超学生「Did you see the sunrise?」インタビュー|幼き投稿者だった小学生が成長して“超学生”に「仮面ライダーBLACK SUN 」主題歌でメジャーデビュー

仮面の隙間から覗く端正な顔立ちとほかに類を見ない“超絶ガナリヴォイス”によって注目度を高めている21歳のボーカリスト・超学生。小学生の頃から“歌ってみた”動画の投稿を始め、現在のYouTubeチャンネル登録者数は61万人以上、総動画再生回数は2億5000万を超えている。

今年の夏以降、“歌ってみた”楽曲の人気曲である「アンノウン・マザーグース」「きゅうくらりん」「ド屑」や、オリジナル曲「インゲル」「サイコ」を立て続けにリリースして活動の幅を広げている超学生が、10月28日にメジャーデビューを果たす。メジャー第1弾楽曲は、Amazon Prime Videoで独占配信される「仮面ライダーBLACK SUN」の主題歌「Did you see the sunrise?」。作詞作曲は、同作品の劇伴を手がけている松隈ケンタが担当しており、ヘヴィロック系のサウンドと超学生の独創的なボーカルが共鳴するアグレッシブな楽曲に仕上がっている。音楽ナタリー初登場となる本特集では、超学生のこれまでのキャリアや音楽的なルーツ、そしてメジャーデビュー曲「Did you see the sunrise?」のレコーディング時のエピソードを語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 星野耕作

小学生の頃に始めた“歌ってみた”

──超学生さんが“歌ってみた”動画を投稿し始めたのは、小学生のときからだと聞きました。きっかけはなんだったんですか?

小学校4年生のときにGoogleのテレビCMに初音ミクが取り上げられていたんですよ(参照:livetune新曲がGoogle Chrome×初音ミクCMを盛り上げる)。そのCMで流れてきたkzさんの「Tell Your World」で初めて初音ミクの存在を知り、ニコニコ動画でボーカロイドの楽曲を聴くようになって。そのときの関連動画に“歌ってみた”の作り方講座のようなものがあって、興味を持ったんです。小さい頃から歌は好きだったし、自分でもやってみようと思い、父親に「“歌ってみた”をやってみたいんだけど」と言ったら、パソコンの付属品のような小さなマイクをくれて(笑)。あとは自分で作り方講座を見ながら動画を作って、投稿していました。

超学生

──そのとき投稿した曲は?

初めて投稿したのはkemu(堀江晶太)さんの「カミサマネジマキ」です。今振り返ってみると僕のボーカルミックスは「ただ音を並べただけ」みたいなものだったんですが、プロでもない小学生である自分の歌を投稿できたことがめちゃくちゃ楽しくて。その後も暇を見つけては歌ってみた動画を作って、2カ月に1回くらいのペースで投稿していました。ありがたいことにコメントもたくさんいただいて、タイムラインに沿って「ここが好き」といった意見がもらえたのもうれしかったなあ。僕はバスケとサッカーをやっていた体育会系の少年だったので、当時の僕にとって歌は趣味の1つという位置付けでした。

──趣味の1つだった音楽活動が本格化したのはいつ頃ですか?

中学2年生のときですね。超学生の活動が楽しくなってきて、もっとたくさんの人に見てもらいたくなったのがこの頃で。高校に入ってからはバイトを始めて、お金を貯めて、機材を買うようになっていたので、かなり本格的に音楽にのめり込んでいたと思います。

──音楽の勉強もしていましたか?

ピアノと音楽理論を少し習ったりしました。あとは聴音の練習とか。ホントに若干ですけど、少しは今の活動の役に立っていると思います。当時「歌を仕事にしたいから、もっとがんばります」とツイートした記憶もありますね。決意表明ではないけど、ちゃんと言葉にすることで自分を追い詰めるというか。そういうことをやらないと、すぐサボっちゃう性格なので。

──「超学生」という名前にはどのような由来が?

僕が“歌ってみた”動画を投稿し始めた頃は、視聴者さんがボカロPに名前を付けるという文化があって。40mPさんとか、電ポルPさんとかがそうなんですけど「自分も付けてもらいたい」と思い、募集したんですよ。その中で一番面白かったのが、「超学生」だったので、超学生を名乗ることにしました。小学生や中学生の頃は「すごい学生」みたいな意味でしたが、「高校生、大学生を超えた存在で“超学生”だ」って言い張ってます(笑)。

ランキングは関係ない、好きだから歌う

──歌い手としての活動に手応えを得たのは、どの曲ですか?

