャラクターたちの和やかな幸福感を楽曲でも表現したかったんです。日々の生活にある小さな幸せを、1年という時間の流れの中で描いていくというか。
フジムラ 僕らの四つ打ちの曲って、けっこう明るくてポップな印象が強いと思うんですけど、「シンデレラ」はそこにちょっと切ない部分も含まれていて。単純に「明るく楽しい曲」のひと言じゃ終わらないところが、自分たちとしても新しい感触の仕上がりになりましたね。
知 Yurinくんの作った曲をどう広げていくかという部分で、サウンドプロデューサーでありアレンジャーの江口亮さんといろいろ相談をしながら詰めていった感じでした。自分たちのやりたいことを詰め込むことができたので、すごく手応えのある曲ですね。
──展開が多かったり、いろんなギミックが入っていたりとサイダーガールらしい聴きどころが満載な1曲ですけど、アニメで使われているテレビサイズだと味わい尽くせないところもあって。この曲はぜひフルで聴いてほしいですよね。
Yurin そうですね。テレビサイズはまあ、サイダーガールのおりこうさんな部分だけ見えているというか(笑)。それ以外の部分には自分たちのやりたいこと、ハマっていることをしっかり落とし込んで、自分たちとしても飽きないような作りにすることは意識しました。
──「自分たちが飽きないように」という感覚がキモなんですね。
Yurin 完成するまでには何百回、何千回と同じ曲を聴くことになるので、どうしても飽きてくる部分があったりするんですよ(笑)。世に出る頃には「本当にこれでよかったのかな?」という気持ちになることもあるし。そういうことが起こらないために、1曲の中にいろんな要素を詰め込んでいくようにしているんですよね。
フジムラ 曲を作るときにも演奏するときにもそういうことは意識しています。ベースって基本的には土台というか、あまり前に出る楽器じゃないと思うけど、でもその中で自分のやりたいこと、新たな挑戦みたいなものはしっかり込めようと思いますし。僕はスラップが苦手なんですけど、「シンデレラ」ではけっこうバチバチに弾いていて。そういう点では、自分のリミッターを外すことのできた曲にもなりました。
──「シンデレラ」に限らず、サイダーガールの楽曲は聴くたびに新鮮な発見がありますよね。1コーラス目と2コーラス目でガラッと雰囲気が変わることはざらだし、歌のない間奏やアウトロにも斬新な展開が待っていたりするから。
Yurin その感想はすごくうれしいですね。
知 僕、VELTPUNCHっていうバンドがすごく好きなんですけど、彼らはアウトロに一番こだわるっていう教訓を掲げて活動しているらしくて。それを聞いてからは、自分もわりと展開に対して強く意識するようになったんですよ。思いきり展開を作る曲もあれば、無理に展開を作らないストレートな曲も僕らにはあるので、それによるいい緩急は今回のアルバムでもしっかり作れたかなと思っています。
やりたいことが増えて音楽の幅が広がった
──今回届けられたニューアルバム「SODA POP FANCLUB 4」、本当に素晴らしい仕上がりだと思います。ご自身たちとしての手応えはいかがですか?
知 今まではバラエティに富んだアルバムにすることを意識して作っていたところがあったんですけど、今回は狙わずともそうなった感じがしていて。あまり抵抗なく、いろんなタイプの曲に挑戦できたかなと思います。
──自然と楽曲の幅が広がったのはどうしてだったんでしょう。
知 アルバムを作るにあたって、3人が持ち寄ったデモの数が多かったっていうのが1つの理由だと思います。それを踏まえて、選曲をするときにもなんとなく完成形への道筋が各々で見えていたような気もするし。
フジムラ 各々のやりたいことが増えてきたからなのかもしれないです。昔から大事にしているノスタルジックな寂しさみたいなニュアンスはサイダーガール感として残しつつも、3人が今やってみたいことを詰め込めたからこそ、間口をグッと広げられたんじゃないかな。
Yurin それぞれが普段聴いてる音楽の幅も広がったし、それをバンドに落とし込むことがちゃんとできるようになったところもあるしね。
──これまでの活動を通して表現の根幹が築き上げられたからこそ、新たな要素も積極的に盛り込めるようになったんでしょうね。バンドとしてのキャパが広がったというか。
Yurin そうですね。そこも「自分たちが飽きない」ということにつながる話だと思うんですけど、バンドとしての軸はありつつも、僕らはやっぱりその時々でやりたいことを抑制したくないっていう気持ちが強いんだと思います。「サイダーガールと言えば」みたいなパブリックイメージはあると思うんですけど、今の僕らはそこをそれほど意識してないんですよね。そのイメージに合わせた曲を作らなきゃみたいな気持ちも昔はあったような気がするけど、今はとにかく自分たちの好きなものを作ることのほうが大事だなって。
知 うん。「ロックバンドはこうあるべき」「サイダーガールはこうあるべき」みたいなことはあまり考えなくなったかな。それよりは、自分たちのやりたいことを思いきりやりながら、そこから見えてくる「サイダーガールとしてのあるべき姿」を探している感じですね。今回のアルバムはその一歩になったと思います。
フジムラ 曲を作るときも衝動を大事にするようになってますからね。それは昔、バンドを始めた頃の感覚に似ているというか。そんな感覚で今回の制作には取り組めました。
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