chilldspotが2ndアルバム「ポートレイト」をリリースする。
アルバムには「BYE BYE」「Like?」「get high」などの既発曲のほか、ポジティブなメッセージが込められた「Girl in the mirror」、しなやかなファンクサウンドが印象的な「full count」、艶やかなメロディと比喩根(Vo, G)の等身大の感情がひとつになった「5/7」など全12曲を収録。“今のchilldspot”がダイレクトに表現された1枚に仕上がっている。
音楽ナタリーでは、「ポートレイト」の発売を記念した特集を2回にわたって展開する。第1弾ではchilldspotにインタビューし、前作「ingredients」以降のバンドの変化、「ポートレイト」の制作プロセスなどについて赤裸々に語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / トヤマタクロウ
ライブとの向き合い方が変わった
──2ndアルバム「ポートレイト」が完成しました。2021年9月リリースの1stアルバム「ingredients」以降の軌跡が刻まれた作品だと思いますが、この1年8カ月の活動を振り返るといかがですか?
比喩根(Vo, G) 全国ツアーだったり夏フェスだったり、初めての経験が多かったですね。
ジャスティン(Dr) 1stアルバムのレコーディングが終わった直後に「JAPAN'S NEXT」というイベントに出たんですけど、それが初めての有観客ライブだったんですよ。
玲山(G) そうだった。
比喩根 私もそうですけど、バンドに対する意欲が増したと思うんですよね。それ以前は、遊び半分で活動していたというわけじゃないけど、“楽しくやる”というのがメインだった。今も楽しいんですけど、お客さんたちと一緒に盛り上がるためにはどういう曲を作ったらいいかとか、ライブや作品をどうしていきたいかということをすごく考えるようになったので。
小﨑(B) 特にライブに関しては本当にゼロからだったんですよ。最初の頃は「失敗せずに演奏しよう」という感じだったけど、回数を重ねるにつれて、ほかの楽器とドラムの兼ね合いを意識したり、曲のつなぎ方とかも工夫するようになって。「ライブ映えしそうな曲も作りたいよね」という話もするようになったし、この1年半くらいで、とてつもない経験値を得たと思います。
ジャスティン 去年のワンマンツアーでようやくライブのやり方がわかってきた感じがあって。楽譜通りに演奏することも大事なんだけど、テンションが上がった状態で声を出してみたり、メンタル的なところも変わってきたと思います。今年最初のライブは「SYNCHRONICITY」(4月1、2日に東京・渋谷エリアの6会場で行われたライブイベント「SYNCHRONICITY'23」)で、僕らが活動をスタートさせて初めての声出しOKの公演だったんです。ライブハウスの状況も少しずつ元に戻ってきていて、「本来のライブって、こんな感じなんだな」と。もっとがんばりたいなと思えた経験でした。
玲山 1年半前の時点では、ライブの経験も数えるほどしかなかったんですよ。それからすぐに「サマソニ」(「SUMMER SONIC」)に出たり、観客がとんでもない人数のステージも経験させてもらって、大きなステージに立つ耐性も付いてきました(笑)。
比喩根 「次はここか!」みたいな挑戦の繰り返しだったもんね(笑)。
──パフォーマーとしても鍛えられた?
比喩根 めちゃくちゃ鍛えられました。さっき小﨑も言ってたけど、最初は「うまくやりたい」「いいところを見せたい」という意識が強くて。自分の中の最高点を出そうと思ってライブと向き合っていたんですけど、だんだんそういうことだけじゃないなと気付いたんです。4人の雰囲気やお客さんの空気感なんかも全部含めてライブの最高点ってあるんだなとわかってきました。「SYNCHRONICITY」では、去年よりもお客さんとコミュニケーションが取れた気がしたし、「手拍子をしてほしい」「手を上げてほしい」みたいなこともきちんと伝えました。前は「そんなこと言うのは申し訳ないな」と思ってたんですよ。
ジャスティン そうなの?
比喩根 うん、めっちゃ思ってた。ライブの楽しみ方は人それぞれなのに、「手を上げて」とか強要するのはどうなんだろう?って。でも、お客さんはちゃんと盛り上がる準備をしてくれてるから、「一緒にやってください」ってわがままを言ってもいいんだなと思えるようになりました。
“偶然こうなった” chilldspotの音楽性
──「ポートレイト」を聴いて、皆さんの意識が外に向いているのを感じました。
比喩根 ありがとうございます。確かにそうかも。
──デビュー当初はR&B、ブルース、ソウルの要素が濃い印象でしたが、今作ではグランジやギターロック的なアプローチも加わっています。この広がりは意図的なものですか?
