chilldspotが3月30日に新作音源「around dusk」をリリースする。
「around dusk」には、9m88のバックメンバーを務めていることでも知られる台湾出身のシンガー・LINIONとのコラボ曲「music feat.LINION」や、プロデューサーにヨルシカのn-bunaを迎えた「your trip」など5曲を収録。付属DVDには、chilldspotが昨年10月に東京・WWWで開催した初のワンマンライブ「One man live "the youth night"」の模様が全曲収録されている。
音楽ナタリーでは、メンバーの比喩根(Vo, G)、玲山(G)、小﨑(B)、ジャスティン(Dr)にインタビュー。LINIONやn-bunaとの制作、「around dusk」に込めた思いを話してもらった。
取材・文 / 天野史彬撮影 / トヤマタクロウ
chilldspotは夜の曲が多い?
──「around dusk」を聴かせていただいて、改めてchilldspotの音楽はある特定の時間を捉えている作品が多いなと思いました。
比喩根(Vo, G) これは完全に私の責任で、夜に曲を作ることが多いんですよ(笑)。夜のほうが考えごとをする時間が多いし、自然といろんなことが思い浮かぶんです。それで、いつの間にか夜の時間帯の曲を作りがちになっていて……本当はお昼の曲も作りたいんですけどね。
ジャスティン(Dr) 最初は前のEPが「the youth night」(2020年11月リリース)だったから、今回は夜のイメージから脱していこうとメンバー間で話していたんです。でも結局、「夜更かし」という曲が3曲目に入っているという。
比喩根 ごめんー(笑)。
──タイトルの「around dusk」は、ニュアンスとしては“黄昏時”という感じですもんね。
比喩根 そうなんですよね。タイトルは曲が出そろう前に付けたんですけど、「夜更かし」もいい曲だなと思っていて。リード曲は「yours」と「your trip」にすることが決まっていたから、もう少し落ち着いた曲が欲しくて「コンセプトから逸れる」とは思いつつ「夜更かし」を提出しちゃって。でも、「yours」や「line」は日中の時間帯という感じがするでしょ?
ジャスティン 「yours」はそうだね。でも「line」は、歌い出しが「27時道には1台タクシー」だよ。
比喩根 あ、ほんとだ(笑)。
──ド深夜ですね(笑)。でも、それだけ曲を作る時間帯や、そのときに見える景色に影響を受けるのが比喩根さんのソングライティングということですよね。
比喩根 そうですね。私は1回考え出すと脳が強制的にフリーズするくらいまで考えちゃうんですよ。もし、お昼に考え出したら日中ずっと悩んでいる人間になっちゃう(笑)。だから夜に考えごとをすることが多いし、その延長線上で曲が生まれるんだと思います。
無責任に甘やかしてくれるような音楽を
──リード曲である「yours」や「your trip」はバンドの新しい表情が見える曲だなと思いました。今作には去年10月に開催された初のワンマンライブの映像を収録したDVDが付属するとのことですが、ワンマンの時点で「yours」はすでに演奏されていますね。この曲はいつ頃できたんですか?
比喩根 高校生の頃なので、一昨年の夏くらいにはあったような気がします。そもそも「yours」は、Vulfpeckの作品を聴いたり、ライブ映像を観たりしていて、「こういう曲を作りたい!」と思ったのが出発点で。
──Vulfpeckのどういうところに惹かれたんだと思います?
ジャスティン ゆるいところじゃない? サビだからって盛り上げるわけじゃなく、同じテンションが続いていくような曲が比喩根は好きなのかなと思ったけど。
小﨑(B) 「yours」のゆるさって比喩根の性格が出てると思う。
比喩根 だそうです(笑)。
──(笑)。それこそ、1stアルバム「ingredients」に入っていた「Weekender」のような曲でも、ゆるさを提案する側面はあったと思うんです。「がんばりすぎなくていい」「もっと適当でいい」というような提案が曲でも歌詞でも、比喩根さんから出てくるものなのかなって。
比喩根 確かに、「みんな、がんばりすぎじゃない?」と常々思っていますね(笑)。私はたまに「ヤバい、天才かも」と思うことがあるんですけど、そういうときってみんなにあると思うんですよ。「今日、めっちゃいい仕事したな」とか「今日、たぶん世界で一番ツイてるわ」とか。でも、そのあとに「結局、自分は……」と、勘違いしないように必死に「自分は平凡な人間だ」と思い込みながら生きているような感じがする。でも、私は「みんな天才でよくない?」と思うんですよね。なんの天才かはわからないけど、みんないいところがあるし、みんなすごいから、それでいいじゃんって(笑)。
──大事なことですよね。
比喩根 私がそう言われたいっていうのもあるんですけど、私の友達も、褒め合うんですよ。「今日の服、世界一かわいい。天才」とか、いつも言い合っていて。そういうことを、友達以外の人にも言いたいなと思う。それもあって、タチの悪い友達みたいな感じが私の歌詞には出てくるんですよね。無責任に甘やかしてくれるような友達が1人くらいいてもいいのかな、と思いながら曲を作っています。
「around dusk」で伝えたいこと
──「yours」の歌詞は内省的なものとも受け取れますけど、なぜ「yours」というタイトルになったんですか?
