ナタリー PowerPush - 茅原実里

みのりん伝説徹底検証「D-Formation」への道のり

お姉ちゃんのB'z好きを受け継いで

──今につながる、音楽への目覚めについて教えてください。最初に好きになった、ルーツミュージックと言える音楽は?

最初はフォークソングですね。お父さんが家でギターを弾きながら昔の曲を歌っていて。車の中でよく流れていたカセットテープは、アリスさん、かぐや姫さん、甲斐バンドさんとか。

──茅原さんと言えば、ファンの間では大の尾崎豊好き、B'z好きとして有名ですが、B'zはフォークからはだいぶかけ離れてますよね。

インタビュー写真

そうですね(笑)。B'zはお姉ちゃんが大好きだったんです。すごく好きでCDも全部持ってて。いい曲を集めたカセットテープをもらったりして聴いてたんですね。でもあるとき、家に泥棒が入りまして。お姉ちゃんのCDが全部盗まれちゃったんですよ!

──B'zのCDをピンポイントで!?

いや、家電とかいろいろ盗まれたんですけど、その中にB'zのCDもあって。お姉ちゃんはそれがあまりにショックで、B'zのファンを辞めてしまったんですよ(笑)。それを私が自然と受け継いだみたいな。それから私がCDを全部集め直して。ファンレターも書いたりしましたね。

──尾崎豊とB'zから受けた影響は、今の自分の音楽にもつながっていますか?

そうだなー。あると思うんだけどな。尾崎さんは自分の人生そのものを音楽にされているので、そういう部分は見習いたいなと思いますね。自分で歌詞を書くことも増えていく中で。あそこまで丸裸にはなかなかなれませんけど、少しでも自分の素の部分、伝えたいメッセージがリアルに伝えられるようになれたらなって思いますね。うん。B'zはどうなんだろう……。

──あのエンタメ性でしょうか。

うーん、ただただ好きなんだよなー。稲葉(浩志)さんの声と、まっちゃん(松本孝弘)のギターが。男性としての魅力があって。恋してたんだと思います。

──お姉さんから奪った恋ですよね。

うふふふ。カッコよかったからなー。圧倒的な存在でしたね。学生の頃はライブに行けなかったから、ツアーの日程を見て「今日の6時からどこどこでライブだ」ってわかると、泣いてました(笑)。切なくて。ヘンでしょう? 恋してたんですよ(笑)。

“紅みゆな”の挫折、歌へのめざめ

──尾崎やB'zに夢中になったことが「歌手になりたい」という目標に直結しているわけではないんですよね。

はい。その頃は全然。歌を歌うことは好きだったけど、その前にマンガ家になる目標が強くて。私は「マーガレット」(集英社)が大好きで「絶対『マーガレット』からデビューする!」って決めてたんです。進路を決める三者面談で「マンガ家になります」って言って先生を困らせたり。高校受験シーズンにもかかわらず作品を描いて応募したんですけど、落選しちゃって。それがショックすぎて、マンガ家の道をあきらめてしまったんです。高校に入ってから描けばいいのに、そこで完全にあきらめてしまって。思い込みが激しいのかなと思うんですけど。

──でもマンガ家を目指す人の中でも、1本の作品として仕上げることができないまま挫折する人がほとんどですよ。ギターで言う「Fの壁」みたいな大きな一線があると思うんですけど、そこはクリアして応募までしているんですよね。……ちなみに、差し支えなければ当時のペンネームを教えてもらえますか?

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「紅みゆな」でした(笑)。なんなんでしょうね。由来はないんですけど、カッコいいかなと思って(笑)。でも結局マンガはあきらめて、高校生活を送ってたんです。それで、高校3年生の頃かな? 文化祭のカラオケ大会で「人数が足りないから出てほしい」って先生に頼まれて、出ることになったんですよ。そしたら優勝しちゃって。お菓子をいっぱいもらったんです(笑)。ワーイってよろこんでたら、他のクラスの子が私のところに来て「茅原さんの歌、すっごく良かった。感動した」って笑顔で言ってくれたんです。それが大きなきっかけですね。

──そのとき歌った曲は?

