茅原実里|ベストアルバムに刻まれた歌手活動15年の軌跡、そして未来へ

茅原実里が歌手デビュー15周年記念ベストアルバム「SANCTUARYⅡ~Minori Chihara Best Album~」を2月5日にリリースした。

2004年12月に歌手デビューしてから15周年を迎え、アニバーサリープロジェクトを展開している茅原。その一環として作られたベストアルバムには2015年4月発表の「会いたかった空」から2019年9月発表の「エイミー」までのシングルリード曲と、茅原がセレクトした「会いたかった空」以前のシングルリード曲、そしてQ-MHzが提供した新曲「We are stars!」が収められている。DISC 2にはテレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」より長門有希の「雪、無音、窓辺にて。」やアニメ「らき☆すた」より岩崎みなみの「黙っと休み時間」など、茅原がこれまで歌唱してきたさまざまなキャラクターソングを収録。茅原のこれまでの歌手活動が集約された1枚となっている。音楽ナタリーでは茅原に収録曲にまつわる思い出や、彼女にとって新境地の1曲となった「We are stars!」について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 塚原孝顕

5年後は「SANCTUARYⅢ」を作らなきゃ

──前回音楽ナタリーで茅原さんにインタビューさせてもらったのは4年前、「Innocent Age」(2016年4月発売の6thアルバム)をリリースされたときでした(参照:茅原実里「Innocent Age」インタビュー)。

おおー、そんなに前になりますか。

──さらに言うと、その前は「D-Formation」(2012年2月発売の4thアルバム)のリリース時だったので(参照:茅原実里「D-Formation」インタビュー)、オリンピックイヤーに取材できる感じなのかなって。

本当だ! じゃあ次は2024年?

──もしそうなった場合はデビュー20周年のタイミングですね。

そうですねえ……(笑)。実はこの「SANCTUARYⅡ」の制作をしながら、「5年後は『SANCTUARYⅢ』を作らなきゃだよね」という話もスタッフさんとしていたんですよ。10周年のときは5年後にまたベストアルバムを作れるなんて思ってもみなかったんですけど、今回は「ここからまた20周年に向けて刻んでいくんだな」って。だからジャケットのデザインとかも「『Ⅲ』をこうするなら、『Ⅱ』はこうしとく?」みたいな。

──頼もしいです。

うん。スタッフのみんなとは、自然体でよきディスカッションができました。

──「SANCTUARYⅡ」のDISC 1には、1枚目のベストアルバム「SANCTUARY」(2014年9月発売)以降にリリースされたシングルとアルバムのリード曲、15周年記念の新曲と共に、茅原さんご自身でセレクトされた2014年以前のシングル曲も収録されています。過去のシングル曲のセレクトの基準は?

茅原実里の名刺代わりになるような鉄板曲ですね。ベストアルバムをきっかけに私の作品を手に取ってくれる方もいると思ったので、わかりやすく「この曲なしでは茅原実里は語れない」みたいな、ファンの皆さんの間でも特に人気のある曲を選びました。例えば1曲目の「純白サンクチュアリィ」(2007年1月発売の1stシングル)なら、ランティスでアーティスト活動を再開して最初に出したシングルだし、始まりの曲という意味でも外せませんね。

茅原実里

──僕は個人的に「Paradise Lost」(2008年11月発売の5thシングル)に思い入れがあって。何かの番組で同曲のミュージックビデオを観て、そこで歌手としての茅原さんを認識したんです。

あら、うれしい。「Paradise Lost」は、私の夢を叶えてくれた曲なんですよ。というのも、私が養成所に通って歌と声優の勉強をしていたときの目標が、アニメに声優として出演して、なおかつそのオープニング主題歌を歌うことだったんです。それが、「喰霊-零-」でヒロインの土宮神楽を演じ、オープニングの「Paradise Lost」を歌わせてもらうことで達成できたという。あと、この曲は日本でも海外でもライブでみんなが歌ってくれるので、本当にたくさんの人に愛されているんだなあって。声優の活動でいえば「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門有希の存在がすごく大きいんですけど、歌手の活動では「Paradise Lost」が同じくらい大きな存在かもしれませんね。

だんだん人間になっていく

──茅原さんといえば「Paradise Lost」のようなクールなデジロックというイメージが強いですが、一方で「SELF PRODUCER」(2012年10月発売の16thシングル)のような、迷いなくアッパーな曲も持ち味の1つではないかと。

ありがとうございます。「SELF PRODUCER」は、メッセージ的には恋する女の子を応援するという曲だったので、私も女子力全開で(笑)。この曲は、とあるライブのタイミングで私が踊ってみたんです。そしたらみんなが喜んでくれて。それからというものライブを重ねていくごとにファンのみんなの熱量も増していって、ダンスに合わせてみんながピンクのペンライトをくるくる回しながら振ってくれたりしてすごくうれしかったです。なので、みんなと一緒に育てていった感覚が特に強めの曲でもありますね。

茅原実里

──茅原さんは「Innocent Age」リリース時のインタビューで、同作のテーマが“恋愛”だったから、青春を感じさせるバンドサウンドを基調にしつつ、繊細な心の動きを表現するためにファジーな歌い方を意識されたとおっしゃっていました。

はいはい。

──ベスト盤という形で代表曲を並べて聴くと、その「Innocent Age」の収録曲が続く中盤から雰囲気が変わるのがわかりますね。

だんだん人間になっていくみたいな(笑)。1曲目の「純白サンクチュアリィ」はDISC 2に収録された長門有希のキャラクターソング「雪、無音、窓辺にて。」の延長線上にあるので、私の最初のイメージって、音楽的にもビジュアル的にも、どこか地上に存在していなかったような雰囲気があって。それが徐々に地上に降りてきて、サウンドも歌声も歌詞もだんだん有機的になっていった感じですよね。面白いです(笑)。

──それは10周年を迎えて以降に起きた変化の1つと言えそうですね。

うんうん。そう、去年の11月18日にバースデー兼デビュー15周年記念ライブをやらせてもらいまして。そのときにシングル曲をリリース順に全曲歌ったんですけど、後半、それこそ「Innocent Age」にも入っている「会いたかった空」(2015年4月発売の21stシングル)あたりからけっこう大変で(笑)。

──大変とは?

前半から後半にかけて歌を聴かせる曲が多くなっていくんですよ。「純白サンクチュアリィ」から始まり、徐々にテンションも上昇して「これでもか!」ってほど盛り上げたあとに、ミディアムやバラードが待っているという……正直、肉体的な部分で声がギリギリだったところもありました。でも全30曲全力で歌い切ったし、本当に感動的なライブでした。バックのスクリーンには全曲MVも映していたので、私もちょいちょい振り返りつつ「ああ、若かったなあ」「あんなこともあったなあ」って思い返しながら……本当にいろんなことをやらせてもらったなあ。