「エイミー」という歌があってよかった
──DISC 1の収録曲はどれも茅原さんにとって大切な曲だと思いますが、「SANCTUARY」以降にリリースされた曲で特に思い入れの強い曲を挙げるとすれば?
そうだなあ……「みちしるべ」(2018年1月発売の24thシングル)と「エイミー」(2019年9月発売の26thシングル)の存在はとても大きいですね。「みちしるべ」は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」テレビシリーズのエンディング主題歌で、私が初めてアニメのタイアップ曲の作詞に挑戦した曲で。
──めちゃくちゃ優しい歌詞ですよね。
うれしい。実は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」があまりにも素晴らしい作品なのでプレッシャーも大きくて、「私の歌詞が作品に届かなかったら却下でいいですから」とプロデューサーさんに何度も言っていたんです。打ち合わせのときに、監督の石立太一さんから「子供でも大人でもわかるような内容で、かつヴァイオレットが訥々と口ずさんでいるようなイメージで書いてほしい」というオーダーを受けて、作品の世界を俯瞰して温かく包み込めるような歌詞にできたらいいなと。ヴァイオレットを通して、人生の中で、大切な人の存在だったり大切な人の言葉が道しるべになって、人は前に進んでいけるのかもしれないなって考えながら書きました。これは、本当に書かせてもらってよかったです。
──「エイミー」も劇場アニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -」の主題歌で、同じく茅原さんが作詞をなさっています。
「エイミー」の作詞は「まさか!」だったんですよ。「みちしるべ」からの流れでお話をいただいた部分もあったんですけど、私はその「みちしるべ」にすべてを注ぎ込んでしまっていたので、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の主題歌の作詞をもう一度することになるなんて想定外すぎて……。
──そうだったんですか。
だから正直「みちしるべ」のとき以上に心配だったんですけど、京都アニメーションの藤田春香監督をはじめ、音楽制作チームのスタッフさんと、みんなで話し合いながら楽曲から歌詞の方向性まで細かく決めていきました。さっきも言ったように「みちしるべ」は作品全体を俯瞰していたけれど、この「エイミー」に関しては、「外伝」のストーリーにできる限り寄り添って書くことにしました。藤田監督の思いに少しでも応えたいなという気持ちが強くて……藤田監督は、私の歌詞にリテイクもくださったんですけど、それが手書きのお手紙だったんですよ。
──おお。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」も手紙が重要なモチーフになっていますね。
そう、「ヴァイオレット」の世界そのもので。しかも、いろんな色のペンを使って書かれたとてもカラフルなお手紙で、歌詞に対する感想だったり疑問だったりアイデアだったり。丁寧に気持ちを手紙で伝えてくださって……作品に対する愛情も、藤田監督の優しい人柄にも心から温かくなりました。最終的に、藤田監督も完成形の「エイミー」の歌詞をとても喜んでくださったので、これも本当に書いてよかったなって思いました。ただ、その後、悲しすぎる出来事があったので……。
──はい。
この楽曲が、歌を歌うということに改めて私を向き合わせてくれたというか。それこそデビューした直後は自分のためだけに歌っていたのが、徐々にファンのみんなに向けて歌うようになり、今はこの「エイミー」の存在によって歌を届ける対象がさらに変わってきて……あえて言葉にするなら祈りに近い感覚で歌を歌っているような。それは私にとって初めての感覚なんです。正直、歌を歌うのもつらかった日もあるし、「歌いたくないな」って思ってしまったこともありました……でも、それでも、歌があってよかったと思うんです。もし歌がなかったら私は本当に何もできなかったと思うから。私自身、歌に救われました。
──4月には新作の「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の公開も控えていますし。
そうなんです。公開に向けて、石立監督をはじめ、京都アニメーションの皆さんが心を1つにして取り組んでいらっしゃいますし、アフレコももうすぐなので私もすごく楽しみです。きっと素晴らしい作品が誕生します。そしてそれを世界中の人へ届けていくわけですから、私もしっかりと未来に届けられるような歌を歌っていきたいと思います。
田淵さん、これ入りません!
