chilldspotが12月16日に配信シングル「get high」をリリースした。
今年9月に3rd EP「Titles」をリリースし、全国6都市を回る初のツアー「One man tour "Road Movie"」を成功させたchilldspot。年内ラストシングルとなる「get high」は、松本穂香と玉城ティナが主演を務める映画「恋のいばら」の主題歌で、脚本を読んだ比喩根(Vo, G)が劇中の登場人物の“過剰な感情”にフォーカスを当てて書き下ろした。
音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューし、「get high」の制作エピソードはもちろん、飛躍の年となった2022年の振り返り、そして今後の展望について語ってもらった。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 草場雄介
初の全国ツアーを終えて
──9月から10月にかけて行われた初の全国ツアーも無事終えられたということですが、ツアーはいかがでしたか?
比喩根(Vo, G) 楽しかったです、すごく。
ジャスティン(Dr) やっとバンド感があることができたなと思いました(笑)。ライブを重ねるごとにお客さんとの間に一体感が生まれていく感じがして、それがすごくうれしかったですね。「ああ、バンドってこういうことなんだな」って。
比喩根 1人ひとりの動きも、ライブを重ねるごとに大きくなっている気がします。同じセットリストを繰り返しているからこそ、「前回とこういうところを変えてきたな」みたいなことが目に見えてわかるんです。毎回のライブでみんな成長できていることを実感しました。
小﨑(B) 1回1回、反省もちゃんとしたし、「次はこうしてみたい」という提案も繰り返したしね。
玲山(G) ワンマンツアーということもあって、chilldspot目当てのお客さんしかいないので、どの会場もホーム感がありました。その雰囲気を各地で味わえたのは大きかったです。
──逆に、大変だったことはありますか?
比喩根 同じセトリでも、どこでお客さんのテンションがアガるかが地域によってけっこう違うんです。その土地に行って初めてその違いはわかるんだけど、ライブをやりながら各地のノリに合わせていくのがなかなか難しくて。そこは、これからもっと工夫できたらいいなと思います。
玲山 あと、移動。
ジャスティン そうね(笑)。車移動は大変だった。
玲山 移動して、その日にライブすることも多かったから。
──車移動のときの車内の雰囲気って、chilldspotはどんな感じですか?
比喩根 寝てる(笑)。
ジャスティン 最初の20分だけしゃべって、あとはずっと寝てます(笑)。
──(笑)。今回のツアーを経て、バンド内の結束が深まったりもしましたか?
ジャスティン それはありますね。「好きー」ってなった(笑)。
比喩根 いいねえ(笑)。
ジャスティン めっちゃ好き(笑)。
比喩根 私自身、chilldspotの一員である自覚がより強くなっていて。ツアーが終わったあとの練習もそれぞれ熱が入っていて、細かいところまで指摘するようになったんですよ。それは「好きー」ってなるよね(笑)。
──小﨑さんも?
小﨑 そうですね……「好きー」ってなりますよね(笑)。比喩根も言ったように、練習の熱の入り具合もより強くなったし、些細な音の長さとかについても提案し合えるような関係になっていて。
ステージで感情を出せるようになった
──ツアーファイナルのZepp DiverCity公演はいかがでしたか? 皆さんにとってはこれまでで一番大きい会場ですよね(参照:chilldspotが主人公の“ロードムービー”、満員の東京公演で終幕)。
比喩根 ステージに上がった瞬間は「人、多っ!」という感じはしたけど、何カ所も回ってライブをしてきたおかげか、あまり緊張はなかったです。ツアーファイナルが一番緊張しなかったかもしれない。お客さんの顔を見ていると、大きさとかもあまり関係なくなってきて。でも、あとから写真を見て「こんなに広い会場でライブをやらせてもらえたんだ」とは思いました。
──歌うときの感覚は、このツアーを経て変化したりしましたか?
比喩根 最初の頃は、歌を届けるイメージがよくわからなくて。スタッフさんにも「もっと届けられるといいね」と言われていたんです。そこから、いろんなことを考えて考えて考えて……今自分がしっくりきているのは、マジで何も考えないということ。「歌をもっとこうしたい」「ギターをもっとこうしたい」「バンドのリズムが今はこうだな」とか、そういうことを頭の中でごちゃごちゃ計算すると、全部に変な力が入っちゃうんですよね。特にZeppのときは力を入れずに、そのときやりたい動きをして、やりたい声の出し方をして、やりたい弾き方をしてという感じで、感覚に任せることのほうが多かったです。
──皆さん、各々のプレイに関してはどうですか?
玲山 難しいけど……丁寧にやるとか、真剣にやるとか、そういう感じかな。
比喩根 前よりも、ライブ向きの動きは増えたよね?