T.M.Revolutionさんの「THUNDERBIRD」です。先生にお願いされてから当日までずっと練習して。私は人見知りで人付き合いも苦手だけど、「私が歌うと笑ってくれる人がいる」ってすごいことだなって。その頃は人生の希望が何もなかったので、もうマンガ家目指してた頃と一緒で、そこからは一直線ですね。

──引っ込み思案な性格と、いざ行動に移したときの振れ幅が常にすごいですよね。

うん、全然違いますね。なんなんでしょうね(笑)。自分でもよくこんな仕事できてるなと思います。それは不思議ですね、いまだに。

長門有希が新たな世界に導いてくれた

──「茅原実里」という名前を知るきっかけとして、アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門有希役はやはり大きいと思います。僕もそれがきっかけでまず声優としての茅原さんを知って。それからすぐに長門有希のキャラクターソングを買って、さらにインターネットラジオ「茅原実里のradio minorhythm」を聴いたのですが、長門有希の声、歌手としての歌声、ラジオでのしゃべり口がどれもバラバラで(笑)、初めはすごく戸惑いました。どれが本物の茅原さんなんだろうと。

それはよく言われますねー。音楽を聴いてライブに来たら「なんだこのMCは?」みたいな。

──自分の中ではどういうバランスで捉えてるんですか?

あんまり考えてないですね(笑)。歌うときとしゃべるときで自然と切り替わるので、それが素なんだと思います。

──KING RECORDSからの歌手デビューから少し間を空けて、この長門のキャラソンを機にLantisから歌手としての活動が本格化したわけですが、スタッフのみなさんは歌手としての茅原さんをその頃どのように見て、どのような戦略を立てたのでしょうか?

瀬野大介(Linkarts代表取締役) 長門のキャラソンがすごく良くて、事務所側からレーベルに話を持ちかけたんです。Lantisのプロデューサー斎藤(滋)さんも興味を持ってくれて。以前にKING RECORDSさんから出したアルバム「HEROINE」(2004年12月発売)の中に入っていた「マリオネット」という曲があるんですけど、斎藤さんからはこの路線が合ってるんじゃないかとアドバイスをもらって、そこからソロ作品の制作が始まりました。

──非常に独特な歌声だと思うんですね。線の細さとパワフルさが不思議なかたちで両立しているような。ご自身ではこの声をどう捉えていますか?

コンプレックスは大きいですね。元々線が細くて、あまり深みのない声だなとずっと思ってました。自分の歌だと説得力を出すのが難しいなって。でも、Lantisさんと作り始めた音楽は、自分の声質が活かされるサウンドを作ってもらっているなと感じます。

──声質を優先していくうちに音楽性が固まってきたと。

やっぱり長門有希の「雪、無音、窓辺にて。」が大きかったですね。

瀬野 ファンの反応も良かったんですよ。当時、水樹奈々さんの活躍で「声優アーティスト」という存在が注目され始めましたけど、茅原実里をどういうアーティストとして打ち出すかを考えたとき、やっぱりオンリーワンになられないといけないと思ったんです。「HEROINE」は明るくてかわいい声優・茅原実里からイメージできる楽曲が詰まったアルバムでしたけど、個性を探し求めているとき、「雪、無音、窓辺にて。」という曲で透明感と広がりのある歌声が生まれた。長門有希が新たな世界に導いてくれたような印象がありますね。

──茅原さんにとって、長門有希はどういう存在ですか?