──DISC 1の最後にはQ-MHzの作詞、作曲、編曲による新曲「We are stars!」が収録されていますが、はちゃめちゃな曲ですね。
いやー、まさに“はちゃめちゃ”という言葉がふさわしいと、私も思いますね。
──Q-MHzが茅原さんの楽曲を手がけるのは、先の「みちしるべ」のカップリング曲「White ambitions」以来、2回目ですよね。この「White ambitions」もなかなかにはちゃめちゃでしたけど。
ですよね(笑)。TRUEさんとのデュエットという名のバトルを繰り広げていましたから。今回は、15周年記念ソングを作るにあたって、みんなに「ありがとう。これからもよろしくね」と伝えるキラキラした感動的な曲“ではない”ほうがいいよねと。
──なるほど。
むしろ「いやいや、まだまだ行くよー!」っていう、ガツガツした攻めの曲にしようという話になったんです。そのうえで私としては「“誕生”をテーマにしてほしい」とQ-MHzさんにお願いして、できあがったのがこの「We are stars!」で。もう、セリフありラップありで1回聴いただけでは全貌が把握しきれないし、仮歌を歌ってくださったのが田淵智也さんだったんですけど「こんなにも高速で舌が回るかな?」って不安になりました(笑)。
──「We are stars!」はその田淵さんらしい、アッパーかつダンサブルなロックナンバーですね。
うんうん。とにかくグルーヴがたまらない感じで、今までの茅原実里の楽曲にはないテイストですよね。でもそのノリが、聴いているぶんには心地いいんですけど、歌ってみるとめっちゃ速くて。セリフにしろラップにしろ、1回つまずくと完全に置いていかれちゃうんですよ。特に2コーラス目のセリフ部分は、最初はもっとセリフが長かったんですけど、歌録りのとき「入りません! 田淵さん、これ入りません!」と言ってちょっと削ってもらいました。削ってもらってもギリギリだったんですけど(笑)。
──レコーディングには田淵さんが立ち会われたんですね。
はい。とてもお忙しい方なので歌の方向性が決まったら帰られるという話だったんですけど、ありがたいことにレコーディングにはけっこう長い時間付き合ってくださって。ゴールが見えたところで華麗に去っていきました(笑)。
Q-MHzからの挑戦状
──Q-MHzのメンバーでいうと田淵さん以外、つまり畑亜貴さん、田代智一さん、黒須克彦さんは茅原さんとのお付き合いも長いですよね。
そうなんですよ。畑さんも田代さんも黒須さんも私を育ててくださった方たちで、そこに田淵さんも加わるという、ありがたい布陣で。「We are stars!」は、そんな皆さんから今の茅原実里への挑戦状みたいな曲だとも感じましたね。だから私も「歌ってやろうじゃないの!」と気合いが入りました。あと、この曲がセリフで始まっているのも、田代さんが作曲して、畑さんが作詞してくださった「雪、無音、窓辺にて。」の長門有希のセリフとリンクしていたりもするんです。
──ああー。
それを聞いて、私も鳥肌が立ちました。私はその「雪、無音、窓辺にて。」がきっかけでランティスで音楽活動を始めることができたんですけど、今回の15周年記念ソングでまたそこにつながるというのがすごくドラマチックで。しかも、歌詞が「ということで続きはこの先で…またね。」で終わるっていう。
──カッコいいじゃないですか。
そうなんです! これはライブで合言葉にしたいというか、せーので「またね」ってみんなで言い合ってステージから去るみたいなことを密かに考えています(笑)。
──歌詞もすごく挑戦的ですよね。
そうですね。今までの茅原実里だったらあんまり言わなさそうなことも言っているので、自分の知らない内面を引き出された感じもあって。だから、楽しい。うん、楽しいですねこの曲は。歌っていてとっても。
──歌声からもそれは感じます。「茅原さん、楽しそうだなー」って。
覚えるまでは本当にもう血を吐くぐらい大変だったんですけどね(笑)。去年のバースデーライブで初めて披露したんですけど、本番直前のリハーサルでも成功率がめちゃくちゃ低くて。でも、この曲も間違いなくライブを通してどんどん育っていく曲だし、みんなとの掛け合いもたくさんあるし、早くまた歌いたいなあ。
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すべては長門有希から始まった