僕の場合、爆発的なヒットがあったわけではありませんが、MARETUさんの「ダーリン」、柊キライさんの「エバ」をカバーしたときは手応えがあったかな。シルエットを写した実写のサムネにしたのもその時期だし、その頃からミックスや録音をちゃんとやるようになりました。妥協せず、納得いくまで何回も録り直すようにもなったし、我流ではあるけどミックスも自分なりにがんばって。音のクオリティの変化に準じて、視聴者さんからの反応が大きくなったことがすごくうれしかったのを覚えています。流行りの曲じゃなくても、いい音源と動画を作れば刺さるものなんだなと。

超学生

──超学生さんの“歌ってみた”、確かに音がいいと感じました。基本的には独学なんですよね?

そうですね。教えてくれる人はいなかったし、手探りでやっていくしかなかったので。何回かミックスを依頼したこともあって、「なるほど、技術のある人が作るとこうなるのか」と参考にしていました。もともと機材がけっこう好きだし、録音や音作りも歌と同じくらい好きなので、なるべく自分でやるようにしています。「実は誰かが裏でやってるのでは?」と言われることもありますが、僕はそこも好きでやっているんです。もちろん、曲によってはミックスを依頼して仕上げてもらうものもあるので、全部が全部自分でやっているわけではありませんが、少なくとも“歌ってみた”の投稿に関してはむしろ自分でやらせてほしいと思っているくらいです。全部自分でやっているから、予告していた投稿時間に遅れることもありますが(笑)。

──超学生さんのボーカルスタイルについても聞かせてください。“超絶ガナリヴォイス”と呼ばれる歌唱法は本当に独創的ですが、当初からこのスタイルを目指してたんですか?

だんだんこうなってきた感じですね。さっきの話にもつながるんですが、動画を投稿した際に視聴者さんから寄せられるコメントを見るのがメチャクチャ好きなんですよ。ニコニコなら動画にコメントが流れるし、YouTubeだとタイムスタンプを使って「〇分〇秒 ここが好き」みたいな感想を書いてくれる方がいて。「こういう歌い方が刺さるんだな」ということを参考にしながら、今のスタイルが確立されてきたと思います。最初はたぶん、さっき話した「ダーリン」のとき。「ダーリン」で好評だった部分を軸にしながら、曲によっては優しい歌い方をすることもあるし、今でもいろんな歌い方を試しています。

──多くの歌い手が活動している中で、「ほかの人とは違う声で歌わないと、目立てない」みたいな気持ちはありましたか?

いえ、それはあまりなかったですね。ライバルに勝ちたい、一番になりたいという気持ちも大事だとは思うんですが、僕はあまりそういう感じになれなくて。“歌ってみた”という括りの中で見られることはありますが、僕自身は周りとの比較ではなくて、自分がこうしたいからやってるところが強いのかな。再生回数ランキングみたいな順位付けが面白いのもわかりますが、「上位だからいい曲」みたいな考え方は僕の個人的な嗜好とは反するというか。かなり長いこと活動しているのもあって「この曲は比較的伸びないだろうな」というのもなんとなくわかるんですよ。でもだからといって歌わないということはなくて。やっぱり「好きだから歌う」なんですよね。

超学生
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“音フェチ”ならではの聴き方

──ちなみに超学生さんの好きな音楽のジャンルは?

幅広くいろいろ聴いているので、特定のジャンルには決め難いですね。傾向で言えば“音フェチ”というか、聴き心地のいい声や音を好んで聴いていると思います。最近のK-POPはそういう曲が多いし、ビリー・アイリッシュやCö shu Nieの音もいいですね。ボカロ界隈で言うときくおさんとか。サウンドメイクの時点でものすごく聴き心地がいい曲が多くて、最近では「愛して愛して愛して」という曲を歌わせていただきました。どうしても音が気になっちゃうので、「曲はいいのに、音が好きじゃない」というときは、あえてスマートフォンのスピーカーで聴くこともあります。

──あえて音質を落として聴く。面白い発想ですね(笑)。

音に気を取られすぎて、客観的に音楽を評価できなくなっちゃうときがあるので(笑)。あとバイノーラル的な音響を用いた曲も好きですし、転調がたくさんある曲も好きです。音楽に詳しい人からすると「この転調は気持ち悪い」みたいなことがあるようなんですが、僕はそこまで音楽知識が深いわけではないので、転調がたくさんあると純粋に「面白い」と感じるので(笑)。

──音楽以外のカルチャーに関しては?

アニメや映画も好きですし、小説もけっこう読んでいます。ミュージカルにも行くし、小さい会場で演劇を観るのも好きですね。舞台って50人くらいの規模だと没入感がすごいし、マイクを通さない生の声のセリフもいいんですよね。あと同じ劇を何度か観に行って、その都度違う席に座って「この演目はここの席の音がいいな」みたいに分析するのも好きです。

2022年11月4日更新