玲山 そうだね。「どうプレイしたらお客さんがノレて、楽しめるんだろう?」というのは意識しました。
ジャスティン 僕はツアーが始まる少し前に「冷静なところは冷静だけど、気持ちが上がるときは思いっきり気持ちで叩いていいんだ」と気付いたタイミングがあって。それを実践してみました。だから感情的にプレイすることを今回のツアーでできるようになったかなと。
小﨑 僕もジャスティンと一緒で、ステージで感情を出せるようになってきた気がします。聴きに来てくださっている人たちも同じ気持ちにさせるために、「Groovynight」で盛り上がるときには、本当に勢いでバンッっとやるし。
比喩根 すごいよね、「Groovynight」のときは。
小﨑 あのときの自分たちの感じをお客さんに伝えたいから、動きを含めて「一緒に盛り上がろうぜ!」という気持ちで演奏しています。
──「もっと大きい場所でやりたい」という野心も出てきてる?
比喩根 会場の大きさにかかわらず「もっとライブがしたい」と私は思うようになりました。もっとお客さんに近付きたい。お客さん1人ひとりの表情がはっきり見えることで、わかることもあるのかなと思っていて。遠くない未来にもっと大きい場所に立ちたいという思いはあるけど、それ以上に、もっともっと場数を踏みたい。そんな感じだよね?
玲山 うん。
比喩根 そういう話は、ツアーが終わったあとにメンバーと話しました。
過剰な感情にフォーカスを当てた
──新曲「get high」の話にいくと、この曲は映画「恋のいばら」の主題歌として書き下ろされた曲ということで。冒頭のアコギの生々しい響きとか、後半のボーカルの遠近感とか、非常に立体的な音像が魅力的な1曲だなと思いました。どういうふうに作っていったんですか?
比喩根 映画の台本を読んで、自分の中でテーマを決めてデモを作って、そこからプロデューサーさんと話し合っていきました。最初はもっとミニマムな感じをイメージしていたんですけど、曲の世界感的にもそうだし、映画のエンディングで流れるときの説得力的な意味でも、もっと壮大で広い感じの曲がいいんじゃないかという話になって、このアレンジになりましたね。
──映画のストーリーは、比喩根さんとしてはどのように咀嚼したんですか?
比喩根 けっこう内容が難しかったんですよ。単純にコメディとか、ホラーとか、ラブストーリーとか、1つのジャンルでくくれるものではなくて。いくつかの要素が折り重なっている。普段の人間生活に近いような作品だなと思ったんです。その全部を表現しようとするより、自分が印象に残った1点の解釈を拡大させていったほうがいいかなと思って。
ジャスティン 最初は飲み込むのが難しかったよね。
玲山 うん。映像もない段階だったから。
ジャスティン 暗すぎるのも違うし、明るすぎるのも違うし……難しいなって。
比喩根 展開もポンポンポンと進んでいくし、いろんな要素が複雑に絡み合っている感じだったからね。
──歌詞を見る限り、比喩根さんは曲で映画の狂気的なイメージを捉えようとしたのかなと感じました。
比喩根 そうですね。この映画は2人の女性と1人の男性を軸にしていて。女性は2人ともその男性と交際歴がある、元カノと今カノという立場なんですけど、元カノのほうがなんらかの強烈な感情を抱いていて……というストーリーで。1人が相手に過剰な感情を抱いて、それを動機にいろんな行動に出てしまう。そこにある「あなたに出会っちゃって、私はどうしたらいいの?」という感覚……沼にハマってしまった感情というか。そこにフォーカスを当てようと思ったんです。美しさと狂気の表裏一体。完璧なものよりもいびつなものに美しさを感じる瞬間ってあると思うんですけど、それを表現したかった。
──相手に対して強烈な感情を抱くというポイントが、比喩根さん的には歌詞に書きやすかったんですか?
比喩根 台本を読んでいて、「そこまでやっちゃうんですか!?」と思ったんです(笑)。インパクトが一番あったのが、そこだったんですよね。作品の中にいろんなドラマがあるんだけど、何よりも女性が動く動機部分の衝撃が大きすぎて。なので「私もわかるな」という共感の部分より、めちゃくちゃデカい感情を描いたほうが、この映画の核にある衝動を伝えられるんじゃないかと思ったんです。
──別の人が作った物語に寄り添うような音楽を作るということを、今回初めてやってみていかがでしたか?
比喩根 やっぱり、自分から出てきたものを曲にすればいいわけではないので難しさはあるけど、パズルを解くみたいにハマったときの爽快感もありますね。そういう意味では、すごくやりがいがあります。
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「恋はいばら」の世界観を汲み取って