ナタリー PowerPush - 茅原実里
みのりん伝説徹底検証「D-Formation」への道のり
「おやおや、いつもと様子が違うぞ」
──「ハルヒ」放送の翌年、2007年1月にはソロ名義のシングル「純白サンクチュアリィ」がLantisよりリリースされ、以降は作品を重ねるごとに、皆さんで作り上げてきた「アーティスト茅原実里」像が確立されてきたように思います。Lantisからの1stアルバムとなった「Contact」(2007年10月発売)、続く2ndアルバム「Parade」(2008年11月発売)、3rdアルバム「Sing All Love」(2010年2月発売)と段階を追って、よりその個性が明確になって。そして2年ぶりのアルバムとなった今作ですが、また一段と聴き応えのある、濃い作品に仕上がりましたね。
いやー、カッコいいアルバムができましたねえ。
──他人事みたいな言い方ですね(笑)。制作にあたって、最初はどのような作品にしようと考えましたか?
「Sing All Love」を出したところで、それまで考えていたスタイルはいろいろやりきったな、みたいな感触があったので、今回はまず「原点回帰」というテーマが上がりましたね。「Contact」のようなクールなアルバムを作ろう、という。
──確かに無機質なトランス / ハウス寄りのサウンドは、「Contact」の質感に近いですね。
「Sing All Love」では結構生の楽器を多用して、あたたかく華やかなアルバムになったんですけど、今回は逆方向に振り切って。“電脳アリス(「不思議の国のアリス」の電脳版)”というキーワードを立てて、思い切り世界観を作り込んでいくみたいな。
──オープニングの「D-FORMATION」からのド頭3曲がもう、突き放すようなテンションのサイバーな楽曲で。
1曲目から「おやおや、いつもと様子が違うぞ」と感じてもらえると思います。
I'veマジックですね
──3曲目の「嘘ツキParADox」と12曲目の「アイノウタ」では、北海道を拠点に活動されているサウンドクリエイター集団「I've」との初共演が実現しました。茅原さんのスタッフは、これまでの茅原サウンドを確立する上で、I'veの音楽を参考にされていたとか。
まさかの出来事でしたよ! I'veさんはずっと憧れの存在で、まさか一緒に制作できるときが来るなんて思ってもいなかったので。
──この2曲はレコーディングもI'veの拠点である札幌で行われたんですよね。
みんなメチャクチャいい人たちでねー。北海道に住みたいと思っちゃいましたよ(笑)。I'veさんのスタジオは、おもちゃ箱をひっくり返したみたいな雰囲気で。R2-D2(「スター・ウォーズ」)のフィギュアだらけだし、エイリアンの頭のオブジェとか、息抜きに遊べるダーツとか……。
──比喩表現じゃなく、ホントにおもちゃ箱みたいなんですね(笑)。
歌入れ前にダーツに夢中になっちゃって「あれ、なんのために来たんだっけ?」みたいな(笑)。
──ボーカルディレクションなどもいつもとは違ったんじゃないかと思うのですが。
そうですね。ディレクションはI'veの高瀬(一矢)さんにお願いしました。いつもディレクションしてくださる斎藤さんじゃないことも、スタジオが違うことも最初は不安でしたけど、高瀬さんはすごくやさしい方で、私もすぐに心を開けたので、緊張がほぐれた後は楽しくできました。高瀬さんのディレクションはね……うふふふ(笑)。「B'zの稲葉さんっぽく歌って!」とか言ってましたよ(笑)。全然稲葉さんみたいにはならないんですけど、何かを意識してマネすることで、自分でも思いもよらなかった新しい茅原実里がポンと出た、みたいな。その場で思いついたこともどんどんやらせてもらえて、面白かったですね。
──サウンドについてはお任せですか?
完全にお任せですね。歌のセレクトまで全部お任せでした。私はただ歌うだけ歌って帰るみたいな。
──あえてI'veの世界観に完全に飛び込んでみるような。結果的に、アルバム全体の世界観ともドンピシャながら、また新たな扉が開いたような印象がこの2曲にはあります。
いつもの茅原チームでは生まれない、I'veマジックですね。面白かったなあ。
スタッフさんから安産のお守りを
──本作の注目点として、「作詞家・茅原実里」の活躍も挙げられると思います。シングル曲も含め5曲で作詞をされていますが、いかがでしたか?