比喩根 この曲で「君」という言葉が出てくるのって、曲の終盤だけなんですよね。「未定」や「夜の探検」を出したときにも感じたんですけど、私のネガティブな感情や思ったことに対して、「私も共感しました」と言ってくれる人がいて。「Weekender」の「適当に生きるのも大事かも」という歌詞を、怜山が「いいと思った」と言ってくれたりもしたし。
玲山(G) そうね。
比喩根 「私が思っていることって、もしかしたらみんなも思っていることなのかも」と思うことがあるんです。「yours」で歌っていることは全部、私が実際に言われたことで、今では納得しているけど、言われたときは「わからない! どうしたらいいんだ!」と思っていて。でも、こういうことも、みんなが思っているのかなと。なので、自分のことを話しているようで、ラスサビのところで「君」という言葉を出すことで、全部が「あなたも思っていると思うんだけど」という視点に切り替えていて。「私も思っているけど、あなたのことでもあるんじゃないの?」という意味で、「yours」と名付けました。
──今作は「yours」で始まり「your trip」で終わるという、“your”という言葉が象徴する作品とも受け取れますよね。「自分のことであり、あなたのことでもある」という視点は、今作を通して大切にされた部分ですか?
比喩根 曲順はそこまで意識していなかったんですけど、通じているものはあると思います。chilldpotはまだメンバーが若いこともあって、「2000年代生まれ?」「10代ですごいね」とか言われるんですよね。でも、私たちも普通に悩むし、うまくいかないことだらけの19歳で。同じ人間だし、悩みを持って生きている。だから、どちらの曲も解決方法を教えるんじゃなくて、「一緒にどこかに行こうぜ」と言っているような曲になったのかなって。この2曲だけじゃなくても、今回のEPは全体として「同じ時間を過ごしていこう」という感じはあると思いますね。
LINOINにかけてもらった言葉
──「your trip」はn-bunaさんがプロデュースで参加されていて、「music feat. LINION」は台湾のシンガー・LINIONさんとのコラボレーションです。「around dusk」は、外部ミュージシャンとのコラボによってより外に広がった印象もありますが、バンドとしてはどういった意図があったのでしょう。
ジャスティン 「ほかのミュージシャンの方と一緒にやってみたい」ということは、前々から比喩根が言っていたんですよ。
比喩根 うん。1stアルバムはメンバー4人の色が出るものにしたかったんですけど、ひとまずその形でアルバムが作れたから、次はほかのミュージシャンと一緒にやってみたいというのはありました。結果として、めちゃくちゃ勉強になりましたね。
ジャスティン 例えば「your trip」はn-bunaさんがこの曲を解釈してアレンジしてくれた音源に僕らの色を出していったのに対して、「music」は、僕らが歌うところとLINONさんが歌うところをはっきりと分けているし、彼の曲を事前に聴いたうえで僕らがLINIONさん向けにアレンジしたので、この2曲は、作り方の方向性としては真逆だったんです。それが面白かったんですね。
──なるほど。改めて「music」はどのような経緯で生まれたんですか?
ジャスティン 高校の修学旅行で台湾に行ったんですけど、そのときに現地の高校生と交流する機会があって、そこでInstagramを交換した中の1人に、音楽好きな子がいて。その子がストーリーズにLINIONさんの曲を上げているのを偶然聴いたんです。そのときに「カッコいい!」と思って。アジア圏の人たちとコラボしたいという話は常々していたので、それでオファーさせていただきました。
──日本以外のアジア圏の音楽は、けっこうチェックされますか?
比喩根 私は韓国の音楽が大好きですね。K-POPも好きなんですけど、私や小﨑は、HYUKOHとか、どちらかというとバンドが好きで。でも、台湾や中国の音楽はあまり聴いていなかったんですよ。でも、LINIONさんがきっかけで9m88といった台湾のアーティストを聴き始めました。
──実際にLINIONさんとはどういった形で顔合わせをしたんですか?
ジャスティン リモートで初めて顔合わせしました。LINIONさんは、めちゃくちゃ優しいお兄さんでした。
比喩根 年齢がそこまで離れているわけでもないし、私たちにもわかる英語で話してくれたり、たまに日本語も話してくれたりして。「20歳になったらお酒を一緒に飲みに行こう」と言ってくれて、いい兄貴という感じでしたね。私たちはコロナ禍に活動を始めたこともあって、ほかのアーティストさんと直接お話しする機会がなかったので、LINIONさんとのお話は貴重でした。
玲山 あと僕がLINOINさんと話したのは、周りの人たちが僕らに抱くイメージと、本当の僕ら自身に差があるような気がして怖いということで。
──なるほど。先ほどの比喩根さんの話にもつながりますね。実際の自分たちと、周りから見えるパブリックイメージの差というか。
ジャスティン LINIONさんも「そういうことは自分も感じる」と言ってたよね。年齢が近いのもあるし、そこを共感してくれる先輩がいるっていうのは大きかった。
玲山 LINIONさんが「そういうところも楽しめ」と話していたのが印象的でした。
小﨑 あと、LINIONさんは「Keep Groove!(グルーヴし続けろ)」って。
比喩根 LINIONさんの言葉に勇気をもらえましたね。
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比喩根が描く満たされない感情