ChouChoのデビュー10周年記念ベストアルバム「ChouCho the BEST」が12月8日にリリースされた。本作には、ChouChoが2011年にランティスからメジャーデビューしてからこれまでに発表した数々の楽曲が収録されている。音楽ナタリーではベスト盤の発売を記念して、ChouChoのシンガーとしてのキャリアや歴史をたどるレビューと、彼女の楽曲を愛聴している4組がそれぞれのテーマで選曲したプレイリストを掲載。アニソン界で輝き続けてきたChouChoの楽曲を存分に堪能してほしい。
文 / 阿部美香
ChouCho(ちょうちょ)は、ときに親しみやすく、ときに気高く、花たちに寄り添いながらその羽を広げ、風に乗って軽やかに舞い飛ぶ。そんな、一度聞けば忘れられない美しい名を掲げたシンガー・ChouChoがデビュー10周年を迎え、「ChouCho the BEST」をリリースした。これまでリリースしたすべてのアニメのタイアップシングルに加え、他アーティストへの提供楽曲のセルフカバー、本作のために書き下ろされた新曲まで、収録された全24曲そのどれもがアニソンファンと彼女との絆を感じさせるエターナルな輝きを放っている。
ChouChoのキャリアは、アニソンバンドのボーカリストとして活動する傍ら、ニコニコ動画の“歌ってみた”にボーカロイド曲のカバーを“ちょうちょ”名義で投稿し始めた2000年代後半からスタートした。その抜群の歌唱力とハイトーンからロートーンまでブレることのない透き通った歌声は話題を呼び、多くのファンを獲得。そして2011年7月、テレビアニメ「神様のメモ帳」のオープニングテーマ「カワルミライ」で、ランティスよりメジャーデビューを果たす。今でこそニコニコ動画やYouTubeで人気を博した歌い手がメジャーデビューすることは珍しくなくなったが、ChouChoはその先駆け的存在だ。「ChouCho the BEST」で改めて「カワルミライ」を聴けば、デビュー曲らしく歌声こそフレッシュな響きを残しているが、彼女の持ち味であるキャッチーなメロディラインを伸びやかかつ繊細に表現するさわやかなボーカルスタイルは、10年前も今も変わらない魅力を放ち続けていることに、誰もが気付かされることだろう。
さらに、温かなミドルバラード「空とキミのメッセージ」がエンディングテーマとなったテレビアニメ「翠星のガルガンティア」、軽快な「starlog」をオープニングテーマとするテレビアニメ「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」、フォーキーな「夏の日と君の声」がオープニングを飾ったテレビアニメ「グラスリップ」、青春の優しいひとコマを切り取ったハートウォームな「オレンジ色」がエンディングを飾ったテレビアニメ「ツルネ ―風舞高校弓道部―」……そして、オープニングテーマ「優しさの理由」でChouChoの名を一躍アニメファンに浸透させたテレビアニメ「氷菓」など、彼女が主題歌や挿入歌を歌い継いでいるアニメ作品は、若き少年少女の青春の息吹とその先にある希望、センシティブな感情の揺れ動きをビビッドに描き出している作品がとても多い。それはChouChoという名前を体現する美しい歌声が、花咲く草原を吹きぬけるさわやかな風が太陽の匂いを残すかのように、聴き手の心に温かく止まり続けるからこそ生まれ出るものだと、「ChouCho the BEST」が確かに証明してくれている。
作品の中で生きるキャラクターたちへの温かく力強いエールを歌声に込め、見事にシンクロさせたのが、ChouChoのアーティストとしての存在感を広く世に知らしめた「ガールズ&パンツァー」シリーズとのコラボレーションだ。シリーズへの最初の提供曲は、アニソンの王道を行くようなメジャー感あふれるポップネスを存分に詰め込んだ曲調とChouChoの弾けるような明るいボーカルで、夢を目指して懸命に走っていく女の子たちの思いを表現した、2012年放映のテレビアニメのオープニングテーマ「DreamRiser」。ここからスタートした ChouChoと「ガルパン」とのマリアージュは、多くのアニメファンから賞賛を浴びた。