基本的には私、あまり作詞に対して積極的なタイプではなかったのですよ。自分の中では「作られた茅原実里像」というか、たくさんの人の手で作り上げられた世界をみんなに愛してもらっているという気持ちがあるから、自分が足を踏み込むことで、みんなで作ったこの世界を壊してしまうんじゃないかという気がして。私はこのチームで歌を歌う人、というスタンスに徹してきたんですね。今作は「電脳アリス」というキーワードに沿った世界観を作り込んでいくというコンセプトがあったので、なおさら私の出る幕じゃないなと思ってたんです。でも「もっと茅原実里エキスを入れよう」という話になったんですね。
──先程、作詞をする上で人生そのものを音楽にした尾崎豊を見習いたいとおっしゃっていましたが、今作では自分の中の“尾崎性”は発揮されましたか?
多分出てきました。いっぱい(笑)。やっぱり歌詞を書くことで、作品がより自分のものになりますね。いっぱい苦しみましたし。Lantisのスタッフさんから安産のお守りをもらって……。
──安産のお守り!?
難産なんだよーって言ってたらくれたんです(笑)。おかげで無事に書き上げることができました。
CD収録曲
- D-FORMATION
[作詞:松井洋平 / 作・編曲:A-bee] - Dream Wonder Formation
[作詞:松井洋平 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)/ Additional Sound Editing by A-bee] - 嘘ツキParADox
[作詞:奥井雅美 / 作・編曲:高瀬一矢] - Metamorphosing Door
[作詞:こだまさおり / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)] - Planet patrol
[作詞:畑亜貴 / 作・編曲:渡辺和紀] - KEY FOR LIFE
[作詞:こだまさおり / 作曲:藤末樹、YUMIKO / 編曲:藤末樹] - この世界のモノでこの世界の者でない
[作詞:石川智晶 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)] - X-DAY
[作詞:茅原実里 / 作曲:Tatsh / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)] - Defection
[作詞:奥井雅美 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)] - 暁月夜(あかつきづくよ)
[作詞:茅原実里 / 作曲:俊龍 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)/ Strings Arrange:室屋光一郎] - TERMINATED
[作詞:畑亜貴 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)] - アイノウタ
[作詞:茅原実里 / 作曲:中沢伴行 / 編曲:中沢伴行・尾崎武士] - 夢のmirage
[作詞:茅原実里 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)] - Freedom Dreamer
[作詞:茅原実里 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)]
Special Live Disc(Blu-ray Disc / DVD共通)
「Minori Chihara Acoustic Live 2011」(2011.11.20収録)
- 純白サンクチュアリィ
- MC-1
- Say you?
- KEY FOR LIFE
- TERMINATED
- MC-2 ~メンバー紹介~
- 巡り逢い~かげがえのないもの~
- PRECIOUS ONE
- Fragment ~Shooting star of the origin~
- MC-3
- 君がくれたあの日
- 詩人の旅
- ふたりのリフレクション
- MC-4
- Sing for you
[ENCORE]
- MC-5 ~Band呼び込み~
- 一等星
- ENDING
茅原実里(ちはらみのり)
2004年4月にテレビアニメ「天上天下」棗亜夜役で声優としての活動を始め、同年12月にはアルバム「HEROINE」で歌手デビュー。2006年4月より放送されたアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門有希役で一躍注目を浴び、平野綾、後藤邑子と共に歌った同アニメのエンディングテーマ「ハレ晴レユカイ」は大ヒットによりゴールドディスクに認定された。2007年1月にはLantisより発売されたシングル「純白サンクチュアリィ」を契機に、本人名義による音楽活動を再開。以降、アニメソングを中心とした楽曲を数多く発表し、声優アーティストとして高い評価を集める。2010年5月30日には初の日本武道館ワンマンライブを大成功に収め、2011年3月には「第5回声優アワード」歌唱賞を受賞。2012年2月29日にはニューアルバム「D-Formation」をリリースする。2004年にオープンしたオフィシャルブログ「minorhythm(ミノリズム)」は、現在までほぼ休むことなく毎日更新中。