声優としてデビューした後もなかなかうまくいかないことだらけで、歌手活動もうまく進まなくて。もう一度自分を見つめ直そうと、中学のときに少しかじったギターを持って路上で歌い始めた頃に「涼宮ハルヒの憂鬱」への出演が決まったんですね。でも、それまで有希みたいなキャラクターを演じたことがなかったから、初めは「なんで私が?」と思ってたんですよ。今となっては不思議な巡り合わせだなと思います。有希に出会ってなかったら絶対に今の私はいなかったですし。自分の人生を変えてくれた存在ですね。

ニューアルバム「D-Formation」/ 2012年2月29日発売 / Lantis/GloryHeaven

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  • Blu-ray Disc Formation [CD+Blu-ray] / 6300円(税込)/ LASA-35115~6
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  • DVD Formation [CD+DVD] / 3800円(税込)/ LASA-35117~8
  • 通常盤
  • 通常盤[CD] / 3000円(税込)/ LASA-5115
CD収録曲
  1. D-FORMATION
    [作詞:松井洋平 / 作・編曲:A-bee]
  2. Dream Wonder Formation
    [作詞:松井洋平 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)/ Additional Sound Editing by A-bee]
  3. 嘘ツキParADox
    [作詞:奥井雅美 / 作・編曲:高瀬一矢]
  4. Metamorphosing Door
    [作詞:こだまさおり / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)]
  5. Planet patrol
    [作詞:畑亜貴 / 作・編曲:渡辺和紀]
  6. KEY FOR LIFE
    [作詞:こだまさおり / 作曲:藤末樹、YUMIKO / 編曲:藤末樹]
  7. この世界のモノでこの世界の者でない
    [作詞:石川智晶 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)]
  8. X-DAY
    [作詞:茅原実里 / 作曲:Tatsh / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  9. Defection
    [作詞:奥井雅美 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)]
  10. 暁月夜(あかつきづくよ)
    [作詞:茅原実里 / 作曲:俊龍 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)/ Strings Arrange:室屋光一郎]
  11. TERMINATED
    [作詞:畑亜貴 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)]
  12. アイノウタ
    [作詞:茅原実里 / 作曲:中沢伴行 / 編曲:中沢伴行・尾崎武士]
  13. 夢のmirage
    [作詞:茅原実里 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)]
  14. Freedom Dreamer
    [作詞:茅原実里 / 作・編曲:菊田大介(Elements Garden)]
Special Live Disc(Blu-ray Disc / DVD共通)
「Minori Chihara Acoustic Live 2011」(2011.11.20収録)
  1. 純白サンクチュアリィ
  2. MC-1
  3. Say you?
  4. KEY FOR LIFE
  5. TERMINATED
  6. MC-2 ~メンバー紹介~
  7. 巡り逢い~かげがえのないもの~
  8. PRECIOUS ONE
  9. Fragment ~Shooting star of the origin~
  10. MC-3
  11. 君がくれたあの日
  12. 詩人の旅
  13. ふたりのリフレクション
  14. MC-4
  15. Sing for you

[ENCORE]

  1. MC-5 ~Band呼び込み~
  2. 一等星
  3. ENDING
茅原実里(ちはらみのり)

2004年4月にテレビアニメ「天上天下」棗亜夜役で声優としての活動を始め、同年12月にはアルバム「HEROINE」で歌手デビュー。2006年4月より放送されたアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門有希役で一躍注目を浴び、平野綾、後藤邑子と共に歌った同アニメのエンディングテーマ「ハレ晴レユカイ」は大ヒットによりゴールドディスクに認定された。2007年1月にはLantisより発売されたシングル「純白サンクチュアリィ」を契機に、本人名義による音楽活動を再開。以降、アニメソングを中心とした楽曲を数多く発表し、声優アーティストとして高い評価を集める。2010年5月30日には初の日本武道館ワンマンライブを大成功に収め、2011年3月には「第5回声優アワード」歌唱賞を受賞。2012年2月29日にはニューアルバム「D-Formation」をリリースする。2004年にオープンしたオフィシャルブログ「minorhythm(ミノリズム)」は、現在までほぼ休むことなく毎日更新中。