2015年には、聖地巡礼ブームを巻き起こしていた「ガルパン」人気がさらに加速し、ロングヒットを続けた映画「ガールズ&パンツァー 劇場版」の主題歌「piece of youth」を発表。この曲には、物語に描かれてきたキラキラと輝く日々を振り返り、ひとつ大人になっていく少女たちの友情の大切さと未来に向けた思いがChouCho自身の温かな歌詞で綴られている。2018年には、家庭用ゲーム「ガールズ&パンツァー ドリームタンクマッチDX」の主題歌「フロンティア」で作詞作曲と歌唱を担当。EDMサウンドをフィーチャーしたこの曲は「ガルパン」のバトルワールドに寄り添い、ChouCho自身の楽曲としてもニューテイストを切り拓いた。「ガルパン」とのコラボレーションとしては、東京フィルハーモニー交響楽団との共演で深い感動を残した公演「『ガールズ&パンツァー』オーケストラ・コンサート ~Herbst Musikfest~」でのChouChoの歌唱を思い出す人も多いだろう。
どんな世界にも素直かつハートフルに寄り添うことができるChouChoのシンガーとしての魅力もさることながら、「ChouCho the BEST」が再確認させてくれるのは、作詞や作曲も手がける彼女のソングライターとしての実力の高さだ。彼女の作詞家としての魅力は、楽曲の世界を優しい言葉で綴りながら、映画を観るように物語の情景を鮮やかに切り取っていくところ。彼女のリリックには、空、星、太陽、月、草、木など、自然の中に存在するオーガニックなワードが多いが、以前その理由を本人に尋ねたところ、ChouChoという名前に導かれ、自然とそういう言葉を使いたくなるのだと語っていた。そんな鮮やかな情景描写からも、ChouChoらしい繊細な表現が滲み出る。
そして彼女が作詞だけでなく、コンポーザーとして楽曲制作に取り組むようになったのは、2017年8月リリースの両A面シングル「kaleidoscope / 薄紅の月」からだ。幼い頃からエレクトーンを学び、アコースティックギターを弾きながら、豊かな感情表現をナチュラルに届ける洋楽アーティストを聴いて育ったというChouCho。彼女の作るメロディは、歌詞と同様にナチュラルでオーガニック、思わず口ずさみたくなるキャッチーさを持ちながらも、ときに転調や拍子の変化などのフックを効かせ、メロディメイカーとしての個性的なセンスを見せつけている。中でも民族調テイストが美しい「灰色のサーガ」は、複雑なリズムの変化がプログレッシブロック的な味わいも感じさせてくれるユニークな楽曲だ。ChouChoが作曲をスタートさせてからは、さまざまなアーティストとコラボレーション経験がある村山☆潤がアレンジャーを担当し、より彼女の音楽性に革新を与え、深みを加えている。
そんなChouChoと村山☆潤のタッグで制作された2曲が、「ChouCho the BEST」に収録されている。「Here comes The SUN」は、声優でシンガーソングライターの仲村宗悟のデビューシングルとしてChouChoが2019年に楽曲提供したナンバー。村山がアレンジを手がけ、仲村が歌う「Here comes The SUN」はアコースティックなバンド感を打ち出した楽曲になっていたが、今回ベスト盤に収録されるセルフカバーはオーガニックで透明感に満ちた美しいアレンジに。仲村から受けた“太陽”のイメージをもとに書かれたというこの曲に、ChouCho自身が大好きだと言うThe Beatlesへのリスペクトを込めたタイトルがつけられているのも粋な計らいだ。また本作には未収録ながら、ChouChoは2021年8月に上田麗奈へ「白昼夢」という楽曲を提供している。
そしてChouChoが村山とタッグを組んだもう1曲は新曲「Aurorise」。「透明な羽広げ高く舞い上がれば」「止めどなくあふれる想いを風に乗せて / 君に届けたいメロディ」「行くよ君と」と紡がれる言葉のすべてが、彼女の10年間を応援してくれているファン、「ChouCho the BEST」を手に取ってくれたリスナーへのあふれんばかりの愛にあふれている。聴く人の心に寄り添う歌をこれからも歌い続けるんだというChouCho自身の揺るぎないメッセージのようだ。壮大で包み込むようなドラマティックな楽曲とChouChoの力強い歌声は、いつまでも、聴く人の胸の奥に勇気と希望の灯りを点し続けることだろう。