「仮面ライダー」シリーズは人生のパートナー的作品
──ここからはメジャーデビュー曲である「Did you see the sunrise?」の話を聞かせてください。この曲はAmazon Prime Videoで配信される「仮面ライダーBLACK SUN」の主題歌でもあります。タイアップの話が来たときはどう感じましたか?
仮面ライダーは以前からすごく好きで。兄の影響で「仮面ライダー龍騎」を観たのがきっかけでハマって以降、シリーズをけっこう追っていたんです。幼少期から人生の節目節目で触れてきていたので、僕にとっては人生を並走してきたパートナー的な作品でもあるんですよね。なので「仮面ライダーBLACK SUN」の主題歌の話をいただいたときはすごく驚きました。音楽をやっていなければこの作品に関われることはなかっただろうし、続けてきて本当によかったなとしみじみ思いました。それと同時に、自分にこの大役が務まるのかどうかという心配もあって。仮面ライダーの主題歌って、歴代のアーティストはすごい方ばかりなので……。今回の発表がある前にTwitterやYouTubeで主題歌アーティストの予想をしている人たちがけっこういて、「松隈ケンタさんが劇伴を作っているから、主題歌はBiSHなのでは?」とか、大御所のアーティストの名前を挙げている人もいて。当然そこに僕の名前はなかったし、主題歌を歌うのが仮面を付けた知らない男だから、「誰だよ、超学生って?」と思われるんじゃないか、すごく心配でした。もちろん、やるからには自分の全力を出して、最高の歌で作品の力になりたいという気持ちは変わらないんですが。
──劇伴と同じく主題歌の「Did you see the sunrise?」は松隈ケンタさんが作詞作曲を手がけています。ヘヴィロックを基調としたこの曲を初めて聴いたときの印象はどうでしたか?
すごくカッコいいなと思いました。父親がメタル好きだったので、僕自身にもこういうサウンドは馴染みがあって。「超学生の声にはメタルが合うんじゃないか?」と言われることもあったんですが、ボカロにはこういう楽曲が少ないんですよ。以前、鬱Pさんの「映えない」というメタル系の曲を歌ったことがあるんですが、そのときに気付いたことがあって。僕の荒い歌い方は、ボカロの電子音だから映えるのであって、ヘビーなギターサウンドの曲に合わせるとサウンドとボーカルが馴染んでしまうんですよね。その経験があったので「Did you see the sunrise?」ではあまりザラザラしないように聴かせられたらいいなと意識して歌っています。「映えない」を歌ったことで今回に生かせました。
語り手の意志が込められた主題歌
──「Did you see the sunrise?」のレコーディングはどうでしたか?
歌詞が上がったのがレコーディングの1週間くらい前で、ちょうどその頃自分の“歌ってみた”の制作とも重なっていたこともあり、歌詞を自分の中に入れるのにけっこう苦戦してしまい……。普段は歌詞を完全に覚えて、目をつぶって歌うことが多いのですが、今回は歌詞に英語が入っていることもあって完全に覚えるまでには至らず。スタジオに行くまではかなり不安だったんですが、ケンタさんが優しくディレクションしてくださったので、結果としてはとても歌いやすく、スムーズに歌入れができました。ボーカルの響きや発音、特に子音についての指示をすごく的確にしてくださったからこそですね。今回はミックスをプロの方が手がけているんですが、ケンタさんのディレクションで印象的だった子音を立てたミックスをしているのもすごく勉強になりました。
──歌詞については松隈さんからどのような話が?