比喩根 まず、最初からブラックミュージックやR&Bをメインにしようという意識は全然なかったんですよ。そう言ってもらえるのはすごくありがたいんですけど、自分たちとしてはジャンルとかは特に決めていなかったので。
ジャスティン そうだね。
比喩根 アルバムに入ってる「Like?」や「BYE BYE」には確かにグランジの要素があるけど、それは単に制作期間中に私がグランジにハマってたからなんです(笑)。1stアルバムもそうだったんですけど、メンバー各々の趣味だったり、「こういう曲やってみたいよね」という意見を好きなように取り入れて作っていて。なので音楽的な広がりも“偶然こうなった”という感じです。
──なるほど。グランジに興味を持ったきっかけはなんだったんですか?
比喩根 去年、ティーン系のプレイリストとかでけっこう流行ってたんですよ。それを聴いて、いいなと思ったのがきっかけですね。
玲山 比喩根が聴いてる曲はなんとなく共有してもらっているし、リファレンスとして「こういう感じはどう?」と送られてくることもあって。僕らもインプットしないとなと思って聴くようになりましたね。
音楽の引き出しが増えてきた
──メンバー間で好きな音楽を共有することで、プレイヤーとしての引き出しも増えそうですね。
玲山 確かにこのバンドに入って、引き出しはかなり増えた気がします。1stアルバムの曲もそうだし、今回のアルバムもそうだし、全然知らないジャンルや雰囲気の曲がけっこうあるんですよ。そのたびに勉強しつつ、フレーズを考えたりしています。「ポートレイト」に関しては、ライブ映えを意識した曲もあるし、ギターで音圧を増すことが多かった気がしますね。聴いた瞬間のインパクトを残したくて、ダビングの本数も増やしてるんです。例えば「Girl in the mirror」とか「Don't lose sight」とか……あと「Anymore」もかなりギターを重ねました。
比喩根 けっこう弾いたよね、今回。
玲山 うん。ドラム、ギター、ベースでベーシックを録って、あとはギターを重ね続けて。みんなが帰ったあとも、1人寂しく……。
ジャスティン 言い方がよくない(笑)。終電がなくなるから帰ったんですよ。
比喩根 (笑)。朝早めに行ったら、すでに玲山が録ってることもざらにありました。
玲山 一番大変なのは付き合わされるエンジニアさんですけどね(笑)。僕は1人で時間をかけてレコーディングするのは全然嫌いじゃないんですよ。集中してやってたら時間が経ってた、という感じで。
──ほかのメンバーがギターのフレーズに対して意見を言うこともあるんですか?
比喩根 いや、基本的には任せてますね。よほど「こういうフレーズを弾いてほしい」というこだわりがあれば言いますし、「どっちがいい?」と聞かれたら答えますけど。
玲山 ベーシックを録るときは意見を出し合いますけどね。
──「ポートレイト」の中で、ジャスティンさんがドラマーとして「面白いことができた」と思う曲は?
ジャスティン 1曲目の「crush」ですね。アレンジの大枠を作ってくれたのはずっと一緒にやってるプロデューサーさんなんですけど、打ち込みのドラムがめっちゃ独特だったんですよ。それを踏襲しながら、どう表現するかを考えて。ギターがレゲエっぽい雰囲気だったから、レゲエの曲をいろいろ聴いたりしながら叩き方やフレーズを決めていきました。その作業は楽しかったし、面白いことができたのかなと。
──制作過程の中でいろんな音楽を聴いたり、リズムの研究もやってるんですね。
ジャスティン そうですね。Instagramにいろんなドラマーが映像をアップしてるから、それをチェックすると参考になるんですよ。ユセフ・デイズというドラマーが好きで、彼はドラムを叩きながら民族楽器を演奏したり、タムをギューッと抑えてピッチを変えたりするんですけど、そこから得たヒントも「crush」に取り込んでます。
──小﨑さんは本作の制作で意識したことはありますか?
小﨑 今回はいろんなタイプのベースを弾いてますね。前回は1本か2本くらいしか使ってないんですけど、今回は曲によって選んでいて。ジャンル感も広がったし、新しい方向の音作りを考えなくちゃいけなかったので。いろいろ試して、「これは違うかな」「これは合うね」と話しながら作っていくのも楽しかったです。
──ファンクテイストの「full count」はベースが軸になっていますね。
小﨑 そうですね。僕はファンク寄りの楽曲が好きだし、ドラムの跳ね具合に合わせて弾くのも楽しくて。さっきも話に出てましたけど、最近はグランジっぽい曲もあるのでピックで弾くことも増えてるんですよ。
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自分の歌声、嫌いじゃないんです