そうですね。「この部分は主人公のこういう感情を表していて」といったような話だったり、1番と2番で微妙に歌詞が違うことの意味を聞かせていただきました。ネタバレにもなってしまうので詳しくは語れないんですが、「仮面ライダーBLACK SUN」において、主人公・南光太郎の心境が変わる瞬間が物語の重要なポイントになっていて。それが歌詞の中でも明確に描かれているんですよね。例えば1番で「過去に戻れはしない」という歌詞があるんですが、その歌詞が2番になると「過去に戻りはしない」に変わっている。「戻れはしない」には悲観的な意味が含まれているかもしれませんが、「戻りはしない」には語り手の意志が込められているわけですよね。そういう変化を特に大事にしながら歌わせていただきました。映像作品の主題歌には、作品の入り口になるような曲もあれば、1クール全体を表すような曲、特定のキャラクターと重なる曲などいろいろなパターンがありますが、「Did you see the sunrise?」は「仮面ライダーBLACK SUN」全体を表現している曲だと捉えていて、歌の中にも緩急や起伏を付けるよう意識しています。歌詞の中には仮面ライダーファンの方が「お!」と思うような言葉がちりばめられているので、そこも楽しんでほしいですね。
──超学生さんにとっても得られることが多かった制作だったようですね。
はい。ケンタさん、すごく褒めてくださるんですよ。普段は1人で録ることが多くて、自分で聴いて「もっとこうしたほうがいいかな」という孤独なループを続けているんですけど(笑)、ケンタさんは「いいね!」「今のはセクシーだった」とか、歌うたびにいろいろな言葉をくれて。いい経験になったし、自己肯定感が上がりました。
なんでも歌える超学生を目指して
──メジャーデビューについては、どう捉えていますか?
歌い手の知り合いや応援してくださる方が「超学生はメジャーに行くのが当たり前」みたいな感じで言ってくださる方が多くて。僕自身、もちろん目標の1つとして掲げてきましたが、周りにそう言ってもらうことでメジャーデビューを自然に捉えることができましたし、ものすごいタイアップと一緒に胸を張ってデビューできることをうれしく感じています。デビュー曲の「Did you see the sunrise?」は「超学生と言えばこうだよね」というイメージに近い曲なので、いい自己紹介になってくれたらいいなと。ただ、これからは「超学生と言えばこの感じだよね」という曲はもちろん、「超学生ってなんでも歌えるんだな」と思ってもらえるようなアプローチにも力を入れていきたいです。
──“表現の幅広さ”も超学生の持ち味にしたいと。
はい。役者でいうと菅田将暉さんのような、さまざまな作品に出演していて、しかも役柄が固定されずなんでもやれる存在になりたい。なのでいろんな作品に関わって、幅広いジャンルの曲を歌っていきたいです。
──期待しています。いろいろお話を伺って、超学生さんは自分のことを冷静に見ている方だと感じました。
友人と話しているときに「超学生は好きだけど、湯月凜空(ゆづきりく。超学生の本名)は好きじゃないんだよね」みたいなことを自分で言うことがあって、もしかしたらそれは僕が超学生というものを客観視できているからかもしれないですね。超学生として、もちろんやりたいことをやりたいようにやっているんですが、「こうしたらファンはうれしいだろうな」みたいな視点も同時に持ち合わせている。それは僕自身がいろんなコンテンツのオタクだから、どういうことをすればファンが喜んでもらえるか、そういう気持ちもわかるんですよね。コメントを読むのも同じ理由で、自分だったら推しにコメントを読んでもらったらうれしいじゃないですか。
──ファン心理から逆算して、ご自身の活動に生かしているわけですね。
セルフプロデュースと言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、ある程度受け取り側の気持ちを汲み取りながら、そこに寄り添えるような活動を意識的にしているところはありますね。超学生という名前も、皆さんから授かったものですし、応援してくれる皆さんに何か返しながら、僕だけじゃなくてみんなも喜んでもらえるような活動を続けていきたいですね。
プロフィール
超学生(チョウガクセイ)
2001年生まれの歌い手。11歳の頃に初めて“歌ってみた”動画を投稿して以来、コンスタントに動画投稿を続け、“超絶ガナリヴォイス”という特徴的な歌唱方法でファンを増やし続けている。2020年12月に初のオリジナル曲「ルーム No.4」のミュージックビデオを投稿。以来、カバー曲のみならずオリジナル曲も定期的に発表している。2022年10月にAmazon Prime Videoにて配信されるドラマ「仮面ライダーBLACK SUN」の主題歌「Did you see the sunrise?」をリリースし、ポニーキャニオンからメジャーデビューを果たす。
超学生 / 湯月凜空 (@tyougakusei) | Twitter
超学生 / Chogakusei (@chogakusei) | TikTok
※記事初出時、クレジットに一部記載漏れがあったため追記しました。